英国議会の混乱

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Brexit予定日まで1カ月となった。

最高裁の判決を受け、英議会は9月25日に再開されたが、離脱派と残留派の舌戦がエスカレートしている。

最高裁判断について所感を述べるジョンソン首相に対し、最大野党・労働党の議員らから「投獄しろ」「詐欺師」などの厳しいやじが飛んだ。

ジョンソン首相は「離脱期限延期法」を「EUへの降伏法」などと批判して応酬した。

労働党女性議員は、2016年の国民投票の直前、極右思想や白人至上主義に感化された男に殺害されたEU残留派の同党女性下院議員 "Jo" Cox に言及し、議員たちの安全確保のためにも「穏当な言葉」を使うよう首相に訴えたが、首相は「追悼するには何より(中略)ブレグジットを実現することが一番の方法だと思う」と述べ、残留派の怒りと反発を呼んだ。

英下院議員を標的とした脅迫や嫌がらせの通報が増加しているという。

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Brexitが難航しているのは、離脱後の英国とアイルランドの国境管理の問題である。

北アイルランド紛争の関係で、北アイルランドとアイルランド共和国の間には国境を設置しないことで合意している。

しかし、EU側は、EU制限物品が外国から北アイルランドを経由して入るのを防止するため、工業製品、環境、農産品などに関してEU規制を適用し、通関手続きはEU関税法典に従うことを求めている。

現在の合意案は、2020年末までの移行期間を置く、その間に解決策が出なければBackstop案に移り、英国はEUのルールから外れることができない。英国が提案してもEUが了承しない限り、英国が永遠にEU関税同盟に残ることとなる。

Brexitの問題の根源 

ジョンソン首相は就任後、EUにバックストップ条項の修正を求めたが、EU側は一貫して、バックストップ条項が含まれる協定は再交渉しないとしている。メルケル首相は、「バックストップ条項」の代替案を示唆したが、実現可能な計画を提案するのはイギリス次第だと釘を刺した。

しかし、現時点で代替案の検討が進んでいる兆しはない。

問題は、EU残留派と離脱派が拮抗していることと、英国とアイルランドの国境管理に案がないことである。

離脱延期法案(離脱日を2020年1月末に延ばす)は通ったが、2020年1月末までに案がまとまる可能性はほとんどない。

このままでは、首相が公言している「合意なき離脱」の可能性が極めて高い。

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不思議なことに、この問題は英国にとって重大問題であるのに、議会が全く機能していない。

4月11日にBrexitが10月31日に延期されたが、6カ月と20日の延長に過ぎない。

しかし、その短い期間に、保守党の党首選挙で2か月、夏季休暇で5週間、議会は議論をせず、さらにジョンソン首相は5週間の休会を決めた。

党首選挙はやり方が決まっているが、当初から結果は予想されており、特例で早くきめるべきであった。非常事態に夏季休暇は棚上げすべきであろう。

最高裁の判決で9月25日に再開はしたが、合計で3か月と3週間も休会したままである。

国民がこれを許しているのが不思議である。

2019/3/29 Brexit 予定日→4/12
4/11 Brexit 予定日→10/31 Brexit まで 6カ月と20日
5/24 メイ首相辞任発表 2か月間
実質審議なし
6/7 メイ首相辞任
6/13 新党首選挙 1回目
6/18 2回目
6/19 3回目
6/20 4回目
 ↓ 党員投票
7/23 Boris Johnson 当選
7/26 5週間 夏季休会
 ↓
9/2
9/3 再開
9/9 5週間
ジョンソン首相による一時休会
2週間強 休会
 ↓
 9/25 最高裁判決で再開
 ↓
10/13
10/31 Brexit 予定日


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国境管理の問題の究極の解決策は北アイルランドの放棄、アイルランド共和国への統合である。

1998年4月10日のベルファスト合意(聖金曜日協定)では、「北アイルランドの将来の帰属は北アイルランド住民の意思によって決定される」となっておりカトリック系の方が出生率 が高いため、北アイルランドは将来的にアイルランドへ帰属を変更する可能性が高い。

いずれ放棄するなら、いま放棄すれば、残りの英国は問題なしにEUを離脱できる。

現実的な案として、北アイルランドのみにバックストップを適用するという案が浮上しているという。

これまで英国は、この案は英国を分割するものとして反対し、その結果、バックストップ案となった経緯がある。

しかし、これにより、英国は関税同盟を抜けて、自由に他国と貿易協定を交渉することができる。そして、今までと同じように北アイルランドとの政治的関係を保つことができる。

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