英国与野党の選挙マニフェスト

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英国のジョンソン首相率いる与党・保守党は11月24日、12月12日投開票の総選挙に向けた マニフェストを公表した。

1) EU離脱問題

10月17日のEUと英国との新たな離脱協定の概要は以下の通り。

アイルランド国境をめぐる「バックストップ」は削除

英国は北アイルランドを含め、EU関税同盟から離脱。

アイルランド島の国境には物理的な関税等は設けない。

英本土から北アイルランド向けの品物はいったんEUの関税を徴収される。

北アイルランドはEU単一市場に部分的にとどまる。農産物や工業品の基準、付加価値税などでEUルールを適用

北アイルランド議会はEUルール適用を受け続けるかどうか4年ごとに判断(移行期間終了の4年後の2025年1月以降)

移行期間は2020年12月末まで

(移行期間中、イギリスはEU法に従うと共に、EU予算への拠出も継続する。一方、加盟国としての権利は失う。双方が合意すれば移行期間の延長を2年までも認められる。)

  2019/10/18 Brexitで合意


今回のマニフェストでは以下の通りとしている。

  ・2020年1月末までにEUを離脱。単一市場・関税同盟を抜ける。
  ・クリスマス前に離脱関連法案の審議を英議会で再開。
  ・離脱後、2020年末までの「移行期間」の延長はしない。

英・EUの離脱案では移行期間を2022年末まで延長できることになっている。ただ移行期間中は、英はEU域外とFTAを発効させることはできず、EU予算への拠出金の負担を強いられる 。

今回、2021年にはEUから「完全離脱」する方針を打ち出した。

2020年末までの移行期間中に英・EUで新たな自由貿易協定(FTA) をまとめられなければ、EUの単一市場や関税同盟から合意のないまま切り離され るリスクがある。

離脱後のEUとの人の移動については、以下のとおりとした。

  ・英・EU間の人の移動の自由は終了。豪州スタイルのポイント制の移民制度を導入

豪州のポイント制は下記の通り。 http://iminseisaku.org/top/pdf/journal/004/004_014.pdf

「自己評価票(Self-assessment Form)」で合計65点を超えることが求められ、高位得点者より,時々の計画定員まで入国を許可する仕組みをとっている。

項目

① 年齢と英語力 、② 移民前の実務経験 、③ オーストラリアでの実務経験、④ オーストラリアで得た教育・技能資格等 、⑤ プロフェッショナルイヤー 、⑥ 申請者の学歴、⑦ 申請者のオーストラリア留学経験、⑧ 指定言語による資格・教育(出身国)、⑨ 非都市地域でのオーストラリア留学・実務経験 、⑩ 申請者のパートナー技能年齢・教育・資格 、⑪ スポンサーの有無(企業・家族・州・準州など)

2) そのほかの政策

・議会解散に下院総議員の3分の2以上の賛成が必要な法律の撤回

下院の任期は法律(Fixed-Term Parliament Act)で固定化されており、解散総選挙には、下院(定数650)の3分の2以上 (434) の賛成が必要

今回、9月4日、9月10日、10月28日に否決され、10月29日に2019/12/12に総選挙を行うという別の法律を通し、議会を解散した。

2019/10/30 英、12月12日に総選挙へ 

・国民医療制度(NHS)への支出を大幅に増額。看護師を5万人増員 、警官増員 2万人

Extra funding for the NHS, with 50,000 more nurses and 50 million more GP surgery appointments a year.
20,000 more police and tougher sentencing for criminals.

・債務をコントロールしつつ、科学、教育、訓練、インフラに投資

・温暖化ガス排出を2050年までに実質ゼロに

Reaching Net Zero by 2050 with investment in clean energy solutions and green infrastructure to reduce carbon emissions and pollution.

・所得税や消費税の引き上げはしない。法人税率の引き下げを延期

We will not raise the rate of income tax, VAT or National Insurance.

労働党とスコットランド国民党(SNP)が組み、選挙で勝てば、2020年にはBrexit(英国のEU離脱)とスコットランドの英国離脱の2つの国民投票を2020年に行うことになると脅している。

SNPのスタージョン党首は、どの政党も単独過半数を確保できなかった場合、野党第1党の労働党と協力する可能性を示唆し、その条件として、スコットランド独立を巡る住民投票の再実施を求めている。

スコットランドは2014年に独立投票を行い、わずかに英国残留が上回った。

市民の多くは、英国から独立したスコットランドがEUに残留または再加盟することを望んでいる。

2019/4/25 スコットランド首相、独立問う住民投票再実施 目指す

労働党はこの条件を肯定も否定もしていない。

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英国の最大野党・労働党は11月21日、総選挙に向けたマニフェストを発表した。

労働党の内部にはBrexit賛成派とEU残留派があり、対応に苦慮した。

その結果、賛否は明らかにせず、基幹産業の国営化やBrexitの是非を問う国民投票の再実施など、社会変革を目指した「最も徹底的かつ意欲的な」計画を公約に掲げた。

公共サービス部門への大型投資や企業改革、週32時間労働の導入の他、鉄道・水道・エネルギーおよびブロードバンド網の国有化を盛り込んだ。

これまで、「気候の緊急事態」(Corbyn党首)と呼ぶ事態に対応するため「緑の産業革命」を明言しており、新規雇用や新業種で地球温暖化対策に焦点を当てることを打ち出している。

EU離脱問題については、政権掌握から6か月以内にEUと新たな離脱協定をまとめ、英国のEU加盟をめぐり二度目の国民投票を実施するとしている。

Corbyn党首は、「最終的な決断を下すのは英国民だ。どんな投票結果となっても、われわれの政府はそれを実行する」と語った。

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ブレグジット党はイギリスのEU離脱を掲げて2019年1月に発足したばかりで、下院に議席を持っていない。5月に行われた欧州議会選挙では得票率30%と大きく躍進した。

2019/5/29 欧州議会選挙で英国の与党と最大野党が敗北 

今回、ブレグジット党は、与党・保守党が議席を持っている317選挙区に立候補者を立てない方針を明らかにした。

当初は600選挙区で候補を擁立する方針だったが、離脱派の票を割るのを避けるため、転換した。ファラージ党首は、最大野党・労働党はEU離脱派の有権者を「裏切った」と批判し、労働党の議席を狙うと述べている。

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