大日本住友製薬は10月31日、米国のRoivant Sciences との間で、戦略的提携に関する正式契約を締結した。
本戦略的提携には、Roivant の子会社 5 社の株式取得、他の子会社 6 社の株式取得に関するオプションの獲得、Roivant 株式の 10%以上の取得、ヘルスケアテクノロジープラットフォームの取得が含まれている。
具体的な取得対象は後記の通りで、大日本住友製薬は対価として総額30億ドルを支払う。(子会社5社を含めた新会社に 20億ドル、Roivantの株式 に10億ドル)
大日本住友製薬が米国で年約1800億円を販売する主力薬「ラツーダ」の 物質特許は本年1月2日に失効した。
しかし、用途特許や製剤特許はなお有効であり、昨年12月に後発薬各社との間で和解が成立し、後発薬の登場を2023年2月以降に4年遅らせることに成功した。
2019/1/25 大日本住友製薬、主力薬「ラツーダ」の特許で 後発薬各社と和解
この間にラツーダの後継を育てることが事業存続のために必須である。
対策の一環として、大日本住友製薬は2012年4月25日、米国のBoston Biomedical Inc.の買収を完了した。
Boston Biomedical は癌領域を専門とするバイオベンチャー企業で、癌幹細胞への抗腫瘍効果を目指して創製された低分子経口剤であるBBI608 (ナパブカシン)及びBBI503 の2 つの有力な開発パイプラインを有している。
2012/3/3 大日本住友製薬、米国医薬品会社Boston Biomedical を買収
しかし、2019年7月2日、同社はナパブカシンの膵がん患者を対象としたフェーズ3試験の中止を発表した。(結腸直腸がんの試験は続行中)
今回、多額の投資を行い、ポスト・ラツーダ候補品目に加え、初期パイプライン、ヘルスケアテクノロジープラットフォームおよび人材を獲得し、持続的成長の実現に向けてグループ全体の大変革を実現する。
ーーー
Roivantは2014年に設立された非上場企業で、機敏性と起業家精神を重視し、領域や化合物ごとに「◯◯vant」と呼ぶ子会社を複数設立している。
現在、テクノロジーを活用したプラットフォーム、臨床および非臨床開発段階にある45以上の開発中の医薬品、複数のヘルスケアテクノロジーを備えた20のVantsで構成されている。
Roivantのビジネスモデルは、ほかの製薬企業が戦略的な理由で開発を中止した化合物を譲り受け、開発を進めるというもの。例えば、今回の提携で大日本住友が獲得するレルゴリクスは武田薬品工業が、ビベグロンは米メルクが創製した化合物。
創業者Vivek Ramaswamy はヘッジファンドに勤めている際に製薬会社が多額のコストと時間をかけて開発している新薬を途中でやめてしまう事が多いことを知り、他企業が中断した新薬技術を買い取りロイヤリティの取り決めをした上で新薬を開発するビジネスモデルを思いつき、同社を立ち上げた。
膨大な公開データベースからAIを用いて新薬候補、作用機序、エンドポイントのデータを調べチャートを作る「薬群マッピング」戦略で開発薬を絞込みと商業的実用化の可能性を探る。次に製薬会社と交渉し、契約がまとまると子会社が開発を続行する。
ソフトバンクグループは2017年5月20日、サウジアラビアなどと共同で10兆円規模の投資ファンド SoftBank Vision Fundを発足させた。
Roivantは2017年8月、11億ドルの出資を受けると発表したが、その大半はSoftBank Vision Fundによるもので、おそらくはバイオテック企業への史上最大の単一出資である。
図のソース https://answers.ten-navi.com/pharmanews/16908/
具体的な取得対象は次の通り。
①下記の子会社5社の株式とヘルスケアテクノロジー等に関わる人材を移管した新会社を取得する。
初めの2社は上場しており、Roivant持ち株を全て取得(Myovantは46%保有だが、Roivantが50%超にした上で取得)
取得比率 Myovant Sciences Ltd.
NYSE上場50%超 婦人科および前立腺がん レルゴリクス、MVT-602など Urovant Sciences Ltd.
NASDAQ上場75% 泌尿器 ビベグロン、URO-902など Enzyvant Therapeutics Ltd. 100% 小児希少疾患 RVT802、RVT-801など Altavant Sciences Ltd. 100% 呼吸器系希少疾患 Rodatristat ethylなど Spirovant Sciences Ltd. 100% 嚢胞性線維症遺伝子治療 SPIRO-2101、SPIRO-2102など
これらの5社は合計9品目の有望な開発パイプラインを有し、2019年度から2022年度までの間に米国で複数の製品の承認取得が期待されている。
このうちレルゴリクスおよびビベグロンはブロックバスターになることが期待される。
Roivant に残る子会社のうち 6 社の株式を取得するオプションを取得し、2024 年までの期間中、各子会社に対する当該オプションを行使することができる。
Dermavant Sciences Ltd. 乾癬対象にフェーズ3試験を、アトピー性皮膚炎を対象にフェーズ2試験を実施中 Genevant Sciences Ltd. RoivantとArbutus Biopharma CorporationとのJV
脂質ナノ粒子 (LNP)およびリガンドコンジュゲートデリバリープラットフォームを利用した核酸医薬品を開発Sinovant
(Roivant China Holdings Ltd.)中国の市場ニーズに合致したパイプライン(抗がん剤、感染症治療薬など) Cytovant
(Roivant Asia Cell Therapy Holdings Ltd.)T細胞受容体をターゲットとした樹状細胞を利用した細胞治療 Lysovant Sciences Ltd. 感染症領域の生物学的製剤の開発 Metavant Sciences Ltd. 慢性腎臓病を伴う糖尿病を対象としたフェーズ1b試験を完了
また、Roivant が有するAxovant Gene Therapies, Ltd.の株式に関する先買権(right of first refusal)も取得する。
②Roivantの株式の10%以上を取得
③Roivantのヘルスケアテクノロジープラットフォーム取得
RoivantのヘルスケアテクノロジーのDrugOmeおよびDigital Innovationを取得
④Roivantの子会社が開発したヘルスケアテクノロジーの利活用に関する業務提携
Roivantグループのヘルスケアテクノロジー子会社 Datavant, Inc.(外部の複数のヘルスケア関連データを匿名化のうえで連結、分析)、Alyvant, Inc.(営業活動の効率化)が提供するサービスを利用
コメントする