製薬大手の米Merckと仏Sanofi、癌治療薬メーカーを買収 

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米Merckと仏Sanofiは12月9日、別々に、がん治療薬を手掛ける同業の買収を発表した。

米Merck (ドイツのMerckと区分するため、米加以外での社名は MSD )は中堅の米国のArQule を27億ドルで、Sanofiは米の新興メーカー Synthorxを25億ドルで買収する。

前者は時価総額の1.32倍、後者は2.82倍と、大幅なプレミアムをつけた買収である。売り手市場となっている。

1) Merck / ArQule

ArQule は多種の癌と非腫瘍学的兆候に関与する生物学的経路に焦点を当て、治療法の研究・開発を行うバイオ医薬品会社である。

臨床段階のパイプラインは、標的とされる患者集団に属する約4つの候補薬から成り立つ。

「ARQ 531」は野生型およびC481S変異型のブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)の強力且つ可逆的な二重阻害剤である。
「ARQ 092」はプロテインキナーゼB(AKT)、セリン/スレオニンキナーゼの強力で選択的な阻害剤である。
「ARQ 751」は、AKTの強力且つ選択的な阻害剤で、AKTを保有する固形腫瘍、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)の臨床開発段階にある。
「ARQ 087」は、線維芽細胞を優先的に阻害するよ
うに設計されるマルチキナーゼ阻害剤である。

Merckは特に「ARQ 531」を重視している。


なお、第一三共は2008年11月にArQule との間で抗がん剤の研究開発で提携することに合意した。
契約一時金は計7500万ドルで、第一三共が重点領域とするがん治療領域の研究開発パイプラインの強化が狙いである。

ArQuleが米国で開発中の固形がんを対象とするARQ197のアジアの一部(日本・中国・韓国・台湾)を除く全世界での開発および販売権を取得するライセンス契約と、ArQuleが所有する新規キナーゼ阻害薬を探索する技術(AKIP)を用いた共同研究契約からなる。

ARQ197は、肝細胞増殖因子HGFの受容体であるc-Metを選択的に阻害する新規機序の低分子化合物。

第一三共は2015年12月の報告で、ArQuleとの提携による肝細胞癌治療薬チバンチニブ(ARQ197)に期待を示しているが、2017年2月に、第3相臨床試験において、全生存期間の延長を達成することができなかったと発表した。

2) Sanofi / Synthorx

自然界のすべての生物の遺伝子情報は、A、G、C、Tの4種類の文字で表わされるが、Floyd Romesberg博士が率いるサンディエゴにあるScripps Research Instituteと博士が設立したSynthorxの研究チームが、自然界には無い2種類の遺伝子文字を追加した細菌を作成し、異質なたんぱく質を作り出すことに成功した。

博士は、「地球上の多様な生命はたった2つの塩基対、A-TとC-GからなるDNAでコードされている。われわれが作成したのは、この2対に加えて第3の人工の塩基対が安定して組み込まれた生物だ」と述べた。

Synthorxのプロジェクトの1つでは、抗がん剤「インターロイキン-2」の新しいバージョン(THOR-707)を作ることを目指している。インターロイキン-2は複数の厄介な副作用を伴うが、半合成のバクテリアが鍵となるポイントにおいて普通で無い成分に入れ換えることで、問題を解決できるかもしれないとされる。

Sanofiはこれを大きく評価しており、これと同社の製品とのコンビネーションを期待している。

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Sanofiは買収資金を確保するため、提携相手の米Regeneron Pharmaceuticalsの株式を売却する可能性があることを明らかにした。

Sanofiはまた、血友病や乳がん、多発性硬化症、希少疾患など6つの有望な治療分野に照準を定め、糖尿病と心臓疾患の研究をやめ、生産性を高めることで2022年までに20億ユーロの節減を見込むことを明らかにした。

「画期的なイノベーションがより難しくなりつつあり、効率を高めてチャンスのある分野に経営資源を投入する必要があることを認識している」としている。

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