福島第一原発処理水の処分、海洋・大気放出に絞る

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経済産業省は12月23日、東京電力福島第1原子力発電所にたまる汚染水の処理水に関する小委員会(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会)のとりまとめ案を公表した。

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/010_haifu.html

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東京電力福島第1原子力発電所では、過去8年間、損壊した原子炉の建屋からは毎日、約200トンの放射性物質に汚染された水をポンプでくみ出している。

汚染水に含まれるほとんどの放射性同位体は、複雑な浄水システムで除去されている。しかし、放射性同位体の1つであるトリチウムは除去が不可能のため、汚染水は巨大タンクに貯水されている。

トリチウムは、質量数が3、すなわち原子核が陽子1つと中性子2つから構成される水素の放射性同位体で、半減期は約12年。通常の水とトリチウム水には化学的な差がほとんどなく分離が難しい。

2019/9/21 原発処理水問題

東電は放射性物質を取り除く専用装置で汚染水を浄化した処理水をタンクにためてきた。原発敷地内のタンク960基に約115万トンを保管しているが、2020年末までに137万トン分のタンクを確保する見通しである。(これでタンク建設用地は無くなる。)

汚染水は2018年度には1日平均約170トン発生したが、2020年中に同150トンまで減らす。仮にこれを達成できても、2022年夏~秋にはタンクが満杯になる。

処分の実施までの期間を考えると、待ったなしである。

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小委員会では5つの処分方法を検討してきたが、薄めて海に流す「海洋放出」と蒸発させて大気中に出す「水蒸気放出」という前例のある方式に絞り込んだ。


技術的成立性 規制成立性 期間 コスト
①水蒸気放出 ボイラーで蒸発させる方式はThree Mile Island -2号炉の事例あ 現状で規制・基準あり 120か月 349億円
②水素放出 処理やスケール拡大等について、技術開発が必要な可能性 現状で規制・基準あり 106カ月 1,000億円
③海洋放出 海洋放出の事例あり(下図) 現状で規制・基準あり 91か月 34億円
④地下埋設 コンクリ ートピット処分、遮断型処分場の実績あり 新たな基準の策定が必要な可能性 98か月
監視 912カ月
2,431億円
⑤地層注入 適切な地層を見つけ出すことが必要。
適切なモニタリング手法が確立されていな
処分濃度によっては、新たな規制・基準の策定が必要 104+20 x Nカ月
監視 912カ月
180+6.5 x N億円
+監視
 Nは地層調査の実施回数



1979年の爆発事故のThree Mile Island
-2号炉では汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ水について、近くの川への放出が検討されたが、下流域の住民が反発した。このため1991年から93年にかけて約9000トンを蒸発させ大気中に放出処分した。

トリチウムを含む水は薄めて海に流すことが国際的に認められている。

海洋放出を問題視している韓国でも、月城原発が2016年に液体で17兆ベクレル、気体で119兆ベクレルを放出しており、古里原発も2016年に液体で36兆ベクレル、気体で16兆ベクレルを放出した。


小委員会の説明:

これまで 前例のない三つの肢(地層注入、水素放出、地下埋設)は、規制的、技術的、時間的な観点からより現実的な選択肢としては課題が多い。

地層注入:適した用地を探す必要があり、モニタリング手法も確立されていない。

水素放出:前処理やスケール拡大等について、更なる技術開発が必要となる可能性があるほか、水素爆発の可能性が残る。

地下埋設:固化による発熱があるため、水分の蒸発(トリチウムの水蒸気放出)を伴うほか、新たな規制の設定が必要となる可能。

こうした課題をクリアするために必要な期間を見通すことは難しく、時間的な制約も考慮する必要がある。


こうした中、前例のある海洋放出、水蒸気放出に焦点を絞り、海洋放出を実施するケース1、水蒸気放出を実施するケース2、海洋放出及び水蒸気放出を実施するケース3に分類して処分方法の検討を行ってはどうか

海洋放出と水蒸気放出について被ばく影響を行った結果、仮にタンクに貯蔵されているALPS処理水を1年間で処分を行ったとしても、自然放射線による影響の千分の1以下になる。

しかし、海洋放出により水産業や観光業に風評への影響が生じうることから、 処分方法について、幅広い関係者の意見を踏まえて決定すべきである。
また、 処分する際には、徹底した風評被害対策が必要となる。特に、福島県の試験操業の漁獲量は震災前と比較して2割も回復していない状況であり、特段の配慮を行うことが必要となる。

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福島第一原発の廃炉作業について3回目の調査を行っていたIAEA(国際原子力機関)の調査団は2015年2月17日、調査報告書を発表した。そのなかで、汚染水を処理したあとのトリチウムを含んだ水について、国の基準以下まで薄めて海に放出することも含め検討する必要があるという考えを示した。

調査団のJuan Carlos Lentijo団長は記者会見で、汚染水対策が直近の課題だとした上で、以下のとおり述べた。

環境への影響がほぼ無視できることが確認されれば、管理した上で(国の基準以下まで薄めて)海へ放出することは、福島第一原発の状況を大幅に改善できる有力な選択肢だ 。
海洋放出は(人や環境に)ほとんど影響しない。
濃度が国際的な基準値以下のトリチウム水を海に流すことは世界中の多くの原発で行われている。

実際の海洋放出にあたっては、漁業関係者や地元住民による受け入れや丁寧な放射能モニタリングが欠かせない。

原子力規制委員会の田中俊一委員長(当時)は2013年9月2日、日本外国特派員協会で講演し、汚染水問題への対応で、放射能濃度を許容範囲以下に薄めた水を海に放出する必要性を強調した。

2015/2/20 IAEA調査団の福島第一原発・廃炉作業の調査報告書 

今回の結論は以前から分かっていたが、風評被害を恐れ、ずるずる延ばしにしてきた。この結果、処理すべき水の量が大幅に増えた。
最終決定まで、更に時間がかかると思われる。


韓国は汚染水処理問題を国際社会で繰り返して問題視している。

これに対し、12月24日に四川省成都で開かれた日韓首脳会談で、安倍首相が文在寅大統領に、「福島をいじめるのもいいかげんにしてほしい」と話したと報じられた。

首脳会談直後、岡田直樹・官房副長官は記者会見で「福島原発の処理水に関して、今まで国際社会に情報提供をしてきており、その方針は今後も変わらない」という安倍首相の発言を紹介した。あわせて「韓国側に対応を自制するよう要請した」と明らかにした。

(韓国中央日報が読売新聞を引用して報道)

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