液体のり成分ポリビニルアルコールでがん治療効果向上 

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東京工業大学 科学技術創成研究院は1月23日、化学生命科学研究所の野本貴大助教と西山伸宏教授の研究グループが、液体のりの主成分であるポリビニルアルコールを中性子捕捉療法用のホウ素化合物(ボロノフェニルアラニン=BPA)に加えるだけで、その治療効果を大幅に向上できることを発見したと発表した。

さらに、京都大学研究用原子炉にて、マウスの皮下腫瘍に対するその治療効果を検討した結果、ほぼ根治することを確認した。

本研究成果は2020年1月2日に米国の「Science Advances」に掲載された。
   https://advances.sciencemag.org/content/6/4/eaaz1722

本研究の臨床応用を目指し、がん治療法に使う薬BNCTを開発しているステラファーマの協力を得て研究を進める。

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ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素(10B)に対して熱中性子(エネルギーの低い中性子で、単独では細胞傷害性がほぼ無い)を照射することにより核反応を起こし、細胞傷害性の高いアルファ粒子とリチウム反跳核を発生させて、それによりがんを治療する方法である。

従来の方法では治療することが困難な再発性のがん、多発性のがんに対しても有効で、 「手術」、「化学療法」、「放射線治療」、「免疫療法」に続く、第5のがん治療法として大きな期待を集めている。

現在、臨床で主に使用されているホウ素化合物はボロノフェニルアラニン(BPA)という物質で、選択的にがんに集積することができる。BPAの臨床試験はステラファーマが行っている。

しかし、BPAはがんに長期的に留まることができず、その滞留性を向上させることが強く望まれていた。

がん細胞では細胞膜上にLAT1というアミノ酸を取り込むためのタンパク質がある。

LAT1は細胞外のBPAを取り込む際に細胞内のアミノ酸を排出するが、チロシンなどの細胞外のアミノ酸を取り込む際に細胞内のBPAを排出することもある。その結果、細胞外のBPA濃度が低下すると細胞内のBPAが流出してしまう現象が起きる。

野本助教と西山教授は、スライムの化学を利用してポリビニルアルコールにBPAを結合することにより、結合させた物質ががん細胞に選択的かつ積極的に取り込まれ、その滞留性を大きく向上できることを発見した。

洗濯のりとホウ砂を混ぜるとスライム(粘液)ができる。これはホウ砂から生じるホウ酸イオンが化学反応により複数のポリビニルアルコールをつなぐためで、この化学反応を応用した。

ポリビニルアルコール(PVA)は、多くのジオール基を持っており、このジオール基はホウ酸やボロン酸と呼ばれる構造と水中でボロン酸エステル結合を形成することができる。

BPAをPVAに結合させたところ、PVAに結合したBPA(PVA-BPA)は細胞に取り込まれる。従来のBPAが細胞質に蓄積するのに対し、PVA-BPAはエンドソーム・リソソーム(細胞内小器官)に局在するようになった。

その結果、がん細胞に取り込まれるホウ素量が約3倍に向上し、細胞内で高いホウ素濃度を長期的に維持することが可能となった。


最近の臨床研究においては、BNCTの普及を目指した加速器型中性子線源が主流になっている。しかし、現状の加速器型中性子線源による熱中性子の産生量では、浅い部位のがんに適応が限定されると考えられている。

治療の適応を深部まで拡げるためには、がん組織内のホウ素濃度を長期的に高く維持することが求められており、この点において本研究成果のPVA-BPAは大きく貢献できるものと期待される。

PVA-BPAは製造が容易である上に治療効果も非常に優れていることから本研究成果は極めて実用性が高いと考えられる。

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