デンカ、米国でクロロプレンで訴えられる

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デンカは2月14日、米国子会社 Denka Performance Elastomer がDuPontとともに複数の訴訟提起を受けたと発表した。

訴訟原因:ルイジアナ州のクロロプレン工場から排出されたクロロプレンモノマーによる身体的、財産的、精神的損害

工場は1969年にDuPontが操業を開始、2015年11月にDenka Performance Elastomer(デンカ 70%、三井物産 30%)がDuPontから取得した。

2014/12/15 DuPont、クロロプレンゴム事業を電気化学に売却 

原告:工場周辺に住む個人 累計908名

請求:前所有者のDuPontとともに、原告1人当たり5万ドルを超えない範囲の損害賠償

なお、これまでに同一内容の訴えが8件(8件の原告は合計6,308名)提起されている。


本件については、住民側の主張とデンカ側の主張が全く異なっている。

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住民側:

住民団体のリーダーが2019年9月17日、都内の日本外国特派員協会での記者会見で怒りをあらわにした。

工場の隣町に住むが、妻はがんを患い、娘は免疫異常などで働けない状態が続く。以前から体調不良を訴える住民が多かったため、工場との関連を疑っていた。

2010年のEPAの発表(2011 National Air Toxics Assessment )でこれを確信した。

EPAはクロロプレンの毒性評価を見直して「発がん性の可能性が高い("likely to be carcinogenic to humans")」とし、大気中濃度を1立方メートル当たり0.2マイクログラム以下にすることを求めた。
(これは
推奨値であり、規制値ではない。)

2015年発表の調査結果では、工場からの排出量はEPAが推奨する上限値を超え、町のがん発症リスクが全米一とされた。EPAは同工場の周辺地域を、国家大気有害物質評価(NATA)に基づき、「高い発ガンリスクのある地域」に指定した。

EPAのモニタリング調査では2019年に入ってからも工場周辺では最大で1立方メートル当たり28マイクログラムのクロロプレンを観測するなど、上限値を大幅に上回る状況が続いている。

これまで地元当局に規制に向けた目立った動きはない。周辺は黒人の多い地域で、住民は「黒人街だから、大気が汚染されてもいいというのか?」「黒人だから、癌で死んでもいいというのか?」と反発する。「環境人種差別」とされる。
癌で死んだ女性は、"We're just sitting here, waiting to die" と述べていた。

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デンカ:

デンカは工場取得後、一貫して排出基準を順守した操業を続けている。EPAや州の規制当局からの照会にも対応、従業員や地域住民と情報共有してきたほか、2017年12月には排出低減装置を導入し、大幅な排出削減を達成した 。

自発的に3,500万ドル以上を大気への排出削減技術に投資し、同工場から大気に放出されるクロロプレンモノマーの量を2014年との比較で2018年に約85%削減した。

「高い発ガンリスクのある地域」に指定した国家大気有害物質評価(NATA)のデータは発がんリスクを過大評価しており、科学的根拠にも論争がある 。
同工場の従業員を対象とした疫学調査(対象者:約1万2000人以上)では「一般人のがん死亡率より低く、クロロプレンの曝露量と発ガン性には相関性が見出せない」との結果が出ている 。

EPAはクロロプレンの影響を受けやすい雌のマウスを使った動物実験を参考にしており、評価が厳しすぎる 。

EPAに対し、生理学的薬物動態(PBPK)モデルと呼ばれる最新の科学にもとづく評価手法を提出した。
PBPKモデルでは、EPAの「大気中濃度を1立方メートル当たり0.2マイクログラム以下」の130倍高い濃度でも問題がないことになる。

本PBPKモデルの評価結果に関する論文は、2020年1月に英国の科学雑誌「Inhalation Toxicology」にも掲載された。本研究結果は、長年に亘って操業している同工場の勤務者や近隣住民の健康リスクには影響がないことを示唆する健康データとも整合して いる。


EPAはこの評価方法を受け入れ、検証する。

PBPKモデルの評価が終了次第、外部の専門家による査読プロセスに移行される予定であり、EPAによる毒性評価の見直しにはなおしばらく時間を要する見込み 。

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