東京大・医科学研究所の井上純一郎教授らは3月18日、急性膵炎の治療薬として国内で長年使われてきた点滴薬剤「ナファモスタット(商品名フサン)」が新型コロナウイルスの感染を阻止する可能性があると発表した。
ポイント:
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスの感染の最初の段階であるウイルス外膜と、感染する細胞の細胞膜との融合を阻止することで、ウイルスの侵入過程を効率的に阻止する可能性がある薬剤としてナファモスタット(商品名フサン)を同定した。
- 本年3月初めにドイツのグループはナファモスタットの類似の薬剤であるカモスタット(商品名フォイパン)の有効性を発表したが、カモスタットと比較してナファモスタットは10 分の1以下の低濃度でウイルスの侵入過程を阻止した。
ドイツ霊長類センターなどの研究班は3月上旬、新型コロナウイルスの細胞への侵入機構について細胞株を用いてin vitroで実験した結果を、「Cell」に論文投稿した。
カモスタットメシル酸塩が新型コロナウイルスのヒト細胞への感染を妨げることを培養細胞などを使った実験で確認したと報告している。
- ナファモスタット、カモスタットともに急性膵炎などの治療薬剤として本邦で開発され、すでに国内で長年にわたって処方されてきた薬剤である。安全性については十分な臨床データが蓄積されており、速やかに臨床治験を行うことが可能である。
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ナファモスタット(商品名フサン)は鳥居薬品が1986年に発売、主力製品として販売してきた。
効能・効果:
- 膵炎の急性症状(急性膵炎、慢性膵炎の急性増悪、術後の急性膵炎、膵管造影後の急性膵炎、外傷性膵炎)の改善
- 汎発性血管内血液凝固症
- 出血性病変または出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止
鳥居薬品は2019年4月1日付で日本における製造販売承認を日医工へ承継した。
カモスタット(商品名フォイパン)は、小野薬品工業が創出し、1985年に発売した。既に物質特許は切れており、国内で多数の後発品メーカーが同じ成分の薬を販売している。
付記
鳥居製薬からフサンを承継した日医工は5月18日、フサンの増産を発表した。
現在は鳥居製薬(日本たばこ産業子会社)に委託し、年65万本程度生産しているが、能力の100万本まで増産する。
別途、自社の愛知工場に40億円をかけて年内に稼働、委託分を含め能力を年300万本にする。
付記
理研は、「創薬・医療技術基盤プログラム」を設立し、企業や医療機関への橋渡しを推進しているが、本件においても、理研の持つ多方面の先端技術を用いて研究開発を支援する。
日医工は、製造販売元として、フサン®の点滴静注に関して長年にわたり蓄積してきた臨床データの提供や、本共同研究開発への原薬供給を行う。
第一三共は、抗インフルエンザウイルス薬「イナビル®」の開発で得た技術を活用して、ナファモスタットの吸入製剤化の研究開発を推進する。非臨床試験を本年7月から開始予定で、当局と協議したうえで2021年3月迄の臨床試験移行を目指す。
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ウイルスが人体に感染するには細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2受容体)に結合したのち、ウイルス外膜と細胞膜の融合を起こすことが重要である。
コロナウイルスの場合、ウイルスのSタンパク質がヒト細胞の細胞膜のACE2受容体に結合したあとに、タンパク質分解酵素であるTMPRSS2で切断・分割され、Sタンパク質が活性化されること (開裂活性化) がウイルス外膜と細胞膜との融合には重要である。
ナファモスタットは1-10 nMという低濃度で顕著にウイルス侵入過程を阻止した。
このことから、ナファモスタットはSARS-CoV-2感染を極めて効果的に阻害する可能性を持つと考えられる。
フサンは、ウイルスのSタンパク質とヒト細胞のACE受容体が結合したのち、TMPRESS2で切断されてSタンパク質が活性化されるのを阻止する。
以上から、臨床的に用いられているタンパク分解阻害剤の中ではナファモスタットが最も強力であり、COVID-19に有効であると期待される。
早ければ、今月中にも実際に患者への投与を始め、効果の検証を行う。
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