大村智博士がノーベル医学・生理学賞を受けた抗寄生虫薬の「イベルメクチン」がCOVID-19に効果があるとする報告が出た。
4月29日付のSSRN(旧称 Social Science Research Network) に "Usefulness of Ivermectin in COVID-19 Illness" というタイトルで報告された。
筆者は University of UtahのDr. Amit Patelほか。 (2月1日付でUniversity of Miami に移った。)
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イベルメクチン(ivermectin)は腸管糞線虫症の経口駆虫薬、疥癬、毛包虫症の治療薬である。
アフリカや中南米では、全身の皮膚にかゆみを起こし、視力を奪われる河川盲目症(オンコセルカ症)という寄生虫による感染症が流行していた。
1970年代には35の発展途上国で8500万人が感染の危機にあった。
Merck & Co., Inc.(米国とカナダ以外では独のMerck と区分さるため MSDの社名を使用)のDr. William Campbell は治療薬の開発を進めていたが、大村智・北里大特別栄誉教授が静岡県伊東市内のゴルフ場近くで採取した土壌から見付けた新種の放線菌「ストレプトマイセス・アベルメクチニウス」(Streptomyces avermitilis)が生産する物質を元にイベルメクチンをつくった。
イベルメクチンは、河川盲目症(オンコセルカ症)に加え、象皮病にもなるリンパ系フィラリア症、世界で数千万人が感染しているとされる糞線虫症(糞線虫が消化器官に寄生する寄生虫感染症)などにも効果があるということが分かった。
大村智特別栄誉教授とDr. William Campbell は2015年にノーベル医学・生理学賞を共同受賞した。
日本ではMSDが、腸管糞線虫症および疥癬用に商品名ストロメクトールで製造、マルホが販売する。
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COVID-19の治療薬を探すため、世界中で研究が行われている。
オーストラリアのビクトリア感染研究所の研究グループが、イベルメクチンを試したところ、新型コロナウイルスの増殖を抑え、ウイルス数を劇的に減少させる可能性があることを発表した。
研究グループは、イベルメクチンが、ウイルスのタンパク質が分子インポーチン(輸送タンパク質)と結合して核内移行 するのを抑制すること、この結果様々なウイルスタンパク質の核内移行が阻害され、エイズウイルスや、デングウイルスの増殖が低下することを見付けていた。
タイではすでに、イベルメクチンをデングウイルス治療に使う360人規模の治験が進んでおり、抗ウイルス薬としてのイベルメクチンはすでに臨床段階にある という。
グループはイベルメクチンが新型コロナウイルスにも効くのではないかと考え、細胞を使った試験をしてみた。
結果は、ウイルスの増殖が24時間で1000分の1に低下した。
これは、イベルメクチンが新型コロナウイルスのタンパク質生成を阻害し、増殖を強く抑制したことを意味する。同研究グループは、まだ細胞を使った実験室内の結果であり、さらなる研究が必要としている。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166354220302011
米国チームは、イベルメクチンは実験室でウイルスRNA複製を減らすことを確認した。
チームは2020年1~3月に、アジアと欧州と北米の169の病院からCOVID-19に感染し、治療を受けた人のデータを収集した。
イベルメクチン(150mcg/Kg)を使った704例と、使わなかった704例とを比べ、統計分析した。年齢、性別、人種、併存症、重症度評価を合わせた。
呼吸器を必要とした患者のうち、イベルメクチンを使わなかった患者は死亡率が21.3%だったのに対し、使った患者は7.3%と約3分の1にとどまった。
患者全体の死亡率は、イベルメクチンを使用した時の死亡率が1.4%で、不使用だった時(8.5%)と比べて約6分の1に抑えられた。
チームは「死亡率を減らし、入院日数を減らす効果もある。さらに研究が必要だが、治療方法の一つとして検討する材料にはなる」としている。
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トランプ大統領が新型コロナウイルスをめぐり、繰り返し、マラリアなどの治療に使われるヒドロキシクロロキンが有効だと思うと主張している。
2020/4/9 トランプ大統領、CVD-19治療に抗マラリア薬を絶賛
米食品医薬品局(FDA)は4月24日、抗マラリア薬の「ヒドロキシクロロキン」と「クロロキン」について、心臓に深刻な副作用を引き起こすリスクがあると警告した。医者の監督下で慎重に使うよう呼びかけた。
これらは新型コロナの治療薬として承認されていないが、医療現場では既に一定条件の下で使われている。FDAは「深刻で生命を脅かす可能性がある心臓への副作用が報告されている」と指摘し、副作用のリスクを抑えるため入念な事前検討や経過観察を医療関係者に求めた。
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