職場でのLGBT 差別は公民権法違反、米最高裁が初判断

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米連邦最高裁判所は6月15日、雇用における人種や性別などによる差別を禁じた1964年の公民権法 ( Civil Rights Act of 1964 ) は、雇用者が同性愛者や心と体の性が一致しないトランスジェンダーなど性的マイノリティーの従業員に差別をすることも禁じているとの判断を初めて示した。

LGBT: Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender

これに Queer、Questioning(セクシャリティを決めかねているというアイデンティティをもつ人)を加え、LGBTQ も使われる。

9人の判事(保守5人、リベラル4人)のうち、トランプ大統領指名の保守のNeil Gorsuch判事が賛成意見を書き、同じく保守のJohn Roberts 長官と4人のリベラル系判事の計6名が賛成、保守3名が反対した。

アメリカの調査会社によると、2017年の時点でアメリカの成人の4.5%が性的マイノリティーの人たちで、連邦最高裁判所の判断は少なくとも数百万人に影響するものとみられている。

AppleのCEOで同性愛者であることを明らかにしているTim Cookは「最高裁判所の判断に感謝している。LGBTの人々は、職場で、そして社会のあらゆるところで平等に処遇されるべきだ」とのコメントを発表した。

トランプ大統領はこれまで、「公民権法の規定は性的少数者に及ばない」などと主張していたが、最高裁判断を受け、「驚いた人もいたようだ。最高裁の判断には従っていく。とても力強い判断だ」と述べた。

アメリカのメディアは2015年に連邦最高裁判所が男性どうしや女性どうしが結婚する同性婚を認めたことに続き、性的マイノリティーの権利を保護する歴史的な判断だと伝えている。

米連邦最高裁判所は2015年6月26日、同性婚の権利は男女の結婚と同様、法の下の平等をうたう合衆国憲法によって保障されており、同性婚を禁止する州法は違憲に当たるとの歴史的判断を示した。
オハイオ、ミシガン、ケンタッキー、テネシーの4州の州法が同性婚を禁じていたが、その合憲性についてオハイオの連邦高裁が2014年11月に禁止を支持する判断を下し、最高裁に判断が委ねられた。

保守4人が禁止は合憲とし、リベラル4人が違憲で、保守系中道のAnthony Kennedy 判事が違憲に回った。

Anthony Kennedy 判事は判決文のなかで「結婚を望む同性愛者は、孤独な生活を余儀なくされたり(婚姻という)文明上最古の制度の一つから締め出されるべきでないとの願いを寄せている。すなわち彼らは法の下の平等と尊厳を希求しているのであって、合衆国憲法はこれを保障するものである」と述べた。


1964年の公民権法成立の時点ではこのLGBT問題は存在しておらず、議会が同性愛者やトランスジェンダーの労働者の保護を考えていなかったことは確実である。

しかし、Neil Gorsuch判事は当時の議会の意図や公民権法成立の経緯などは考えず、"sex" という言葉だけを問題視した。

「誰かが同性愛者やトランスジェンダーだからと、それを理由に個人を解雇する雇用者は、その人が別の性だったら問題視しなかったはずの特徴や行動を理由に、その人を解雇することになる。同性愛者やトランスジェンダーを差別することは、その人を性をもとに差別することになる」とした。

一方、同じくトランプ大統領指名のBrett Kavanaugh判事は反対意見で性差別と性的指向の差別は異なると指摘し、 公民権法には現時点で性的指向に関する規定がないことから、議会で決めることであるとし、多数意見は議会の役割を奪うもので立法権の侵害であると主張した。

最高裁判断の元となったのは、同性愛者やトランスジェンダーであることを理由に解雇されたと主張した3件の訴訟だった。

1) 職場で6年間、男性として振る舞っていたAが女性の服を着て仕事をすると言い張ったとして解雇された。雇用主の葬儀会社は、「生物学的な性別に適した」服装規定に従ってもらいたかったと裁判書類で主張したが、下級審は原告の訴えを認めた。

2) ニューヨークのスカイダイビング指導者だったBは一緒にダイビングをしていた女性客に対し、自分は100%同性愛者だから接近して体が触れても大丈夫だと冗談を言い、解雇された。

会社側は、客に個人情報を明かしたため解雇したのであり、同性愛者だから解雇したのではないと主張したが、下級審は訴えを認めた。

3) ジョージア州で児童福祉のコーディネーターとして働いていたCは同性愛者のソフトボール・リーグに参加し、性的指向を明らかにしたところ、解雇された。

雇用者のクレイトン郡は、「郡職員にふさわしくない行為」の結果だと主張した。

アトランタの連邦裁判所は原告敗訴とした。

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現在の最高裁の構成は下記の通り。最高裁裁判官は終身制で、本人が死去または自ら引退するまで、弾劾裁判によって罷免される場合(過去に例なし)を除いては生涯にわたってその身分を保証される。

 性別 年齢 人種背景

指名した大統領

就任日 判断傾向
Clarence Thomas 男性 70歳 アフリカ系 George H. W. Bush 1991年10月23日 保守
Ruth Bader Ginsburg 女性 85歳 ユダヤ系 Bill Clinton 1993年8月10日 リベラル
Stephen Breyer 男性 80歳 ユダヤ系 1994年8月3日 リベラル
John Roberts  (Chief) 男性 63歳 白人系 George W. Bush 2005年9月29日 保守
Samuel Alito 男性 68歳 イタリア系 2006年1月31日 保守
Sonia Sotomayor 女性 64歳 ラテン系 Barack Obama 2009年8月8日 リベラル
Elena Kagan 女性 58歳 ユダヤ系 2010年8月7日 リベラル
Neil Gorsuch 男性 51歳 白人系 Donald Trump 2017年4月10日 保守
Brett Kavanaugh 男性 53歳 白人系 2018年10月6日 保守


経緯

  保守派 リベラル派
以前  保守系中道 のKennedyがswing 4 ← 1 → 4
2016 Scalia 判事死去 3 ← 1 → 4
2017 Gorsuch 就任 4 ← 1 → 4
2018 Kennedy 引退、Kavanaugh指名 5 4

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