本庶博士、オプジーボ特許使用料で小野薬品を提訴へ

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ノーベル医学生理学賞受賞者の本庶佑・京大特別教授は6月5日、「オプジーボ」の特許をめぐり、小野薬品工業に対し、特許使用料の配分226億円余りを求める訴訟を今月中旬に大阪地裁に起こすと発表した。

本庶博士は従来から「オプジーボ」の特許の対価について小野薬品と争っているが、今回はそれとは別で、Merckの「キイトルーダ」の特許侵害訴訟での和解でメルク社が支払う特許使用料の配分に関するもの。

従来の経緯は下記の通り。

2003/7 本庶博士と小野薬品が「PD-1阻害による癌治療法」について特許出願

2006/10 本庶博士と小野薬品が特許使用料契約締結 

小野薬品が独占使用、本庶博士は対価を受け取る。

本庶博士は当初、京大に出願を要請したが、当時、京大には知財を扱う専門人材やノウハウがなく資金も不十分だったため、本庶博士本人が、小野薬品と共同出願した 。
当時の契約は本庶博士が弁護士を雇わずに署名したもの。

本庶博士によると、対価は約0.75%という。

本庶博士は抗がん剤として使う用途を視野にいれた特許と考えていたが、小野薬品はPD-1を作る遺伝子という狭い範囲の特許とみて契約を提示したため、料率の低い契約になったとされる。

当時はがんの免疫療法が「海の物とも山の物ともわからないという扱い」で、業界関係者はごく初期の特許の料率が1ケタになることは珍しくないとしている。

2011/10 本庶博士が上乗せを要請、交渉開始。

2013  小野薬品が書面で改定案提示

現行契約 小野薬品提案
小野薬品の売り上げ 0.75% 2%
Bristol-Myers Squibbから入る特許料 10%
Merckから入る特許料 40%


本庶博士は「安すぎる」として合意せず、交渉を続けたが、小野薬品が一方的に撤回した。

2014/9 小野薬品、オプジーボ発売

2014年9月の販売開始から2018年12月までの4年の売上高約2890億円に対し、小野薬品からの支払は約26億円。

本庶博士は受け取りを拒否し、小野薬品は法務局に供託している。

2014/9 同じ抗PD-1抗体であるMerck のキイトルーダ(Keytruda)の特許侵害訴訟で、小野薬品が本庶博士に協力を要請

本庶博士によると、小野薬品が受け取るロイヤルティーなどの40%相当額を支払う「約束」があったと主張。
今回、小野薬品が既に支払った1%分を除く39%分(約226億円)の支払いを求める。

2017/1 小野薬品とMerckが和解

小野薬品発表

小野薬品とブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS) が保有する用途特許および物質特許が有効であることを確認
Merckの「
キイトルーダ®」の販売を許諾する
Merck
当社およびBMS社に対し62500万ドルの頭金を支払い201711日から20231231日まではキイトルーダの全世界売上の6.5%202411日から20261231日までは2.5%をロイヤルティとして支払う 。
頭金およびロイヤルティは当社に25%、BMS社に75%の割合で分配

2018/10 ノーベル医学生理学賞受賞決定

2018/11 小野薬品が本庶博士に対し申し入れ

対価の上乗せという枠組みではなく、将来の基礎研究の促進や若手研究者の育成に資するという趣旨から京都大学への最大300億円の寄付を検討。

本庶博士は拒否

2019/4 本庶博士記者会見、対価引き上げを要求

本庶博士は抗がん剤として使う用途を視野にいれた特許と考えていたが、小野薬品はPD-1を作る遺伝子という狭い範囲の特許とみて契約を提示したため、料率の低い契約になった。「用途特許ならば5~10%が常識的なレベルだ」(代理人弁護士)

代理人は①小野薬品の売り上げ、②ブリストルから入る権利使用料、③同様の薬を開発した別企業から入る使用料の3種類の一部を本庶博士が受け取るべきだと主張、仮に試算すると、現時点で約830億円になるとし、「今後さらに増える」と強調 した。

若手研究者を支援する1千億円規模の基金を作り、対価を基金に投じるとしている。

なお、特許料増額交渉は発売3年前の2011年からしており、後出しジャンケンではないとした。

2019/5 小野薬品が反論、契約の見直しは拒否、別途京大への寄付を検討

2011年に本庶教授から当社に要請のあった契約の見直しに対しても誠意をもって話し合いを続けてきたが、合意に至らず、2018年11月に本庶教授に対し、対価の上乗せという枠組みではなく、将来の基礎研究の促進や若手研究者の育成に資するという趣旨から京都大学への寄付を検討している旨、申し入れた。

今後は、本庶教授との話し合いを継続するとともに、基礎研究の促進や若手研究者の育成のための寄付について慎重に検討する。

ーーー

今回は、Merck のキイトルーダ(Keytruda)の特許侵害訴訟で、小野薬品が本庶博士の協力を要請した際に、小野薬品が受け取るロイヤルティーなどの40%相当額を支払う「約束」があったとし、小野薬品が既に支払った1%分を除く39%分(約226億円)の支払いを求める。

2013年の小野薬品の改定提案に、Merckから入る特許料 40%となっている。

これは一般の特許料の配分とは異なり、協力の対価と考えられ、今回の本庶博士の要求を裏づけすると思われる。

これは、2019/4の記者会見での要求の一部であり、他に①小野薬品の売り上げ、②ブリストルから入る権利使用料の分が残っている。



なお、Massachusettsの米国地裁は2019年5月17日、ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学 の本庶佑・特別教授が開発した癌の治療薬「オプジーボ」の特許について、ハーバード大学医学部の主要関連医療機関の一つである Dana-Farber Cancer Instituteの研究者 Gordon Freeman と Clive Woodの2人を共同発明者として認める判決を出した。

2019/5/25 米地裁、オプジーボの発明者に米学者2名を追加

本庶博士は控訴を決め、第2審の知財専門の巡回裁判所での審理に移るものと思われる。本件のその後についてはフォローできていない。

仮に本庶博士の敗訴となれば、特許料の配分交渉が更に複雑となる。

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