米国の「経済繁栄ネットワーク」構想

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米国はグローバルな供給網の脱中国を目標に「経済繁栄ネットワーク(Economic Prosperity Network/EPN)」構想を推進している。

キース・クラック米国務次官(経済担当)は6月5日、韓国の李泰鎬外交部第2次官との電話会談で米国が主導する新しい経済同盟構想「経済繁栄ネットワーク(Economic Prosperity Network/EPN)」について説明した。

「EPNは世界で考えを同じくする国や企業と市民社会で構成され、民主的価値観に基づいて運営される」と説明した。 米国は韓国をはじめ日本やインド、オーストラリアなど友好国の参加を考えているという。

EPNは米国が世界経済の覇権競争の中で、中国を孤立させるために親米国家で構成する経済ブロックを意味する。
中国をグローバル生産体系から孤立させるための構想で、自由陣営内で国民を保護するサプライチェーンを拡大して多角化することとされ、一種の「反中経済同盟」である。

現時点ではまだ構想段階で、具体的な内容の言及はなかったが、「関心を持ってほしい」との要請をしたという。

米国と中国の間でバランスを取らなければならない韓国政府としては、「反中国」の性格が強いEPNへの参加が負担にならざるを得ず、慎重に検討する。

日本政府はどうするのだろうか。

EPNとは無関係と思われるが、4月30日に成立した 2020年度補正予算サプライチェーン改革【2,486億円】が含まれている。

(1) サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金 【2,200億円】
生産拠点等を日本国内に整備する場合などに、当該生産拠点等に係る建物や設備の導入に係る経費を補助。

(2) 海外サプライチェーン多元化等支援事業 【235億円】
日本・ASEANのサプライチェーンを強靭化するため、製品・部素材の生産拠点の複線化を行う場合などに、設備導入等に係る経費を補助。


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トランプ政権は反中国の姿勢を強めている。膨大な対中貿易赤字が一向に減らないことを問題視し、米国の失業と結びつけている。中国が組織的に米国の知財を盗用しているともする。
今回の新型コロナウイルスの蔓延に際し、必要な医薬品やサーマルカメラなどの多くが中国依存であることが懸念に拍車をかけた。

Trump氏は大統領選挙戦中、最大の貿易赤字相手国である中国への強硬姿勢を鮮明にしていた。

Trump大統領は2017年4月18日、連邦政府機関に米国製品の調達を優先するよう求める"Buy American"、高度な技術を持つ外国人労働者を対象とするビザの審査を厳格化する"Hire American"の大統領令を出した。「労働者を守り、雇用を守るという力強いシグナルを世界に送る」と「米国第一」の姿勢を改めて強調した。

2017/4/22 Trump大統領、"Buy American"、"Hire American"の大統領令 

トランプ米大統領は2017年8月14日、不公正貿易での制裁も視野に、中国に対する通商法301条に基づく調査を開始するよう指示した。

2017/8/18 米大統領、通商法301条で対中調査指示

トランプ大統領は2018年3月7日のツイッターで「貿易赤字を1000億ドル減らす計画の策定を求めた。

2018/3/19 トランプ政権、貿易赤字解消に躍起、対中貿易赤字1000億ドル削減を要請 

トランプ大統領は2018年3月22日、米通商代表部(USTR)に中国の知財侵害に制裁関税を課すよう指示する大統領令に署名した。

2018/3/23 トランプ大統領、中国の知財侵害に制裁関税を指示

USTRは2018年4月3日、通商法301条に基づき、中国の知的財産の侵害に対して発動する制裁関税の原案を公表した。

中国がこれに対抗、米国は第二次、第三次、第四次と制裁を引き上げた。

米国の対中制裁関税:

  当初 2019/8/23 発表 10/11 12/13
①~③
2500億ドル
① 340億ドル  2018/7/6  25% 2019/10/1 30%予定
(→10/15に延期)
 
引き上げ延期 
(25%維持)
25%据え置き
② 160億ドル 2018/8/23  25%
③ 2000億ドル 2018/9/24   10%
→2019/5/10 25%
④ 3000億ドル 一般  1200億ドル 2019/9/1  10% 9/1  15% 7.5%に引き下げ
消費財 1600億ドル 2019/12/15 10% 12/15 15% 予定 発動見送り


2019/8/2 トランプ大統領、9月1日に対中関税第4弾 ツイートで表明


米中両政府は2019年12月13日、貿易協議の「第一段階」で正式合意したと発表した。2020年
1月15日、「第一段階貿易合意」の署名を行った。

合意は知財、通貨、貿易拡大など7項目で、中国は米国からモノとサービスの輸入を2017年比で2年で2000億ドル増やす。

2020/1/17 米中「第一段階貿易合意」に署名 

並行して、米国は安保上懸念がある企業を列挙したEntity Listへの中国企業の追加やHuawei排除などで、中国企業の締め付けを強めている。

2019/8/21 米、Huawei 禁輸強化

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米国は米国のサプライチェーンで中国が重要な大きな部分を占めているのに危機感を感じ、全省庁を挙げてどうすれば中国から移せるかを検討している。税優遇や補助金などが対策の一部となる。

生産を中国から米国に移し、雇用を増やすのが最大の目標であるが、生産を中国から友好国に移し、中国依存を減らすことも狙う。

「経済繁栄ネットワーク(Economic Prosperity Network/EPN)」構想は、信頼できるパートナーと世界サプライチェーンを構築するというものである。

その一つが、2019年11月に米政府がタイ・バンコクのインド・太平洋ビジネスフォーラムで発表した「Blue Dot Network(BDN)」である。中国の「一帯一路」に対抗するもの。

米国・オーストラリア・日本の民間開発庁が協力してアジア・太平洋地域に進出する企業を支援するという構想。

米金融開発庁(DCF)が600億ドルを支援し、米輸出入銀行は1,350億ドルほどの貸出保証を行う。

米国の海外民間投資公社(Overseas Private Investment Corporation)とオーストラリア外務貿易省、日本の国際協力銀行(JBIC)が計画を主導する。

「公共部門と民間部門を結び付け、オープンかつ包括的な枠組みで、グローバルインフラ開発のために、高品質で信頼できる標準を促進する。」

支援基準では「途上国の主権を守り、過剰債務に陥らないように、地域の労働者に仕事を提供する」ことなどを強調。過剰な投融資で返済に窮した国がインフラを奪われる「債務のわな」が問題となっている中国の支援と異なることをアピールした。


本年5月15日、世界第1位の半導体ファウンドリーの台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が米国のアリゾナに最先端の半導体工場を建設する計画を発表した。

米国の連邦・州政府からの支援を受けて総額約120億ドルを投じ、2021年から建設を始め、24年に量産を開始する。

TSMCは、半導体の受託生産で世界シェアの約5割を占め、Apple の「iPhone」のCPU(中央演算処理装置)もTSMCが全量生産する。

TSMCの半導体工場は台湾に集中しているが、南京に先端半導体の工場を建設し、2018年から稼働している。米国に有する工場は世代が古い工場である。

回路線幅 5ナノの製品を生産し、生産能力はウエハー換算で月2万枚。

この発表の前にWall Street Journal が、ホワイトハウスがTMSCやIntel と米国内に半導体工場を建設するための話し合いをしていると報じていた。


なお、米商務省の産業安全保障局 (Bureau of Industry and Security ) は5月15日、Entity Listによる華為技術(Huawei)に対する輸出禁止措置を強化すると発表した。

米国に由来する技術を使った半導体は、外国製でも同社への輸出ができなくなる。

これを受け、台湾積体電路製造(TSMC)はHuaweiからの新規受注を止めた。

2020/5/18 米商務省、Huawei向け輸出規制を強化

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