新型コロナウイルスワクチンの確保合戦

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安倍晋三首相は6月14日、インターネット動画サイト「ニコニコ動画」の番組で、新型コロナウイルスのワクチン確保のため、開発を進めている米バイオ企業 Moderna、英製薬大手 AstraZenecaの両社と交渉していることを明らかにした。

Modernaのワクチン開発の現状について「すごく早ければ、年末ぐらいには接種できるようになるかもしれない。12月から来年の前半にはおそらく供給できるようになるのではないかと言われている」と指摘し、AstraZenecaについても「相当スピード感を持って開発が進んでいるとうかがっている」と紹介 した。

「これが完成した暁にはしっかりと日本も確保できるように交渉をしている」と述べた。

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WHOは5月30日、新型コロナウイルスのワクチン開発状況を発表した。このなかで、臨床試験段階にあるもの10件、その以前の段階にあるもの121件を記載している。

2020/6/3 中国製ワクチン5種が第2期臨床試験段階 参照

ワクチンの開発を巡っては両社と中国の CanSino Biologicsが先行している。

2020/5/19 米 Moderna、新型コロナウイルスワクチン治験で抗体確認 

2020/5/22 アストラゼネカ、新型コロナウイルスのワクチン 9月に供給へ

2020/5/26 中国CanSino Biologicsの新型コロナウイルスワクチン、初期治験で安全性と免疫誘導確認

3社は第II相の治験中で、これから数千人の参加者に対する第Ⅲ相を開始する段階である。

そのなかで、Modernaのワクチンはたんぱく質の遺伝情報を運ぶ「メッセンジャーRNA(mRNA)」を投与して体内に抗原を作り出し、免疫反応を起こさせる もの。世界で実用化されたことのない新たなタイプで、安全性や有効性をどうやって確認するかについても「手探り状態」で、審査基準もできていないとされる。

COVID-19が収まってきた地域では数千人を対象とした治験を行うのは難しい。CanSinoはカナダのNational Research Council of Canadaと組んで治験を行う。

日本の企業で、第Ⅱ相までいっているところはない。

首相は2社が手がけるワクチンについて「完成した暁にはしっかりと日本も確保できるよう交渉している」とし、「日本でも製造することになると思う」と語った。

しかし、厚労省幹部は「首相が言う『年末』は海外での生産時期の目安であり、国内で接種できる時期ではない」と説明。国内での接種開始は、早くとも来年前半以降としている。

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世界各社がワクチン製造に走っているが、日本が海外企業からワクチンそのものを購入したり、製造ライセンスを受けて国内で生産するのは簡単ではない。

世界の各国がワクチン確保に向け、動いている。

1) トランプ米政権は新型コロナウイルスワクチンの迅速な開発に向け、第2次世界大戦時の原子爆弾開発プロジェクト「マンハッタン計画」のように官民を総動員する「爆速ワクチン計画(Operation Warp Speed)」をつくった。

年内に米国民の大半に十分なワクチンを提供することを目指すもので、民間の製薬会社と政府省庁、軍が共同で取り組むことによって、ワクチン開発に要する時間を最大8カ月短縮し、2021年1月までに3億人分のワクチン提供を目指す。

米生物医学先端研究開発局(BARDA)は各国のメーカーに多額の資金を援助している。

AstraZenecaは、米生物医学先端研究開発局(BARDA)から10億ドルの支援を受けたことも明らかにしており、既に米国から3億回分のワクチンを受注している。

2) トランプ米大統領がドイツのCureVacに数十億ドルの財政支援を提示し、ワクチンに対する独占権を米国に渡すよう懐柔したとの報道があった。

これを受け、EUの欧州委員会は3月16日、欧州でのコロナウイルス蔓延に対応するため、ワクチンの開発・生産の促進のためにCureVacに80百万ユーロを供与すると発表した。

2020/3/19 米国がコロナウイルスワクチン技術独占を画策? 

ドイツ政府は6月15日、CureVacに対して、3億ユーロを出資し株式の23%を取得すると発表した。有力なワクチン開発企業をつなぎ留め、ワクチンの国内調達の可能性を広げるため で、アルトマイヤー経済相は「これらの重要な研究成果や技術はドイツと欧州に必要なもので、産業政策として大きな意味がある」と意義を強調した。

3) ドイツ、フランス、イタリア、オランダのEU4か国は「ワクチン同盟」を結成した。

AstraZenecaは6月13日、新型コロナウイルスワクチンを、欧州に最大4億回分供給することで「ワクチン同盟」と合意したと発表した。同社は「利益なし」で、年末までに納入を始める 。

独保健省も同日、EU全体向けに「少なくとも3億回分」のワクチン確保でAstraZenecaと合意したと発表、ワクチンは「同盟への参加を望む全ての加盟国に人口に応じて配分される」と説明した。


4)
このままでは、自国でワクチンを開発できない低・中所得国が取り残されることとなる。

このため、WHOなどは4月24日、COVID-19の診断、治療、ワクチンの開発、製造と平等なアクセスを促進するための地球規模のプラットフォームとして、「COVID-19関連製品へのアクセス促進枠組み」を設立した。

その一環として感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)とGaviワクチンアライアンスがある。前者は途上国への供給を前提に、ワクチンの開発資金を供与するもので、後者は低・中所得国にワクチンを供給するもので、いずれも日本も出資している。

AstraZenecaは6月4日、ワクチンを増設し、開発途上国にも供給すると発表した。

感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)とGaviワクチンアライアンスと提携し、3億回分を年末までに引き渡しを開始する。

インドのワクチン大手Serum Institute of India (SII) とライセンス契約を締結、10億回分を低・中所得国に供給する。うち4億回分は年末までに供給する。
  このうち、一定量(発表なし)はインド向けで、残りはGAVI によって他の低所得国に配られる。

2020/6/8 AstraZeneca、新型コロナウイルスワクチン増産、開発途上国に供給

AstraZenecaは自社で10億回分、インドのSerumへのライセンスで10億回分の合計20億回分を生産するが、上記3)の「ワクチン同盟」への供給で、完売したことになる。

自社のうち、3億回分は米国、1億回分は英国、3億回分はCEPI/Gavi 向け、残り3億回分は「ワクチン同盟」向け
インドのSII製造分の10億分はイン向け及びGAVI経由で低所得国向けとなる。

5) 厚労省は6月2日、新型コロナウイルスのワクチンを早期実用化する「加速並行プラン」をまとめた。国内で「2021年前半に接種開始」との目標を設定している。

この発表では、日本医療研究開発機構が支援しているワクチン開発状況を示しているが、まだ進んでいない。

また、海外での開発で、日本政府がCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)に資金を拠出し、CEPI支援してワクチン開発を列挙しているが、そもそもCEPIに拠出する目的は、途上国へのワクチン提供を通じて、①途上国を通じてウイルスが再度日本に侵入するのを防ぐ、②日本経済、世界経済への更なる下押しを未然に防ぐ、③国際的な協力構築に向けリーダーシップを発揮、としており、ワクチンの供給を優先的に受けるためのものではない。

2020/6/4 厚労省、新型コロナウイルスワクチンの早期実用化で「加速並行プラン」

考えられるのはライセンスを受けての生産であるが、来年早々にでも接種を始めるためには、ライセンス契約の交渉を始めていなければならない。

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