米国、「中国の南シナ海での領有権主張は不法」

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トランプ米政権は南シナ海における中国の権利主張を公式に非難した。これまでは「航行の自由」の保護を呼び掛けながらも、同海域の領有権問題には関与しないとの立場をとっていた。

ポンペオ米国務長官は7月13日、「米国はここで明確にしておく。南シナ海のほとんどの資源に対し中国政府が主張する権利は完全に不法なものであり、その掌握を目的とした嫌がらせの活動も同じく完全に不法だ」との声明を発表した。

ハーグの常設仲裁裁判所が2016年にフィリピンの訴えを受け、南シナ海の大部分について中国の領有権主張には法的根拠がないとした判断を支持すると述べた。また、中国がベトナム、マレーシア、インドネシア、ブルネイ近海で主張する海洋権益も否定し、他国の漁業、開発活動を妨害する行為を「違法」と非難した。

国務省の東アジア担当の次官補は「アメリカがこれらの海洋問題で中立だとか、いかなる立場もとらないとか言うことはもはやない」と述べた。

南シナ海では最近、中国海軍による軍事演習に続き、米軍が6年ぶりに空母2隻を派遣するなど緊張が高まっている。
第7艦隊は7月14日、「航行の自由」作戦を実施、イージス駆逐艦が、中国が軍事拠点化を進める南沙諸島(スプラトリー諸島)の周辺を航行した。

米国発表について中国外務省報道官は、「中国の主張は十分な歴史と法的根拠があり、国際法にも符合する」とし、「米国こそ地域の平和と安定を破壊するトラブルメーカーである」と強く反発、挑発をやめるべきだと主張した。

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南シナ海には、パラタス諸島(東沙諸島)、パラセル諸島(西沙諸島)、マクセルフィールド諸島(中沙諸島)、スプラトリー諸島(南沙諸島)などがある。

西沙諸島と南沙諸島(新南群島)は日本が領有していたが、日本が敗戦で 領有権を放棄した。1970年代に海底油田の発見などで中国やフィリピン、ベトナム、マレーシアなどが自国の領海と主張し始めた。
東沙諸島は台湾が実効支配している。

1947年に当時の中華民国は南シナ海に引いた11本の線を元にした「11段線」で囲まれた海域を「領海」と一方的に決めた。(地図の赤線 H と赤線A)
その後、中国はベトナムとの国境線として確定したためベトナム周辺海域の2線を減らし、「9段線」を自国の境界とし管轄権を主張している。(地図の赤線Aの2線を除いたもの)

中華民国(台湾)では11段線の主張を継続している。

中国は最近、この領域での活動を活発化している。

中国は、西沙諸島・中沙諸島・南沙諸島を海南省三沙市の帰属とした。

中国軍は2016年2月、西沙諸島にあるウッディー(永興)島に今地対空ミサイル8基を配備した。

フィリピン沖の南沙諸島では、岩礁を埋め立てた多くの人工島を軍事拠点化している。

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フィリピンは2013122日、西フィリピン海における領有権紛争の平和的かつ持続的な解決を実現するために、国連海洋法条約 (UNCLOS)に基づいて、オランダのハーグにある常設仲裁裁判所に中国を提訴した。中国外交部は同年219日、提訴は歴史的かつ法的に誤った措置であり、中国に対して受け入れ難い告発を含んでいるとして、フィリピンの仲裁手続きへの参加を拒否した。

フィリピンの提訴項目は、条約の限度を超えた中国の領有権主張、南沙諸島の海洋地勢の法的地位やその地理的位置、中国の南沙諸島における諸活動などの可否について判断を仰いだもので、提訴した15項目は、4つに類別でき る。

① 中国の「9段線」で囲った海域に対する「歴史的権利」が国連海洋法条約に違反し、無効である。
②南シナ海の海洋地勢の法的地位:島か岩かなど
③中国の南シナ海における海洋環境を破壊する建設活動と漁業活動によって、フィリピンの主権的権
利と航行権が妨害されている
中国の南シナ海における仲裁裁判開始後の行動は、仲裁裁判中の紛争の悪化や拡大の自制を求める国連海洋法条約違反である 。

ハーグに設置された南シナ海仲裁裁判所は2016712日、15項目に及ぶフィリピンの提訴項目全てに対して裁定を下した。
1つの提訴項目を除いて他の全ての提訴項目でフィリピンの主張を認めた。

提訴項目No.15は、「中国は、UNCLOSの下でのフィリピンの諸権利と自由を尊重し、南シナ海の海洋環境の保護、保全を含むUNCLOSにおける義務を遵守し、フィリピンの諸権利と自由に妥当な考慮を払いつつ、自らの諸権利と自由を行使すべきである」というもので、当然のことなので仲裁裁判所は何も言及しなかった。

南シナ海仲裁裁判所は、海洋地勢に対する主権問題や海洋境界画定に関しては管轄権を有しない。従って、この裁定は、フィリピンと中国の南シナ海における領有権紛争の直接的な解決をもたらすものではない。

仲裁の詳細は https://www.spf.org/oceans/analysis_ja02/b160901.html

中国はこれを無視しており、米国もこれまでは領有権問題には関与しないとの立場をとっていた。

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