日本ペイント、Wuthelamグループの子会社に

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日本ペイントホールディングスは8月21日、シンガポール塗料大手のWuthelam(ウットラム )グループの子会社になると発表した。

日本ペイントは、Wuthelamの持つインドネシア事業を買収する とともに、日本ペイントとWuthelamとのアジアの合弁事業のWuthelam 持分を買収し、日本ペイントの100%子会社とする。

インドネシア子会社は2355億円で、支払総額は1兆2851億円 になる。2021年1月の完了を目指す。

このうち、1000億円は現金で支払い、残り 1兆1851億円は第三者割当による同社株式で支払う。

第三者割当 発行株式 1.487億株 @7,970円 1,185,139百万円

この結果、Wuthelamの出資比率は、現在の39.6%から58.7%に上昇し、日本ペイントはWuthelamの子会社となる。

概要は次の通り。

2014/2 今回
Wuthelamの日本ペイント出資比率 14.51%→30.28% →39.6%→58.7%
日本ペイントの出資比率
Nipsea Pte (持株会社)  0% 0%→100%
Nippon Paint (China) 中国 40%→51% 51%→100%
Guangzhou Nippon Paint 中国
Nippon Paint (Chengdu) 中国
Nippon Paint (HK) 香港、中国
日本ペイントマリン 日本 60% 60%→100%
ニッペトレーディング 日本
Nipsea Management シンガポール 50% 50%→100%
Nippon Paint (India) インド 50% 50%→99.9%
Neave Limited (持株会社)  香港 0% 0%→100%
PT Nipsea Paint and Chemicals インドネシア 0% 0%→99.9%
Nippon Paint Coating (Taiwan) 台湾 34.8%→51% 51%→100%
Nipsea Chemical 韓国 40%→51%
Nippon Paint (Malaysia) マレーシア 25%→51%
Paint Marketing (M) マレーシア
Nippon Paint (Singapore) シンガポール 40%→51%
Nipsea Technologies シンガポール 50%→51%
Nippon Paint (Thailand) タイ 40%→51% 51%→99.9%
Nippon Paint (Sabah) マレーシア 12%→49%

インドとタイについては、現地法上の株主数の規制により99.9%にとどまる。インドネシアは個人株主1人が0.1%所有


同社では、本件の戦略的意義を次の通りとしている。

日本ペイントの田中正明社長兼会長は、「グループ一体で様々な買収や今後の成長戦略を考えられるようになる。さらなる成長のために決めた」 と述べている。

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Wuthelam Groupはシンガポール国籍のGoh Cheng Liangが設立した企業グループで、一族が所有している。

Goh Cheng Liangは1955年にシンガポールで開業し、日本ペイントのディストリビューターとなった。

日本ペイントとWuthelamグループは、1962年にJVのNippon Paint Southeast Asia グループNIPSEAグループ)をつくり、その後、アジア各国で自動車や建築用塗料などを中心に、日本ペイントが技術、Wuthelamがマーケティングを担当して合弁事業を展開してきた。

Wuthelam Group(日本ペイントの筆頭株主で14.5%を出資)は2013年1月21日、日本ペイントへの出資比率を約45%まで高めて傘下に収めるため、720億円を投じて8千万株を取得する提案を日本ペイントの取締役会に提出した。

しかし、日本ペイントとの協議の結果、Wuthelamは3月12日付で日本ペイントへのTOB提案を取り下げた。
両社は、Wuthelamの日本ペイントに対する持株比率の引き上げと、両社のJVの日本ペイントによるマジョリティ化について協議を開始した。

日本ペイントは2014年2月3日、シンガポール塗料会社のWuthelam Groupを引受先とする約1000億円の第三者割当増資を実施すると発表した。
増資により出資比率は30.3%に高まる。

更に、Wuthelam は、第三者割当後の2年間に限り、市場での購入で出資比率を39.0%まで増やす意向で、日本ペイントもこれを認めている。

当初、日本ペイントはシンガポール、タイ、韓国、中国などのJVでは40%、その他ではそれ以下の出資比率であったが、2006年5月に、両社は合弁事業の更なる企業価値向上と両社の協業関係をより強固にするため、合弁会社の出資比率を見直す協議を行うことで基本合意に達した。2014年のWuthelamの出資比率引き上げと同時に合弁会社への出資比率を変更した。(上表の2014/2の項 参照)

2014/2/6 日本ペイント、Wuthelam Groupとの戦略的提携の基本合意 

Wuthelam Groupは2018年1月19日、日本ペイントHDの取締役候補として6人を推薦する株主提案を出したと発表した。取締役の上限は10人で、3月の定時株主総会で可決されれば過半数を占める。

3月28日、定時株主総会を開き、Wuthelamが推薦した6人を含む10人の取締役が選任された。WuthelamのGoh Hup Jin社長が日本ペイントホールディングスの会長になった。

2018/1/23 日本ペイント筆頭株主のWuthelam Group、取締役の過半を求める株主提案

現在の日本ペイントの田中社長は、三菱UFJフィナンシャル・グループの副社長などを歴任した金融マンとしての経験や企業統治の知見を買われ、Wuthelamの総帥であるGoh Hup Jin氏から2019年にプロ経営者として招かれた。

これまでもWuthelamの出資比率は39.6%であるが、日本ペイントの取締役会の多数を占め、社長を指名している。今回、出資比率を58.7%に高め、名実ともに子会社とする。

資金支出なしに(逆に1000億円を受け取り)日本ペイントの支配権を取得した。
自社の子会社とJVの持分を日本ペイントに出すが、それを含めて拡大した日本ペイントの支配権を得ることで、アジアの業界での地位を高める。

失敗には終わったが、富士フィルムによるXerox買収と同様である。 75%所有の富士ゼロックスを出して、Xerox本体の50.1%を取得しようとした。

富士フィルムHDは2018年1月31日、米国Xerox Corporationとの間で以下の点で合意したと発表した。
 ①富士フィルムHDがXerox Corporatの50.1%を取得、Xeroxは社名をFuji Xeroxに変更、NYSEの上場を維持
 ②富士フィルムHDの子会社の富士ゼロックスとXerox Corporationの経営統合


古森会長は「富士フィルムが一銭も使わずにゼロックスの支配権を得るもの」と述べたとされる。


この取引は、Wuthelamにとっては大きな意義のある取引であるが、日本ペイント(及びWuthelam以外の株主)にとっては、どうであろうか。
(インドネシア事業の取得は意味があるが、これの価値は2355億円に過ぎない。大半はJV持株の分である。)

2014年2月の際に、本ブログは次のように述べている。

Wuthelamは日本ペイントHDの議決権の20%以上保有で支配株主となり、1/3 以上保有で株主総会の特別決議を単独で阻止できる
その場合、JVを含めた日本ペイントグループ全体がWuthelamの傘下に入ることとなり、日本ペイントが見返りに両社のJVの出資比率を51%にしてもあまり意味はない。

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