アンジェス、ゲノム編集の米社を買収 

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大阪大学発のバイオ企業アンジェスは11月9日、ゲノム編集技術に強みを持つ米国のEmendo Biotherapeutics (EmendoBio) を2億5000万ドルと評価して買収すると発表した。
すでに同社の発行済み株式の約4割を保有しており、12月15日付で追加取得し、完全子会社化する。


買収の概要は下記の通りで、一部はEmendoの現金 (一部アンジェスが融資)で支払うが、残りはアンジェスの増資株式で支払われる。

Emendoの株式価値 295百万米ドル  企業価値 250 + 現金 45
うちアンジェス所有分 103百万米ドル
差引 買収分 192百万米ドル
うち 現金払い 59百万米ドル   オプション行使格相当額を控除
残り アンジェス株株式 129百万米ドル   ワラント行使価格相当額を控除



Emendo は、イスラエルを代表する総合的な基礎研究機関であるワイツマン科学研究所の科学者によって 2015 年12 月に設立された。研究開発は主にイスラエルにおいて行われている。
設立後、CRISPR/Cas9 システムを用いたゲノム編集技術を発展させ、既存のゲノム編集技術の課題を解決し、より安全に医療への応用を可能とする次世代のゲノム編集技術の研究開発に取り組んでいる。

Emendoの主要株主は次の通り。

アンジェス 40.04%
OrbiMed Israel Partners II, LP 22.50%
Takeda Ventures Inc. 13.72%

アンジェスは、究極の遺伝子治療技術となる可能性のあるゲノム編集の分野についても進出したいと考え、ゲノム編集技術の開発ベンチャー企業であるEmendo に総額 54 百万米ドル を投資した。更に2020年に追加で50百万ドルを出資して合計4割とし、持分法適用関連会社としている。

Emendoは2019年4月24日、 武田薬品工業とのライセンスオプション契約締結を発表した。この取引の一環としEmendoは武田ベンチャー投資から投資を受ける。

ライセンスオプション契約により、武田薬品にはEmendoの特許である2つの遺伝子を編集するヌクレアーゼ・プログラム、OMNI使用のオプションが付与される。さらにEmendo は、武田が選択した遺伝子に高特異性と活性を持たせるためにオムニ・ヌクレアーゼを最適化する新型の遺伝子編集工学プラットフォームを使用する。

アンジェスによる買収後もEmendoは武田薬品とがん治療分野で共同開発を続ける。

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アンジェスは大阪大学医学部の森下竜一助教授による研究成果を基に1999年に設立され、マザーズに2002年に上場した。

同社は2019年3月に、「標準的な薬物治療の効果が不十分で血行再建術の施行が困難な慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症及びバージャー病)における潰瘍の改善」を効能・効果とする「コラテジェン筋注用4mg」を条件付きで承認を受けた。

プラスミド(大腸菌などの細菌や酵母の核外に存在し、細胞分裂によって娘細胞へ引き継がれるDNA分子の総称)に、血管を新生する作用を持つHGF(肝細胞増殖因子)遺伝子を組み込み、それをベクターとして虚血部位に注射することで、細胞内で遺伝子が発現、血管新生が促され血流が確保されて潰瘍を改善するとされる。

2019/2/22 厚労省部会、国内初の遺伝子治療2品目の承認を了承

アンジェスは本年3月に、上記の実績をもとに大阪大学と共同で新型コロナウイルス対策のための予防用DNAワクチンの開発を行うことを決定した。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム配列に基づき、ウイルスのスパイク蛋白質の遺伝子を導入したプラスミドDNA(環状のDNA)を設計し、このプラスミドDNAを産生する組換え大腸菌を確立し、GLP試験に使えるDNAワクチンの原薬を製造した。

2020/5/22 アンジェスの新型コロナウィルス向けDNA ワクチン開発

遺伝子治療用製品では、遺伝子を組み込んだベクターを導入して、欠損した遺伝子を補充したり、必要な遺伝子機能を増強する方法が行われてき たが、近年、特定の遺伝子を特異的に切断、編集、改変するゲノム編集技術により特定の遺伝子の機能を失わせたり、疾患の原因となっている遺伝子の異常を修正する方法が開発されてきた。

Emendo は設立後、CRISPR/Cas9 システムを用いたゲノム編集技術を発展させ、既存のゲノム編集技術の課題を解決し、より安全に医療への応用を可能とする次世代のゲノム編集技術の研究開発に取り組んで いる。

ゲノム編集は、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断することによって、標的とする遺伝子を改変するが、類似の配列を誤って切断してしまうこと(オフターゲット効果)により標的以外の遺伝子の変化を生じさせる可能性があるため、安全性上の課題となっている。

Emendoは、この方法とは別に、ターゲット配列以外ではDNA を切断することがない高精度な切断酵素の開発を行っている。これにより、安全性の高いゲノム編集が実現するのみでなく、類似した配列の制限を受けることなく、より自由に標的を選定できるようになることが期待できる。

アンジェスは、究極の遺伝子治療技術となる可能性のあるゲノム編集の分野についても進出したいと考え、ゲノム編集技術の開発ベンチャー企業であるEmendo 社に総額 54 百万米ドル を投資した。

Emendo を完全子会社とすることによって、これまで強みとしていたプラスミド製品、核酸医薬及び DNA ワクチンの3つの分野に加え、新たにゲノム編集の分野における先端技術を当社グループに加えることにより事業の第4の柱とすることができ、グループの守備範囲を大幅に拡大する。

同社は、米国及びイスラエルにも拠点を置く世界的な遺伝子治療用製品の開発企業となり、世界で初めてゲノム編集プラットフォーム技術及び治療プログラムを一体として所有する企業となり、「遺伝子医薬のグローバルリーダー」に近づいていくと考えて いる。

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