中国・豪州の関係悪化、豪州が中国をWTOに提訴 

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中国と豪州の関係が急速に悪化している。

豪州が中国通信機器最大手の華為技術(Huawei)の次世代高速通信「5G」への参入を禁じたことなどを契機に関係が悪化していたが、本年4月23日に、モリソン豪首相が新型コロナウイルスの感染経路について独立した調査が必要と主張、中国が猛反発した。

その直後から、中国は豪州に対し、貿易面で厳しい対策を相次いで実施した。

中国は豪州からの 輸入大麦やワインに追加関税を課し、豪州産牛肉に輸入規制を課すなどしている。石炭にも問題が出ている。


豪州政府は12月16日、中国が豪州産大麦に対して課した反ダンピング関税について世界貿易機関(WTO)に提訴した。

WTOの手続きは長期化するとみられる。

豪州側は、「中国が制裁ともいえる一連の決定を行ったことは、豪州企業が中国と取引するか決める際のリスクについての考え方を明らかに変えた」と指摘した。

中国外務部は、「豪州政府こそ中国側の懸念に真剣に対応し、中国企業に対する差別的なやり方を是正すべきだ」と反論した。Huawei の問題などを指しているとみられる。

付記

中国商務部は2021年3月26日、豪州産の輸入ワインについて反ダンピング及び反補助金調査でクロの最終決定を行なった。

豪州政府はWTOへの提訴も検討する。

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大麦についての経緯:

中国商務部は2018年11月19日に豪州産の輸入大麦に反ダンピング調査を開始、同年12月21日には反補助金調査を開始したが、その後、進展がなかった。

豪州が中国通信機器最大手の華為技術(Huawei)の次世代高速通信「5G」への参入を禁じたことなどを契機に関係が悪化していたが、本年4月23日に、モリソン豪首相が新型コロナウイルスの感染経路について独立した調査が必要と主張、中国が猛反発した。

中国商務部は直後の5月18日に、反ダンピングと反補助金調査でクロの最終決定を行った。

反ダンピングの税率は一律で73.6%、反補助金の税率は6.9%である。

豪州にとって中国は最大の貿易相手国で、2019年の大麦の輸出規模は6億豪ドル(約470億円)だが、同年は干ばつで輸出が落ちこんでおり、2017、18年の輸出額は14億豪ドルを超えて牛肉を上回っていた。

今回バーミンガム貿易相は、中国当局の決定が事実や証拠に基づいていないと非難したうえで「紛争を解決するため国際的な規則や独立した審判を求める」と提訴の理由を説明した。

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牛肉問題:

中国税関当局は本年5月12日、豪州の食肉処理場4か所からの輸入を停止した。輸入停止はラベリング・衛生認定要件に関連しているとされた。

Kilcoy Pastoral Company、JBS のBeef Cityと Dinmore の2工場、Northern Cooperative Meat Companyが対象で、豪州の対中輸出の約35%を占める。

中国外務省の報道官は、輸入停止は「中国消費者の健康と安全を守るため」だと主張。新型コロナ発生源調査についての質問に、この2つの問題が結び付いていることはないとし、「間違った政治的解釈をすべきではない」などと語った。

続いて8月27日に、中国の税関総署は豪州産牛肉の輸入を一部停止したと発表した。豪食肉会社John Dee Warwick からの牛ヒレ肉から中豪両国が使用を禁じる薬物クロラムフェニコールが検出されたという。
薬物が検出された牛肉は廃棄処分され、市場には出回っていないという。

更に12月7日に、中国は豪州のMeramist Pty Ltd からの牛肉の輸入を停止した。理由は発表していない。

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ワイン:

中国商務部は、豪州産の輸入ワインについて、8月18日に反ダンピング、8月31日に反補助金の調査を開始、それぞれ、11月27日と12月10日にクロの仮決定を行った。

反ダンピングについては24社に107.1%~169.3%、その他各社には212.1%の保証金を命じた。
反補助金については6.3%か6.4%の保証金を命じた。

追って、最終決定がある。


中国は2020年9月までの1年間で12億豪ドル(約920億円)相当を輸入しており、豪州産ワインの最大の購入国。

 

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石炭

10月に中国で豪州産石炭の通関手続きに遅れが出ていることが明らかになった。中国の国有発電大手関係者が「税関当局の指導を受け、発電用の石炭の輸入手続きに支障が出ている」と述べた。
中国の税関当局は同日、輸入管理を強化していることを認めた。「関係する産品の輸入の監督管理をさらに強化している」と、水面下で輸入手続きを遅らせていることを示唆した。

中国の2019年の石炭の消費量は約28億トンで、輸入量は約1割の約3億トン。豪州からの輸入量は7700万トンで、インドネシア(約1億3700万トン)に次いで国別で2位。

事情に詳しい複数の関係者が10月に明らかにしたところによると、中国は発電所や鉄鋼メーカーに豪州産石炭の輸入を一時停止するよう口頭で指示した。このため、停止措置がいつまで続くのかや既存の長期契約にどのような影響が及ぶのかを巡り不透明感が漂っていた。

人民日報系の環球時報や財新など複数の中国メディアは12月14日、中国当局が国内発電所に対して、豪州産の石炭は除いて制限なしに石炭輸入を認めることを決定したと報じた。

前日に環球時報が、豪州からの石炭輸入停止が正式に決まったと示唆していたが、当該記事はその後削除された。


豪州
政府は12月15日、この報道が事実であれば国際通商規定に違反すると指摘し、中国側に説明を求めた。



付記 キリンビールも 中豪関係悪化の巻き添えを食った。

キリンHDは8月25日、豪国内で乳製品や飲料を手がけるライオン飲料の売却を中止したと発表した。
キリンは2019年11月にライオン飲料を蒙牛乳業に6億豪ドルで売却する契約を結んだ。豪の競争・消費者委員会の承認は下りていたが、豪財務相が蒙牛乳業に対し、買収が「国益に反する」との見方を伝えた。

キリンは11月26日、これを同国の乳製品メーカー大手のBega Cheese Limitedに売却すると発表した。売却額は5.6億豪ドルとされる。


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