元慰安婦訴訟で日本政府に賠償命令

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韓国で旧日本軍の元従軍慰安婦の女性らが日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は1月8日、請求を認め日本政府に賠償支払いを命じる判決を出した。

原告は、ソウル郊外の元慰安婦支援施設「ナヌムの家」で暮らす李玉善さん(93)ら12人。

日本政府が「日帝強占期」(1910年から1945年までの35年間)に自分たちをだましたり強制的に慰安婦にしたとし、「元慰安婦に対する反人道的な犯罪行為は主権免除の例外とすべきだ」と主張し、2013年8月 に日本政府に損害賠償を求める調停を地裁に申請した。

日本政府が出頭しなかったため調停不成立となり、2016年1月に正式訴訟に移行した。

日本政府は訴状の受け取りを拒否したが、地裁は20年1月、書類を受け取ったとみなす「公示送達」の手続きを取った。

日本政府は国家は外国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則から、 調停にも審理にも、一度も出席していない。

主権免除には、
①絶対免除主義(国家の活動はすべて裁判権から除外される)と
②制限免除主義(国家の活動を「権力行為」と「職務行為」に分け、「権力行為」のみを免除の適用範囲とする)
の2つの説がある。

日本では1928年12月に大審院が絶対免除主義を取ったが、最高裁が2006年7月に制限免除主義を採ることを明言、大審院判例を変更した。
その後、2010年の「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」施行、同年の国連裁判権免除条約批准で、制限免除主義を採用している。

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第二次大戦時にナチス・ドイツに強制労働させられたイタリア人がドイツ政府に損害賠償を求めた件では、イタリアの最高裁は2004年に国際人道法違反は主権免除の対象外としたが、国際司法裁は2012年に主権免除を認めた。

付記

朝日新聞は1月9日、日本政府が国際司法裁判所(ICJ)に提訴する案を有力な選択肢として検討していると報じた。

しかし、韓国は相手国がICJに訴訟を提起すれば無条件に受け入れるICJの「強制(義務的)管轄権」を受け入れておらず、日本が提訴するとしても韓国政府がこれに応じない場合、訴訟自体が成立しない。
(日本は1958年に義務的管轄権を受諾した。)


調停申請時、原告は12人だったが、多くが他界し、生存者は5人となっている。

ソウル中央地裁は、原告1人あたり1億ウォン(約948万円)の支払いを命じる原告勝訴の判決を出した。

「主権免除」については、「この事件の行為は合法的と見なしがたく、計画的、組織的に行われた反人道的行為で、国際強行規範 国際法上いかなる逸脱も許されない規範)を違反した。原告は精神的、肉体的な苦痛に対し、被告から国際的な謝罪を受けていない」とし「特別な制限がない限り『国家免除』は適用されない」とした。

日本は1965年の日韓請求権協定と2015年の日韓合意で解決済みとの立場だが、判決は「 請求権協定と慰安婦合意をみると、この事件の損害賠償請求権が含まれていると見るのは難しく、請求権は消滅したと見ることはできない」とした。

そのうえで、「各種資料と弁論の趣旨を総合すると、被告の不法行為が認められ、原告は想像しがたい深刻な精神的、肉体的苦痛に苦しんだとみられる」とし「被告から国際的な謝罪を受けられず、慰謝料は原告が請求した1億ウォン以上と見るのが妥当」とした。

地裁は仮執行を認めており、日本政府が控訴をするかしないかの判断に関わらず、韓国内にある日本政府資産の差し押さえ手続きを取ることが可能になる。

付記

実際には日本政府資産の差し押さえは難しい。

在韓日本大使館の建物と敷地、大使館の車両などは、ウィーン条約第22条第3号が「公館、公館内にある用具類その他の財産及び使節団の輸送手段は捜索、徴発、差押え又は強制執行を免除される」と規定しており、強制執行が不可能である。

日本文化院も外務省所属の政府機関であり、各国派遣大使館(または総領事館)の一部としてウィーン条約の特権が保証される。

日本国内の日本政府資産に対する差し押さえも、韓国の裁判所が日本司法当局を相手に「執行承認」を要請しなければならず、日本の裁判所が執行を許諾する可能性はない。

元徴用工への賠償を日本企業に命じた2018年の韓国大法院(最高裁)判決に続き、日本政府の賠償責任を認めた韓国の司法判断 となる。

韓国大法院は2018年11月29日、三菱重工業に対し、第2次世界大戦中に同社の軍需工場で労働を強制された韓国人の元徴用工らに対する賠償支払いを命じる判決を下した。

大法院は、損害賠償訴訟2件について、三菱重工業の上告を棄却し、2件の訴訟の原告に対し、1人あたり最大で1億5000万ウォン(約1500万円)の支払いを命じた。


韓国で元慰安婦らが日本政府を相手に損害賠償を求めた訴訟は2件あり、1月13日には「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」が支援する元慰安婦ら20人による訴訟の判決が言い渡される。

付記 判決は延期された。裁判所は追加の審理の必要性があるとみて弁論を再開、3月24日を弁論期日に指定した。

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