大日本住友製薬の再生医療事業

| コメント(0)

日本経済新聞(2021/3/14)は、大日本住友製薬がパーキンソン病の患者に再生医療を施す臨床試験を2022年度に米国で始めると報じた。

パーキンソン病は有効な治療法がなく、症状の進行をゆるやかに抑える対症療法しかない。iPS細胞で実際に症状を改善する治療法開発につなげたい考えだ。


京都大学医学部附属病院は2018年7月30日、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験を8月1日より開始すると発表した。

パーキンソン病は脳で神経伝達物質のドパミンを分泌する神経細胞が失われる難病で、体が震えたり筋肉がこわばったりする。

再生医療用iPS細胞ストックから提供されたiPS細胞をドパミン神経前駆細胞へ分化させ、分化誘導したドパミン神経前駆細胞(計約500万個)を、定位脳手術により、患者の脳の線条体部分(左右両側)に移植する。 手術は、頭部を固定した上で頭蓋骨に直径12mmの穴を開け、そこから注射針のような器具を用い、細胞を注入する。

本治験は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)と大日本住友製薬より支援を受けて実施される。治験が成功すれば大日本住友製薬が開発を引き継ぎ、実用化を目指す。

2018/7/30 京大がiPS細胞でパーキンソン病治療臨床試験へ


ーーー

大日本住友製薬の再生・細胞医薬分野の事業化計画は下記の通りで、本件は2022年度上市目標としている。

1. 小児先天性無胸腺症(RVT-802)

T細胞の正常な発達に必要である胸腺が存在しないか未発達のため、T細胞の数が少なく、様々な感染症に対する抵抗力が不十分で、生後まもなく感染症にかかり、再発を繰り返す。

RVT-802は、先天性無胸腺症の小児患者に移植されて免疫応答機能を発揮するように作成された培養ヒト胸腺組織で、生涯に1回きりの再生医療である。

本剤は心臓病の小児の心臓手術中に除去されたヒト胸腺組織で患者の大腿四頭筋に移植される。患者自身の骨髄由来幹細胞が本剤に移動して成熟T細胞に分化することによって、感染を防御する。治療後612カ月で感染を防御するのに十分な胸腺機能が発達する。

20194月に米国で申請、201912月審査結果通知を受領、再申請の準備中。


2. 加齢黄斑変性

大日本住友製薬と理研認定ベンチャーのヘリオス(旧称 日本網膜研究所)は2013年12月2日、再生・細胞医薬事業に関する提携を発表した。

加齢黄斑変性等の眼疾患を対象としたiPS細胞由来網膜色素上皮細胞(RPE細胞)を用いるもので、世界初のiPS細胞技術を用いた再生・細胞医薬事業に向けたもの。

2013/12/4 大日本住友製薬と理研認定ベンチャーのヘリオス、iPS細胞由来医薬品を共同開発


3. パーキンソン病  上記


4. 網膜色素変性

神戸市立神戸アイセンター病院は、「網膜色素変性に対するiPS細胞由来網膜シート移植に関する臨床研究」について、2020年611日の厚生科学審議会再生医療等評価部会了承されたと発表した。

「網膜色素変性」は、遺伝子のキズが原因で光を感じる組織である網膜が少しずつ障害を受ける病気で、人口約5000人に1人の割合で患者がいるとされている。

京都大iPS細胞研究所(CiRA)が「iPS細胞ストック事業」で備蓄しているiPS細胞を使い、大日本住友製薬が網膜シートを作成する。 理化学研究所が免疫反応試験を行う。

2020/6/15 iPS網膜シートの移植、臨床研究開始へ 


5. 脊髄損傷

厚生労働省の専門部会は2月18日、iPS細胞を使って脊髄損傷を治療する慶応義塾大学の臨床研究計画を了承した。
慶應義塾特定認定再生医療等委員会が、2018年11月27日に計画を承認し、厚生労働大臣へ申請していた。

iPS細胞から作った神経のもとになる神経前駆細胞を患者に移植し、機能改善につなげる世界初の臨床研究である。

2019/2/20 iPS細胞で脊髄損傷治療

これに関し2020年11月、慶應義塾大学と大日本住友製薬の共同研究で、臨床用ヒトiPS細胞から効率的にグリア細胞(オリゴデンドロサイトなど)へ分化する臨床応用可能な誘導方法を開発し、脊髄損傷モデル動物の脊髄への投与により低下していた運動機能の改善を認めることを確認したことが発表された。

(1)作製された細胞は免疫染色、遺伝子発現解析でグリア細胞分化指向性が高いことを確認

(2)移植した細胞は多くがオリゴデンドロサイトに分化し、再髄鞘化を確認

(3)細胞移植したマウスで、脊髄損傷により低下した運動機能が改善


6. 腎不全

慈恵大学・東京慈恵会医科大学、明治大学、バイオス、ポル・メド・テック、大日本住友製薬は2019年4月5日、iPS細胞を用いた「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生医療の2020年代での実現を目標として、共同研究・開発などの取り組みを開始すると発表した。


ヒト
iPS細胞から分化誘導したネフロン前駆細胞を、ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ」の胎仔から採取した腎原基に注入し、その後、腎原基を患者に移植することによって、臓器ニッチを利用した機能的腎臓の再生を目指すもの

「胎生臓器ニッチ法」用いた腎臓再生医療の事業化は、5者協力のもと大日本住友製薬が担う。

2019/4/9 腎臓の再生医療実現に向けた取り組み開始 

コメントする

月別 アーカイブ