テキサス大停電とその影響

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2月に米国を襲った記録的な寒波とテキサス州の大規模停電の影響が拡大している。

記録的な寒波に伴う米テキサス州全域の停電で、オースティン周辺に集積する半導体工場が操業停止となった。

半導体で世界2位のSamusung電子も2月16日にオースティンの施設で稼働を停止したと発表。半導体の仕掛かり品、ウエハーの損傷は免れたものの、稼働停止が長期化し供給問題が浮上した。

テキサス州にあるオースティン工場は半導体受託生産の拠点で、Qualcommの通信用半導体のほか、自社の有機ELパネルやイメージセンサーの駆動用半導体などを手掛ける。
Samusungは「施設点検と補修など準備を進めているが、正常稼働にはまだ時間がかかる。安全を最優先に早期正常化に努力する」としている。

調査会社によると、「オースティン工場の3月中の正常化は難しい」と し、「5G」対応スマホに限れば、4~6月の世界のスマホ生産落ち込みは30%に達すると推計 する。

車載用半導体でも、オランダのNXP Semiconductorsはオースティン周辺にある2工場の生産を、ドイツのInfineon Technologies AGもオースティン工場の操業を休止した。

世界的な半導体不足に米国生産の停止が加わった。


付記(関連)

半導体大手のルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で3月19日午前2時47分に火災が発生し、約5時間半後に鎮火した。
被害を受けたのは先端品の量産を担う直径300ミリメートルの半導体ウエハーに対応した生産ラインで、主に自動車の走行を制御するマイコンを生産している。ルネサスは同マイコンの世界首位で約2割のシェアを握る。

同社では「1カ月以内での生産再開にたどりつけるよう尽力する」としているが、操業停止が長引けば世界的に不足が続く車載半導体の供給に影響が出る可能性がある。

テキサス州は全米の石油生産の4割を占め、石油化学 コンビナートも多数ある。メキシコ湾岸沿いに集中する化学プラントが一時軒並み停止に追い込まれた。三菱ケミカルのアクリルモノマープラントや信越化学のテキサスのPVC工場も停止した。それらを使用する部品工場も停止した。

テキサス州は温暖な州のため、プラントの多くが寒波を想定していない設計だったため、凍結で配管の破断が起きた。そこに停電が加わった。

大規模停電から約1カ月が経過したが、破損した配管の復旧などに手間取り、通常稼働に戻っていない。
このため自動車や住宅向けの樹脂不足が深刻化している。ある自動車部品メーカーの幹部は「樹脂材料が通常時の5割程度しか供給されていない。日に日に影響は広がっている」と困惑する。

ホンダは3月16日、米国とカナダの5工場で3月22日から1週間程度、生産を休止すると明らかにした。世界的な車載用半導体不足に加え、部品の供給が滞った 。

トヨタも米国とメキシコで完成車とエンジン生産の計4工場を一部休止して生産調整することが 分かった。DuPont製の樹脂の供給不足が要因とされる。

樹脂不足は住宅業界や医療分野にも広がっている。

米国の化学品市況で、ポリプロピレンが1年前に比べ約3倍に上昇、低密度ポリエチレンも1年で倍になった。

日本にも影響が出た。
東レは3月上旬に、自動車のエアバッグに使うナイロン66の繊維の国内需要家に
フォースマジュール条項を宣言した。
原料アジポニトリルの調達先である米国の化学メーカーINVISTAとAscend Performance Materialsが、2月の寒波の影響で出荷が不安定になっているためとして東レなど需要家に対しフォースマジュール条項を宣言した。

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2月10日~20日に全米を冬の嵐が襲った。2月16日にはアメリカ本土の73%の面積が雪に覆われ た。

北極にある極渦(北極を覆う冷気)がジェット気流の乱れによって、テキサス州まで蛇行したことによって発生したとされる。

テキサス州は、冬でも氷点下になることはまれであるが、ヒューストンの気温は2月15日の 朝にはセ氏マイナス8度と、アラスカ州アンカレッジと同水準になった。

大寒波の到来で電力需要は冬季過去最高を記録し、州の送電網運営組織が想定していた「異常」需要のシナリオを超えた。 加えて、多数の天然ガス発電所や風力発電所が突如停止状態になり、テキサス州の送電網は危機的状況に陥った。送電網全体の停止を防ぐため、電力事業者に計画停電を指示し、顧客への電力供給を切断した。

テキサス州は450万軒以上の家屋と事業所が停電し、停電は水の処理施設にも影響を与えた。浄水場が停電し、水道管の凍結によって給水網の水圧が下がった。道路は凍結した。

バイデン大統領は2月20日、連邦政府の支援を拡大するため、非常事態宣言に続き、同州で大規模災害を宣言した。


テキサス州の電力ソースは下図の通り。

大寒波による影響で、停止を余儀なくされた発電所の出力規模は合計45GWに上った。

テキサス州知事(共和党)は氷点下で風力発電が稼動停止したのが主因であり、温暖化対応策として風力発電を導入したことが停電につながったと非難した。

しかし、これは誤りである。

1) 風力発電は凍結防止装置など耐寒性を上げれば極寒の北欧でも稼動させることは可能である。温暖なテキサス州 ではそのような対策が講じられなかった。

2) 風力だけでなく、天然ガスによる発電も天然ガスを運ぶパイプラインが凍結 しため、停止した。

大寒波によって失われた発電能力は、風力発電で15GW、天然ガス/石炭発電で30GWで、天然ガスと石炭火力の 停止の影響が風力の停止の2倍になる。

更に、テキサス州独自の電力系統が被害を大きくした。

米国の電力系統は、東部送電網西部送電網テキサス州送電網周波数同期エリアに分かれている。3つの地域の間には、非常に容量が低い直流線があるに過ぎない 。

送電線の運用制御は、従来は送電線を所有する電力会社が実施する形態が大半であった が、1990年代の卸電力市場の自由化に伴い、連邦規制当局により広域系統運用機関の設立が推奨され、 送電線の所有権を電力会社に残しながら、運用制御機能を広域系統運用機関に移管している。

通常であれば、電力が一時的に不足すれば他州から電力を調達することも可能だったはずだが、連邦政府による管理を嫌うテキサス州の電力運営方針が災いし 、他州から供給を受けられなかった。

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