米FTC、Illumina によるGRAIL買収に異議  

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米FTCは2021年3月30日、IlluminaによるGRAILの買収を差し止めを求める訴訟を首都ワシントンの連邦地裁に起こした。

米国の遺伝子解析ツール開発会社Illumina, Inc.は2020年9月21日、がん検査技術の開発を手掛ける米新興企業GRAILを80億ドルで買収することで合意した。
Grailの株主は35億ドルの現金とIlluminaの普通株45億ドル相当を受け取る。両社の取締役会はすでに買収を承認している。

Illuminaは現在、GRAIL株式の14.5%を保有している。 実際にはGRAILの他の株主に現金で31億ドル、株式で40億ドル相当、合計で71億ドルを渡すとされる。(計算不明)
GRAIL
株主は、12年間にわたり、一定のGRAIL関連収益に応じて支払いを毎年受ける。

取引完了後、Illumina株主は統合会社の93%を所有することとなり、GRAIL株主は7%を所有する。


GRAILは元々、Illuminaが設立した。

世界最大のDNAシーケンサー(塩基配列読み取り装置)メーカーであるIlluminaは2016年1月10日、簡単な血液検査からがんスクリーニングを可能にするため、新会社GRAILとの設立を発表した。
Illumina のsequencing technologyを使用し、血中の循環核酸を直接測定する全がんのスクリーニング検査を開発する。

「シンプルな血液スクリーニングにより無症状の個人でがんの早期検出を可能にすることで、治療可能なステージで疾患を検出し、がん死亡数を大きく減らすことを目標としている」としている。

GRAILはIlluminaが過半数を所有する別会社として設立、シカゴ大学での革新的な技術事業化イニシアティブをスピンオフして1986年に設立されたベンチャーキャピタルのARCH Venture Partners、アマゾン創業者のBezos Expeditions、Microsoft創業者のBill Gates、ベンチャーキャピタルのSutter Hill Venturesの参加型投資を得ている。

今回の合併について、IlluminaとGRAILが協力すれば、GRAILの革新的な複数がん早期発見用の血液検査をより幅広くより早く普及させることができるとしている。

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血中には血中系細胞の死滅時に細胞外に放出される細胞由来のDNA断片(circulating tumor DNA: ctDNA)が循環しているが、がん細胞が原因で放出されたctDNAには、DNA中のメチル基のヒドロキシル化が生ずる「DNAメチル化」に異常が起きている。

GRAILは、がん化によって組織ごとに特有に生じるctDNAのメチル化パターンの異常を同定した。

患者の血中のctDNAを検査することで、がんの有無とその原発部位を特定する。
同社の技術ですべてのステージを対象にし、5大がんを含む20種類以上のがんをカバーした試験において、特異度が99%であった。

血液中のアミノ酸濃度測定によるスクリーニングテストは5つの癌(乳がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、子宮頸がん )に限られ、1つのテストで1つの癌しか判定できない。

GRAILの手法では50以上の癌が1回の血液検査で分かる。



この技術はGalleriTM multi-cancer screening testと名付けられた。

ctDNAはごく微量なため、ctDNAを解析するためには検出感度の高い検査が必要で 、IlluminaのNext-Generation Sequencing(NGS)が使用される。

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米FTCは2021年3月30日、買収を差し止めを求める訴訟を首都ワシントンの連邦地裁に起こした。 委員会は民主党系2名、共和党系2名の委員で構成されるが、4-0の賛成での決定である。

買収によって競争が阻害され、技術革新が停滞すると主張した。競合しない企業同士の統合について、米当局が「もの言い」をつけるのは珍しい。

FTCは、早期の癌検出技術は非常に有用であるが、遺伝子解析装置の購入先としては Illumina以外の選択肢が乏しいとする。
IlluminaがGRAILを買収すれば、GRAIL以外の会社に装置を高く売りつけ、技術革新を阻害する可能性があると指摘した。

民主党系の委員はツイッターに「ヘルスケア業界の垂直統合は競争を阻害し、新たな発見の芽を潰す。患者の費用負担増にもつながる」と書き込んだ。

バイデン政権と民主党は競争政策の見直しを進めている。競争を阻害しかねない合併に対し、より高いハードルを設けるほか、政府の反トラスト法執行要員を増やす ことを検討している。

これに対しIlluminaはFTCによる発表の直後に声明を出し、FTCによる買収差し止めの動きは、長年の反トラスト法執行実務からかけ離れて おり、買収計画の遂行に向けて裁判で争う姿勢を示した。

IlluminaとGRAILは競合せず、需要家には契約で遺伝子解析装置の"equal and fair access" を保証しており、さらに2025年までに40%以上の値引きを約束していると主張している。


FTCは2019年にもIlluminaによる買収阻止に動いている。

Illuminaは2018年11月1日、米国のPacific Biosciencesを12億ドルで買収すると発表した。

Illuminaのshort-read sequencing platforms は正確で手頃であることから、多くのアプリケーションに活用されているが、ゲノムのde novoシーケンシングや相同性の高いゲノム領域の解析といった一部のアプリケーションに対しては正確なlong-read sequencing platforsのほうが適している。Pacific Biosciencesのlong-read sequencing platforsが加わることで、統合したワークフローと新たな技術革新を提供する立場となる。

FTCは2019年12月17日、買収について異議を表明し、買収を阻止するための行動を起こした。
Illuminaが買収により新たな競争上の脅威となり得るPacific Biosciencesを排除することで次世代遺伝子解析システムの米市場における独占を不法に維持しようとしていると指摘した。

これについては英国のCMA(競争・市場庁)も2019年11月に、買収案は差し止めるべきとの判断を発表した。その理由として、器具の抱き合わせ販売の制限といった行動的問題解消措置や、知的財産権の分割といった構造的問題解消措置がとられていない点を挙げた。

IlluminaとPacific Biosciences は2020年1月2日、買収契約を解除したと発表した。Illuminaが契約解除手数料9800万ドルを支払い、合併提案は撤回された。

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