新型コロナウイルスの人工合成技術を開発

| コメント(0)
大阪大や北海道大などのチーム新型コロナウイルスを短期間で人工合成する方法を開発した 従来は合成に数か月かかったが、この方法を使うと2週間に短縮できるという。ウイルス遺伝子の改変も容易にでき、世界で拡散する変異ウイルスの解析に役立つとしている。

4月1日付で英国科学雑誌「Cell Reports」にオンライン公開された。
  
"Establishment of a reverse genetics system for SARS-CoV-2 using circular polymerase extension reaction"

ウイルスの人工合成は、大腸菌にウイルスの遺伝子を組み込んで複製を作る方法が一般的だが、新型コロナは遺伝情報が多く、そのままの状態で複製すると予期しない変異が起きやすい。
このため限られた研究者しか合成できず、時間もかかっていた。

大阪大学の微生物病研究所の鳥居志保特任研究員、感染症総合教育研究拠点の松浦善治特任教授、北海道大学大学院の福原崇介教授らの研究グループは、CPER法を用いることにより、わずか2週間で新型コロナウイルスを人工合成する新しい技術を確立した。

CPER(Circular Polymerase Extension Reaction) 法はPCRを活用した手法で、重なる領域を有する遺伝子断片を鋳型にDNA合成酵素 (ポリメラーゼ) を用いて伸長反応を実施することにより、遺伝子断片が連結した環状のDNAを作出する方法。2013年に発表され、デング熱を起こすデングウイルスなどが含まれるフラビウイルスのワクチン開発に活用されている。

本技術により、
 ・従来数ヶ月かかっていたウイルスの合成が大幅に短縮されることで新型コロナウイルスの研究開発が加速化する。

 ・世界中で出現する様々な変異を持つ新型コロナウイルスに対しても迅速に解析することが可能となる。

 ・外来遺伝子を組み込むなど遺伝子操作をしたウイルスを用いた研究は病原性解析や予防法・治療法の開発にも応用可能。


手法は下記の通り。

ステップ

新型コロナウイルスの遺伝子全長をカバーする9個のウイルス遺伝子断片とプロモーターを含むリンカー断片をPCRで増幅。
各断片が隣り合う断片と重なる領域を持つよう設計。

ステップ

各断片が隣り合う断片と重なる領域を持つよう設計されているため、もう一度PCRを行うと、10個の断片が一つに繋がり、ウイルス遺伝子全長をコードする環状のDNAを作製できる。

ステップ

この環状DNAを新型コロナウイルスがよく増殖する培養細胞に導入すると、細胞の中でDNAをもとにRNAが合成され、さらにこのRNAをもとにウイルスが合成されて、約7日間で感染性の新型コロナウイルスを作出することができた。

高度な遺伝子操作技術を用いずに、PCRのみで新型コロナウイルスの感染性DNAクローンを作製できることが分かった。

さらに、GFPなどの蛍光タンパク質を導入したウイルスや、任意の遺伝子を変異させたウイルスも作出可能であることを示した。

ウイルスに蛍光タンパク質を導入すると、ウイルスが感染した細胞で蛍光タンパク質が発現するため、感染細胞を可視化することができる。

これまでの大腸菌にウイルスの遺伝子を組み込む方法でのウイルスの人工合成は限られた研究者しか出来ず、時間もかかっていた。
本研究成果により、より多くの研究者が迅速・簡便に新型コロナウイルスを合成できるようになり、人工的に遺伝子改変したウイルスを用いた病原性解析やワクチン・抗ウイルス薬の開発、また、次々と現れる変異ウイルスに対するこれまで以上に素早い解析が可能となる。

新型コロナウイルス感染症克服に向けた研究が飛躍的に進むことが期待される。

コメントする

月別 アーカイブ