米国のCPI急上昇とその背景

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米労働省が5月12日に発表した4月の消費者物価指数は前年同月比の上昇率が4.2%となった。2008年9月以来、12年7カ月ぶりの高い伸びとなった。
食品・エネルギーを除いたものも+3.0%となった。

NY連銀の「基調的な物価指標」(UIG) も食品・エネルギーを除いたものは+2.9%と上昇した。

  12月 1月 2月 3月 4月
cpi +1.4% +1.4% +1.7% +2.6% +4.2%
同(除 食品&エネルギー) +1.6% +1.4% +1.3% +1.6% +3.0%

PCE

+1.2% +1.4% +1.5% +2.3% (5/28)
同(除 食品&エネルギー) +1.4% +1.4% +1.4% +1.8%

UIG price-only

+2.1% +2.1% +2.3% +2.6% +2.9%


低迷した前年の反動に経済再開に伴う人手や原材料の供給制約が重なり、物価の上昇圧力となっている。

米連邦公開市場委員会(FOMC)は4月28日、物価上昇は一時的とした。

ワクチン接種の進捗と力強い政策支援を受け、経済活動と雇用の指標は強さを増した。パンデミックによる打撃がもっとも大きかった産業は依然弱いが、回復し始めている。
物価上昇率は、主に一時的な要因を反映して上昇した。経済および米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般に依然として緩和的だ。

FOMCは、雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。

人手不足については、1.9兆ドルの経済対策法が影響しているとの見方が強い。

米下院は3月10日、1.9兆ドル(約200兆円)規模の新型コロナウイルス対策法案(American Rescue Plan ) (上院が修正したもの)を賛成多数で可決した。
バイデン大統領は3月11日に署名、成立させた。

これには失業保険の州支給分への上乗せが含まれる。

州の失業保険支給分(平均 週370ドル)に国から週300ドルを上乗せするもので、3月14日に期限切れになるものを9月6日まで延長した。

2021/3/7 米上院、1.9兆ドル経済対策法案を可決 

これは2020年3月にトランプ政権の第一次の新型コロナウイルス対策の2兆ドル規模の景気刺激策に最初に採用されたもので、当初は各州の規定に最大600ドルを加算するもので、失業給付は最大で週に1000ドルにもなり、働いている時よりも多くなると噂された。

今回、下院は当時の300ドルを400ドルに増やす案を通したが、上院で300ドルに引き下げ、下院で再可決した。

それでも失業保険が平均で670ドル、これをはるかに上回る州も多い。

このため、低賃金の仕事には応募せず、失業保険を引き続き受け取る人が多いとされる。

4月の雇用統計では、失業率は6.1%であった。

米国でのコロナ発生直前の2020年2月の失業率は2019/9、11、12月に続く3.5%で、1969年12月(3.5%)以来のものである。

それが2020年4月には14.8%に急増、1982年12月の10.8%を超え、戦後最大となった。その後、順次下落し、2021年3月に6.0%となったが、4月は6.1%に上がり、下げ止まっている。

一方、非農業部門の雇用者数変化は下図の通りで、2021年4月の雇用は+26.6万人となっている。

米国では2020年2月に雇用が+28.9万人となったがコロナの蔓延でその後急減し、4月には-2,067.9万人となり、その後増加に転じた。

しかし、2020年2月から2021年4月までの増減累計は -818.5万人で、コロナ以前にはほど遠い。

コロナ以前は今より800万人も雇用が多く、失業率も完全雇用水準(4.6%)をはるかに下回る3.5%であった。

経済が元に戻りつつあり、人手不足(と原材料供給問題)で消費者物価が上がるなかで、失業率が6%前後にとどまっている。

これは、本来働いている筈の人が、職があるのに、働かないことを意味している。

特に低賃金の職の場合、働くよりも失業保険の方が多いことが理由とされる。政府の失業保険上乗せは9月6日まで続く。

共和党はこれが失業者の間で仕事への復帰意欲をそいでいると主張し、政権攻撃の材料としている。

モンタナ州とサウスカロライナ州の知事(共和党)は既に、産業界の不満に応えて、連邦政府の失業給付プログラムからの早期離脱を表明している。

バイデン大統領は5月10日、これに反論し、「魅力的で良い機会が見つかっても働かない人々がいるという主張は米国民を過小評価するものだ」と述べた。同時に「ふさわしい職が見つかれば就業すべきであって、さもなければ法律の規定に基づいて受給資格を失うことになる」と述べ、給付制度に便乗することがないよう警告した。

なお、下院が当初通した新型コロナウイルス対策法案には、最低賃金を15ドルに引き上げることが含まれていたが、今回は「予算決議」の下での法案となり、法案の内容が限定されるため、削除された。
連邦政府が定める最低賃金は2009年以降、時給7.25ドルである。(但し、州法では10ドル以上が10州以上ある。)

2021/3/1 米下院、1兆9千億ドルのCOVID-19対策法案可決 

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