ipS細胞による筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬探索

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慶応大の研究チーム(大学病院神経内科診療科・中原仁教授、医学部・岡野栄之教授ら)は5月20日、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人にパーキンソン病の薬 ロピニロール塩酸塩を投与する医師主導治験を行い、その安全性と有効性を確認したと発表した。

ALSは筋肉を動かす神経が障害を受け、全身の筋肉がやせていく進行性の難病で、細胞内に特定のたんぱく質が異常にたまることなどが原因とされる。薬やリハビリで病気の進行を遅らせることはできるが、現時点で治す方法はない。

グループはALSの人のiPS細胞からつくった神経の細胞で病気の状態を再現させることに成功、さまざまな病気に使われる約1230種類の薬で効果を試し、2016年にパーキンソン病の薬であるロピニロール塩酸塩がALSの病態に有効であることを見出した。

この薬は、「家族性ALS」の人のiPS細胞を使って発見した。治験前の実験で、血縁者に患者がいない「孤発性ALS」の人からつくったiPS細胞でも約7割で効果が確認されている。

この薬がALSに有効な可能性があるとして、2018年に治験を始めた。

治験には、発症して5年以内で、多少の介助があれば日常生活が可能な43~79歳の20人が参加した。
最初の半年間は13人が薬を、7人が偽薬をのんだ。その後の半年間は、治験を継続できた17人全員が薬をのんだ。

その結果、薬を1年間続けてのんだ人では、一人で歩けなかったり、物ののみ込みが難しくなったりするなどの状態になるまでの日数の中央値は約50週と、偽薬から始めた人より195日長くなった。既存の薬より効果が見られた。副作用などの理由で途中で薬をやめた人はいなかった。

今回の研究結果により、有効な治療法に乏しいALSという非常に重い病に、新たな治療の選択肢がもたらされる可能性が示された。

今後、追加の治験の必要性などを検討し、早めの承認申請をめざす。

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iPS細胞を使い、角膜や心臓の筋肉細胞、軟骨等々を作り、移植する再生手術が盛んに行なわれているが、今回のようにiPS細胞から特定の細胞をつくり、効果のある薬を見つけ出すというのが、山中教授が期待していた使い方である。

2011年9月の毎日新聞「時代を駆ける」で山中教授は以下の通り述べている。

iPS細胞でいちばん幅の広い使い方は、患者さんのiPS細胞から特定の細胞を作り出し、試験管内で薬の効き目や副作用の予見をすることです。ツール(道具)として使っていただき、新しい薬が一つでも二つでもできてほしい。

iPS細胞から作った組織を移植する再生医療についても、実現に向けて安全性の課題を克服していきたい。本当の意味で患者さんの役に立つ技術に持っていきたいという気持ちが研究の原動力です。

患者団体の集まりに参加したり、いろんな場面で思いを受け止めています。勇気づけられるのは、すぐには治療法がない患者さんにとって、iPS細胞を含むいろいろな発見が生きる希望になっているということ。

ALSについては、これまでも iPS細胞を使って治療薬の探索が行われている。

京都大学の研究グループは2012年8月1日、山中伸弥iPS細胞研究所長らの研究グループと協力し、ALS(筋萎縮性側索硬化症:ルー・ゲーリッグ病)の患者から作成したiPS細胞を用いて、ALSのこれまで知られていなかった病態を解明し、ALSに対する新規治療薬シーズを発見したと発表した。

ALSは運動ニューロン(神経細胞)が変性することで次第に全身が動かなくなり死に至る疾患。

これまではALS患者から運動ニューロンを取り出すことができなかったために、患者の病態をそのまま反映するモデルを作ることが難しく、ALS治療に有効な治療薬開発は進んでいなかった。

今回、TDP-43というタンパク質をコードする遺伝子に変異を持つ家族性ALS患者から作成したiPS細胞を用いて、運動ニューロンを分化誘導した。

このALS運動ニューロンには、ALS病理組織の運動ニューロン内で見られるものと類似のTDP-43の凝集体が観察された。さらに、ALSに罹患していない運動ニューロンと比較して、突起が短く、ストレスに対して脆弱になっていた。

このタンパク質は、ALSでは自己調節が異常をきたして、運動ニューロン内でTDP-43の発現量が増加し、神経細胞骨格の遺伝子発現や、RNA代謝に関連する分子の遺伝子発現に異常が生じていることが分かった。

そこで、RNA代謝を調節することが知られている化合物をALS運動ニューロンに作用させたところ、アナカルジン酸(anacardic acid)と呼ばれる化合物によって、TDP-43の発現量が低下し、ALS運動ニューロンのストレスに対する脆弱性が改善され、神経突起の長さが回復することを発見した。

TDP-43の異常を制御する本研究の治療薬シーズは、患者の大半を占める孤発性ALSにも効果があることが期待される。

2012/8/6 患者のiPS細胞でALSの病態解明・治療薬シーズ発見  

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ALSについては再生医療も行われている。

京都大学の高橋淳教授らは2018年11月9日、iPS細胞から育てた神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植したと発表した。医師主導による臨床試験(治験)の1例目。

パーキンソン病は脳で神経伝達物質のドパミンを分泌する神経細胞が失われる難病で、体が震えたり筋肉がこわばったりする。

京都大学iPS細胞研究所で構築している「再生医療用iPS細胞ストック」から提供されたiPS細胞をドパミン神経前駆細胞へ分化させ、分化誘導したドパミン神経前駆細胞(計約500万個)を、定位脳手術により、患者の脳の線条体部分(左右両側)に移植する。

手術は、頭部を固定した上で頭蓋骨に直径12mmの穴を開け、そこから注射針のような器具を用い、細胞を注入する。

細胞移植後に免疫反応が起こる可能性があるため、本治験では、既に臓器移植等において臨床実績のあるタクロリムスを細胞移植時の免疫抑制剤として使用する。

治験が成功すれば大日本住友製薬が開発を引き継ぎ、実用化を目指す

2018/7/30 京大がiPS細胞でパーキンソン病治療臨床試験へ 

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