塩野義製薬、海外取引に関する国税局との訴訟で勝利

| コメント(0)

エイズウイルス(HIV)の治療薬開発を巡り、大阪国税局から約400億円の申告漏れを指摘された塩野義製薬が課税処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は4月14日、一審・東京地裁判決に続き、塩野義側の請求を認めて計約80億円の課税を取り消した。これについて期限の4月28日までに国から上告の申し立てがなく、判決が確定した。

事案と経緯は下記の通り。

塩野義製薬はViiV Healthcare (GSKとPfizerのJV)との 50/50JVのShionogi-ViiV Healthcare でHIVインテグレース阻害薬ドルテグラビルの開発を行ってきたが、2012年10月29日に、HIV治療薬JVの枠組み変更を発表した。

Shionogi-ViiV Healthcare の50%持分をViiV Healthcareに譲渡し、見返りにViiV Healthcareの10%の権利を取得する。

2012/11/2 塩野義製薬、HIV治療薬JVの枠組み変更

塩野義製薬は2014年9月12日、大阪国税局よりHIV治療薬JVの枠組み変更取引にからみ、「法人税等更正通知書及び加算賦課決定」を受領したと発表した。
更正された所得金額は約405 億円だが、対象年度に欠損金があっため、追徴税額は地方税等を含め約 13億円となる。(その後、欠損金がなくなり、追徴税額は増えた。)

問題点:

1)塩野義はShionogi-ViiV Healthcare の50%持分を、先ず英国子会社のShionogi Limitedへ簿価(約130億円)で現物出資した。

2)Shionogi LimitedはこれをViiV Healthcare に譲渡し、対価としてViiV Healthcare株10%(時価約530億円)を取得した。

3) 英国ではこの取引は無税で行われたとみられる。

4) 塩野義は2013年3月連結決算で、Shionogi-ViiV Healthcareの簿価とViiV株式10%の時価との差 40,433百万円を特別利益に計上した。

5) 日本の税務申告では、組織再編税制の規定に基づき、当局の確認を得たうえで、(簿価での)現物出資として税務上の所得はゼロとして申告した。
 (英国子会社では404億円の特別利益が出たが、日本では簿価130億円の持株を同額で英国子会社に現物出資するため、所得はゼロとなる。)

6) これに対し、大阪国税局はこの特別利益を塩野義の税務上の所得と認定し、課税した。

2014/9/18 塩野義製薬にHIV治療薬JVの枠組み変更取引で400億円の申告漏れ指摘


塩野義は2014年11月10日に異議申し立てを行ったが、棄却され、2015年3月に大阪国税不服審判書に審査請求を行ったが、2016年3月7日に棄却された。

このため、2016年9月2日、東京地裁に更正処分等の取消請求訴訟を提起した。

第一審東京地方裁判所は2020311日 、塩野義の請求を認め、法人税や過少申告加算税など計約80億円の課税処分を取り消した。

法人税法は企業の組織再編について特別な課税ルールを設けており、海外同士の資産移転など一定の条件を満たせば、課税を繰り延べられる。塩野義は組合の資産は国内でなく米国で管理されていたなどとして、現物出資にはこの規定が適用されると主張していた。

裁判長は判決で、組合の資産のうち現金は米国の預金口座に入金され、会計処理や税務申告も米国の事業所で行われていたと指摘。「組合の主要な資産は国外で管理されており、国税局の処分は違法だ」と結論づけた。

これに対し、国側は2020324に東京高等裁判所に控訴 した。

二審東京高裁は2021年4月14日、東京地裁の原判決を是認し、国の控訴を棄却 した。

その後、期限である4月28日までに国より上告及び上告受理申立てのいずれもが行われず 、判決内容が確定した。

この結果、納付済みの2013年3月期の追徴税額等と 、更正処分によって消滅した繰越欠損金に伴って支払った2014年3月期の税額の合計約133億円(地方税含む)が還付される。

コメントする

月別 アーカイブ