島津製作所、少量の採血でアルツハイマー病の原因候補物質を測定

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島津製作所は6月22日、血中のアミロイドペプチド(アルツハイマー型認知症の特徴であるアミロイド斑の主要成分)を測定する「血中アミロイドペプチド測定システム Amyloid MS CL」を発売した。本製品は、昨年12月に「診断の参考情報となり得る生理学的パラメータを測定する診断機器」として製造販売承認を受けている。 希望販売価格は税別で1億円。

アルツハイマー型認知症の原因は未だ解明されていないが、進行に伴っていくつかの特有の病変が見られる。例えば、神経細胞の外側では「アミロイドβ」が蓄積して老人班を形成し、神経細胞の中では「タウタンパク」が蓄積してタンパク質が糸くず状に変化したようなもの(神経原繊維変化)が見られるようにな る。


アミロイド斑(プラーク)は、アミロイドβ蛋白が蓄積したもので、アルツハイマー病患者の脳にみられる。

米食品医薬品局(FDA)は6月7日、エーザイと米バイオジェンが共同で開発するアルツハイマー型認知症治療薬候補ADUHELM(一般名:アデュカヌマブ)について、脳内アミロイドβプラークを減少させることにより、アルツハイマー病の病理に作用する初めてかつ唯一治療薬として迅速承認(accelerated approval)したと発表した。

新薬はアミロイドβ蛋白のレベルを下げるもの。

2021/6/8 エーザイとバイオジェンのアルツハイマー新薬、米で承認


「アミロイドMS CL」は、MS(質量分析)技術を用いて、血液数滴(約0.5mL)に含まれるアミロイドβを測定する「アミロイドMS」の技術の一部を医療機器として製品化したもの。

「認知機能の低下」という症状が出る前にアルツハイマー病変を捉える方法の1つとして、「アミロイドβ」や「タウタンパク」の蓄積状態(量、濃度、分布)を可視化、数値化するPET検査や脳脊髄液(CSF)マーカー検査がある。これらと比べ、今回の方法は少量の採血で測定でき、被験者の負担が小さい検査を実現する。

アミロイドβは、40個のアミノ酸が結合したペプチドAβ1-40と42個のアミノ酸が結合したペプチドAβ1-42の2種類が主に知られているが、それ以外の長さのものが10種類以上存在することがわかっている。

アミロイドβが蓄積している状態であっても、血中には様々な夾雑物が高濃度に存在し、アミロイドβはごく少量のため、血液を採取しても、その中からアミロイドβを検出することは困難で あった。

島津製作所は、質量分析が多種類の物質の同定および同時測定に強いことに着目し、高性能の質量分析システムを使ってアミロイドβ関連ペプチドを測定することを考えた。

ごく微量なアミロイドβ関連ペプチドを質量分析装置で検出することは技術的に困難だが、血液の前処理方法を確立することによりこの問題を打破した。

各アミロイドβ関連ペプチドの量をそれぞれ正確に検出するために、アミロイドβ関連ペプチド内の配列に対するエピトープを持つ特殊な抗体を用いて、アフィニティ精製を2回連続で行う方法を見出した。
第一工程では界面活性剤を、第二工程では有機溶媒を酸性溶液に含ませるといったように各工程で最適な試薬を使用すること、さらに抗体に接触させる溶液の液量を適切に調整することなどの工夫により、血液中のアミロイドβ関連ペプチドだけを取り出し質量分析装置によってS/N比が十分ある状態で検出できることを発見した。

島津製作所の強みである「抗体技術」と「高性能な質量分析技術 」を組み合わせる手法により、 今まで血液中での存在が確認されなかった新たな8種類を含む22種類のアミロイドβ関連ペプチドを分離して、測定することができる。

そのうえで、アルツハイマー病研究の第一人者である国立長寿医療研究センターの柳澤勝彦氏との共同研究で、アルツハイマー病の進行に伴って、新規発見ペプチドであるAPP669-711の量がAβ1-42よりも多くなる傾向があることを見出した。

アミロイドβの蓄積状態に応じて、Aβ1-42とAPP669-711の強度比が変わるのは、2つのペプチドの凝縮性の違いに起因すると考えられる。

脳内で産生されたAβ1-42の一部は、健常者でも脳脊髄液や血液に漏出しているが、脳内でアミロイドβの蓄積が始まると、産生されたAβ1-42は次から次へとアミロイドβに結合(凝集)し、血液への漏出は減る。

一方、APP669-711は両端のアミノ酸配列に違いがあり、Aβ1-42と比較して大幅に自己凝集性が低くな るため、アミロイドβに結合しにくく、脳内のアミロイドβ蓄積に関わらず一定の割合で血液に漏出していると考えられる。

Aβ1-42の漏出量は、個々人の全身状態に影響を受けて変動するため、同じように影響を受けるAPP669-711の漏出量と比を取ることで、全身状態の影響を排除してアミロイドβ蓄積状態に起因する変動だけを取り出すことができ る。


以上により、APP669-711とAβ1-42の比を新しいバイオマーカーとすることで、アルツハイマー病変(アミロイドβ蓄積)のある人を高い精度で分離できる可能性が示唆された。

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