慶応大のiPS角膜内皮細胞移植計画

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厚生労働省の再生医療等評価部会は6月30日、iPS細胞から作った細胞を、目の角膜が濁る病気「水疱性角膜症」の患者に移植し、視力の回復を図る慶応大の臨床研究計画を大筋で了承した。
この病気の患者にiPS細胞由来の細胞を移植するのは世界初で、来春にも患者に移植される予定。

水疱性角膜症は、遺伝性疾患(フックス角膜内皮変性症)や白内障手術の合併症として、角膜内皮細胞が減少し、角膜に過剰な水分が流入して浮腫(むくみ)を生じ、混濁する病態 。

これまで、水疱性角膜症に対しては角膜全部を移植する全層角膜移植や、角膜内皮側の部分を移植する角膜内皮移植などが行われてき た
角膜
には血管が入り込んでおらず、他の臓器移植に比較し拒絶反応がおこりにくいため、血液型などのマッチングを行わずに他家移植(他人の組織を移植すること)が行われてい る。

年間2000人弱が移植を受けているものの、手術による傷口が大きかったり、移植片の定着が不安定だったりと課題が多い。
角膜の提供数も不足しており、移植まで1年以上待つ状況が続いている。

慶応大のこれまでの研究により、iPS細胞から角膜内皮細胞と同等の機能をもつ「角膜内皮代替細胞」を製造し、その細胞を眼内に注射器で注入し角膜の後面に移植すれば、水疱性角膜症に対する有効な治療となる可能性が高いことがわかってきた

この方法であれば、傷口が既存の角膜移植術に比べてはるかに小さいため、合併症を大幅に減らせる可能性がある。

また、この細胞を、製造の最終段階で
凍結保存することも可能となったため、移植治療に必要な角膜内皮代替細胞を、事前に、大量に作成・保管しておき、必要に応じて速やかに移植することが可能となる。

本臨床研究では、京都大学iPS 細胞研究所財団が構築している再生医療用iPS 細胞ストックプロジェクトから、医療用iPS細胞の提供を受け、あらかじめ移植細胞を作製して用いることを計画している。

移植後は、ステロイド剤や抗生剤の点眼治療などを行い、約1年間の経過観察を詳しく行う。

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眼科分野におけるiPS細胞による治療例

2013年に理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーが網膜の外側のRPE細胞の異常の加齢黄斑変性の治療に網膜の再生を行っている。

大阪大学大学院医学系研究科の西田幸二教授(眼科学)らのグループは、2019年7月にヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した角膜上皮細胞シートを角膜上皮幹細胞疲弊症の患者1名に移植した。

2020年4月、大阪大学の研究グループはiPS細胞から作製した様々な眼の細胞を含む細胞群から、角膜上皮細胞のみを純化する新たな方法を確立した。

詳細は 2019/3/8 厚労省、iPS細胞の角膜移植臨床研究計画を了承 

神戸市立神戸アイセンター病院は2020年10月16日、他人由来のiPSから作製した網膜シートを、網膜色素変性患者の網膜下に移植する世界初の臨床研究「網膜色素変性に対する同種iPS細胞由来網膜シート移植に関する臨床研究」で10月上旬に1例目の移植手術を実施したと発表した。

2020/10/19  iPS細胞から作った網膜神経細胞、難病患者に世界初移植 

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