中国独禁法当局、規制強化

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独占禁止法を管轄する国家市場監督管理総局は7月24日、インターネットサービス大手のTencent騰訊控股)に対し、音楽配信事業で楽曲の独占的利用を是正するよう命じた。

50万元(約850万円)の罰金を科したほか、30日以内に中国で独占的に持つ楽曲の配信権を解除するよう指示した。

Tencentが2016年に実施した音楽配信大手  中国音楽集団(China Music ) の買収を問題視した。

買収の結果、Tencent傘下の音楽ストリーミングサービス部門「QQ Music」と中国音楽集団(China Music ) が統合し、Tencent Music Entertainment Group(騰訊音楽娯楽集団)が誕生、中国の音楽配信市場における利用者数や利用時間などで8割を超えるシェアを握るようになり、「市場の参入障壁を高めた」と判断した。

同社は「酷狗音楽」(Kugou Music)や「QQ音楽」、「酷我音楽」(Kuwo Music)などスマートフォン向け音楽配信アプリを複数手掛けており、利用者数で中国の上位の3つを占めている。

Tencentは、「決定を順守する。規定の期限内に是正措置案を制定する」とするコメントを発表した。音楽のほか映画配信などを含む「SNS事業」は同社の売上高の2割を占める。

中国では2010年代前半までネット上で違法に音楽データがアップロードされ、無料で利用されることも多い状態だった。Tencentは音楽配信で圧倒的な立場を築くと同時に、楽曲の権利を保護し、市場育成にも取り組んできた。海外の音楽会社にとってはTencentのサービスを通じて楽曲を提供することで、中国市場での収益につなげることができた。

中国当局としては、市場が順調に育ち、権利保護の体制が整ってきたからこそ、8割を超えるTencentの市場シェアを看過できなくなったとみられる。

国家市場監督管理総局は7月10日にはTencent系のゲーム動画配信サイト 「闘魚」を運営する武漢闘魚網絡科技と同業の「虎牙直播」を運営する広州虎牙信息科技の合併を認めないと発表した。虎牙と闘魚は同国のゲーム動画配信市場で1、2位を占める。

Tencent は Huya 株式36.9%、議決権50.9%を保有していたが、Huya の親会社である Joyy(歓衆集団)から持株を買収し、株式比率を51%、議決権比率を70.4%に引き上げた。また、DouYu の筆頭株主でもあり、38%の株式を保有している。虎牙は2018年5月にニューヨーク証券取引所、闘魚は2019年7月にナスダックに上場している。

両社は既に合併契約を締結しており、2021年上半期に合併、DouYuはHuyaの100%子会社となり、NASDAQ上場を廃止する予定であったが、当局の調査を受けていた。

今回当局は、両社が合併すれば市場シェアは7割を超え、 「市場における公正な競争を排除・制限する可能性があり、認められない」と結論づけた。

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中国政府はこれまで自国のネット企業などを側面支援してきたが、一部の企業が競争を阻害するほど大きな市場シェアを握り始めたほか、データが国外に流出することなどを警戒し、監視の目を強めるようになっている。

アリババ(阿里巴巴)集団も摘発の対象となった。

アリババ集団傘下の金融会社Ant Group螞蟻集團は2020年11月に上海と香港に上場し、4兆円規模の資金を調達する予定だったが、直前にアリババ創業者の馬雲(Jack Ma)氏とアントの幹部が金融当局の聴取を受け、急きょ上場延期が決まった。

実質的オーナーであるJack Maは10月下旬、講演で金融当局の監督姿勢に不満を述べたが、習近平国家主席はJack Maによる政府批判に激怒、自身による支配や安定性への挑戦と受け止めたという。

市場監督管理総局は2020年12月14日、過去の買収案件で当局に申請して承認を得なかったとしてAlibaba(阿里巴巴)と阅文集团(China Literature)に罰金を科すと発表した。Alibaba、China Literatureともに50万元(約800万円)の罰金が科された。

Alibabaは2017年1月、中国大手モール運営会社Intown を買収した。

阅文集团(China Literature) はTencentからスピンオフしたオンライン文学プラットフォームの運営に従事する会社で、読者に簡単なアクセスで各種コンテンツ・ライブラリを提供し、オリジナル文学をオンラインで作成・公開することを可能にするもの。同社は2018年に映画制作会社の新麗伝媒(New Classic Media)の株式をすべて買収した。

中国人民銀行(中央銀行)など金融当局は2020年12月26日、アント・グループを聴取し、「企業統治が不健全」など問題点を指摘、決済という本業への回帰を求めた。十分な資本の確保も指示した。
企業統治に加え、順法意識の希薄さ、優越的な地位を利用して同業他社を排除したこと、消費者の利益を損ねた点を挙げた。

中国当局は12月30日、アリババグループのネット通販「天猫(Tmall)」などに対し、価格法に違反したとしてそれぞれに罰金50万元(約800万円)を科す決定を出した。

天猫は11月11日の「独身の日」に、セール価格として27.9元でコメを販売していたが、実際には前日に24.9元で販売していた商品を値上げしていた。

2020/12/31 中国もインターネット企業を規制 

国家市場監督管理総局は2021年4月10日、アリババ集団に対して182億2800万元(約3000億円)の罰金処分を科す決定を出した。罰金額は同法違反としては過去最大で、アリババの2019年の中国国内の売上高(4557億1200万元)の4%が対象となった。

アリババは2015年から市場での支配的な地位を乱用し、同社のライバルのEC企業と取引しないよう出店企業などに求めてきた。
「二者択一」と呼ばれる行為で、商品やサービスの自由な流通を妨げ、消費者や競合企業の利益を侵害してきたとしている。

2021/4/13 中国政府、独禁法違反でアリババに罰金3000億円 

国家市場監督管理総局(市場監管総局)は7月7日、インターネット業界の複数の大手企業が、独占禁止法上の「事業支配力の過度な集中」を避けるために定められたJVの事前の届け出を怠っていたとして、該当する22件に行政処分を下した。当局は昨年から大手ネット企業による独占的行為の取り締まりを強化しているが、その重点の1つが、M&Aにより有望な新興企業を傘下に収める「青田買い」の規制である。

配車アプリ最大手の滴滴出行(DiDi)が8件、阿里巴巴集団(Alibaba)が6件、騰訊(Tencent)が5件、EC4位の蘇寧易購が2件、ネット出前最大手の美団が1件の処分を受けた。
いずれの案件も競合他社の排除や制限の事実は立証できないとし、罰金は1件当たり50万元(約855万円)にとどまった。

日本企業も合併の事前届け出を怠って処分されている。

ソフトバンク(3月12日)

2018年に日本国内で中国配車サービス大手の滴滴出行と次世代のタクシー配車サービスのJVを設立したが、当局に事前に届け出をしていなかった。

トヨタ自動車(4月30日)

2019年に中国配車サービス大手の滴滴出行と合弁会社を設立し、滴滴出行と新会社に6億ドルを出資した。

三菱重工業(7月7日の行政処分22件のうち)

2011年に蘇寧易購との間で家庭用エアコンのJVを設立した。

現行法では、事前の届け出を怠っただけの場合は1件当たり罰金50万元だが、2020年1月に発表された独禁法の改定案には、事前申告漏れの罰金の上限を違反企業の前年売上高の10%とする旨の条文が盛り込まれた。2021年中に実施されるが、その場合、現行の50万元からの大幅な引き上げとなる。

なお、競合他社の排除や制限が立証された場合、企業分割命令または(不利益部分に関する)原状回復命令が可能となる。

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