Bayer、除草剤ラウンドアップ訴訟で最高裁に上告

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Bayerは8月16日、同社の子会社Monsantoのグリホサート系除草剤「ラウンドアップ」が原因でがんになったと訴えた顧客への損害賠償を支持した米控訴裁判決を不服として、米最高裁に上訴した。

付記

Bayerが最高裁に上訴したのは下記のEdwin Hardeman訴訟である。

米最高裁は本件を審査する可能性が出てきた。最高裁は12月13日、政権に対し、最高裁が本件を取り上げるべきかどうかについての意見を求めた。

本件は連邦法 を無視した州法に基づく判決であり、政権は当然、取り上げるべきだと返事すると思われる。


バイエルは先週、ラウンドアップの利用者にそれぞれ数千万ドルの賠償を命じた判決に対する控訴審で敗訴した。

同社は、ラウンドアップががんの原因になったとの訴えについて、健全な科学的知見や連邦規制当局の製品認可に反すると繰り返し主張してきた。

今回の訴訟は、これに加え、連邦法と州法のどちらが優先かということが問題となっている。

訴えはラウンドアップによる発癌である。

(連邦法)米国で農薬承認を行うEPAは発癌性はないとしている。このため、ラベル(使用法等を記載)には「発癌性の危険」の表示はなく、仮に表示すれば違法となる。(FIFRA=Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act ) 

(州法)しかし、カリフォルニア州はラウンドアップを発癌性製品のリストに含めており、その場合、「発癌性の危険」が表示されていないのは違法となる。

原告側弁護士は、連邦法ではなく、州法を基に訴訟を起こした。

陪審員は、除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されていないため違法であるとして有罪とし、一審の裁判官も 、控訴裁の裁判官もこれを認めた。

「発癌性の危険」を表示してはいけない連邦法と、表示しないといけない州法のどちらをとるかであり、Bayerは「当然、連邦法が優先」として上告した。

常識的には、連邦法が優先すると思われるが、最高裁の判断が待たれる。最高裁の判断により、Bayerの今後の法廷闘争策が違ってくる。最高裁が受け付けた場合、Bayerはその結果を待ち、当面は和解交渉を行なわないと見られる。却下した場合、和解交渉を進めると見られる。

Bayerは今回、最高裁で不利な判決が出た場合に備え、45億ドルの追加引当金を計上し、和解金や訴訟費用として引き当て済みの116億ドルに上積みした。

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Bayerは2016年9月14日、Monsantoの買収で合意したと発表した。

米国は2018年5月29日、条件付きで承認した。これで全ての条件が整い、6月7日に買収が完了、MonsantoはBayerの100%子会社になった。買収額は総額625億ドル。

2018/3/23 EU、バイエルのモンサント買収を承認

直後の8月10日に、カリフォルニアの陪審員がモンサントの除草剤 Roundup による発癌被害で289百万ドルの賠償評決を下した。Roundup については、全米で7月末で約8千件の訴訟があるが、最初の裁判である。

2018/8/28 Bayer のMonsanto買収 完了と、Monsantoの除草剤への賠償命令判決 

その後、多くの裁判が行われているが、今回Bayerが最高裁に上訴したのはEdwin Hardeman訴訟である。

原告Edwin Hardemanは1980年から2012年にかけ、カリフォルニア州北部Sonoma郡の自宅でラウンドアップを定期的に使用。その後、がんの一種である非ホジキンリンパ腫と診断された。

米カリフォルニア州地方裁判所の陪審は2019年3月19日、「Roundup」ががんを発生させた「事実上の要因」だったとの評決を下し、また、「除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されておらず欠陥である」として、3月27日、被害に対して527万ドル、懲罰的賠償で75百万ドルとした。

サンフランシスコの地裁判事は7月16日、「除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されておらず欠陥である」との陪審員の判断については否定せず、有罪にした。
被害に対しては527万ドルを認めたが、裁判官は懲罰的賠償は高すぎるとして20百万ドルに大幅に減額した。被害に対して15倍もというのは憲法から認められないとした。

原告 陪審員 裁判官判断
Edwin Hardeman カリフォルニア 2019/3/27 地裁 2019/7/16
損害賠償 527万ドル 527万ドル
懲罰的損害賠償 75百万ドル 20百万ドル
被害に対して15倍もというのは違憲


2019/7/27 モンサントの除草剤 Roundup による発癌被害裁判、裁判官が陪審の懲罰的賠償を大幅減額

上記の損害賠償についてMonsantoが新しい裁判を求めたが、裁判官は、拒否した。

2019年12月13日にBayerは本件で「重大なエラー」があり、裁判をすべきでなかったと主張し、上告した。

問題は、「除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されておらず欠陥である」との陪審員の判断である。

米EPAと司法省は2019年12月20日、Friend of the court brief (=amicus curiae:個別事件の法律問題で第三者が裁判所に提出する情報または意見)を提出した。

このなかでEPAは、EPAはRoundupのラベルを調べ承認したこと、Roundupには発癌性はなく、このため、発癌性の危険を表示する必要性はないとした。判決は覆すべきであるとしている。

EPAは発癌性を認めず、製品ラベルには当然、発癌性の危険は表示されていない。しかし、カリフォルニア州は発癌性製品のリストに含めており、発癌性の危険が表示されていないのは違法となる。
原告側弁護士は、連邦法ではなく、州法を基に訴訟を起こし、一審の裁判官もこれを認めたもの。

州法に基づき、連邦法でのラベルを否定した形となっている。

EPAと司法省は、ラベルは法律で認めたもので、それと異なるやり方での使用は法律違反であるとし、州は農薬の販売や使用を制限することは出来るが、国が承認したラベルと異なるもの、追加したものを求めることは出来ないとしている。

2019/12/26 米EPAと司法省、除草剤Roundupの発癌被害裁判でBayer側支持の意見書 

控訴裁の合衆国第9巡回区控訴裁判所は2021年5月14日、サンフランシスコ地裁の判断を認めた。

これを受け、Bayerは最高裁に上告した。

ポイント: 
原告は、州法に基づき、除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されておらず欠陥であるとする。
しかし、EPAは繰り返し、発癌危険の警告は不要とし、連邦法のFIFRA(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)ではEPAの承認なしに警告をつけることは出来ないとする。

連邦法と州法はどちらが優先するか?

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