石油と同等の炭化水素を合成する能力をもつ植物プランクトンを発見

| コメント(0)

海洋研究開発機構、豊橋技術科学大学、自然科学研究機構生理学研究所 は7月19日、植物プランクトンDicrateria rotundaD. rotunda)が石油と同等の炭化水素(炭素数10から38までの飽和炭化水素)を合成する能力をもつことを発見した と発表した。

2013年に海洋地球研究船「みらい」による北極海の研究航海が実施された。

北極海の海氷減少に伴い、ベーリング海に生息する植物プランクトンが北極海へ侵入し、現場で生産をしているかどうか調査する目的で植物プランクトンを採取していた。

ベーリング海の北側のチュクチ海の海水から採取された植物プランクトン群集の中から単離培養されたD. rotunda 株(北極海株 ARC1)に、ガソリン(炭素数10から15)、ディーゼル油(炭素数16から20)、燃料油(炭素数21以上)に相当する炭素数10から38までの一連の飽和炭化水素が含まれて いた。

Dicrateria自体は太平洋や大西洋など他の海域でも広く生息することがわかっている。このため、微生物株保存機関に保管されている他10種のDicrateria属を調べたところ、すべての株が同様の合成能力をもち、本種に共通した能力であることが明らかとな った。

本研究グループは、北極海株を用いて、光・温度・窒素栄養塩濃度などの条件を変えた際の、炭化水素量の変動を調査した。

その結果、光合成が止まった暗条件や窒素栄養塩を欠乏させた条件で、細胞サイズが縮小するとともに、飽和炭化水素の総量が約5倍程度に増加することが分かった。

通常、飽和炭化水素がエネルギー貯蔵物質として使われている場合、光合成ができない暗条件ではエネルギー源として消費され、細胞内の含有量が低下するはずであり。

しかし、一連の飽和炭化水素量は暗所で増加したことから、エネルギー貯蔵物質としては機能していないと考えられた。

最近の研究から、北極海株ARC1においても、光や栄養塩が得られないストレス条件において、飽和炭化水素を細胞膜に蓄積することで、細胞や葉緑体の縮小を助けているの ではないかと推測される。

炭化水素を合成する植物プランクトンや藻類などはこれまでも知られているが、合成できる炭化水素の炭素数の範囲が狭く、酸化されやすく不安定な構造(不飽和炭素結合)を含んでいることから、バイオ燃料製造用として実用化するうえで制約があった。

Botryococcus braunii湖沼に生息する緑色の藻類で、多数の細胞が集まって、群体をつくっている。光合成によって炭化水素(ボトリオコッセン)を生成する。

神戸大学で開発された「榎本藻」もBotryococcusで、一般的なものに比較して1ヶ月間で約1000倍の量に増殖する。IHIや神戸大学のベンチャーのG&GTなどがIHI NeoG Algae合同会社を設立し、事業化を進めている。

他に、オーランチオキトリウム、シュードコリシスティスなどがある。

今回の石油と同等の炭化水素を合成する能力を持つ生物は、世界で初めての発見である。

今回の植物プランクトンDicrateriaは軽い炭化水素から重い炭化水素まで幅広い組成を 一度に作れ、不安定な構造を持たない質の高い燃料を合成できる。
もし、量産化できれば単体で燃料として使える可能性を秘める。

課題は生産量で、D. rotundaの単位細胞量あたりの炭化水素含有量は、生物源オイルとしてこれまで利用されてきた実績のあるBotryococcus brauniiの2.5-20%程度しかない。

今後は、いかにD. rotundaの飽和炭化水素合成能力を効率的に増強させるかが課題とな る。

ーーー

藻類からの石油製品生産では、ミドリムシのユーグレナが先行している。

ミドリムシは豊富な栄養素を含むことと同時に、特定条件下で油脂を高い割合で蓄積することが知られており、その仕組みも研究対象とされてきた。

2013/10/17 ミドリムシが地球を救う!

生物は嫌気状態においてミトコンドリアによるATP(アデノシン三リン酸)生産ができなくなるため、蓄えた糖類を分解してATPを作り出すが、ミドリムシの場合パラミロン(β-1,3-グルカン)として糖を蓄え、嫌気状態ではパラミロンからATPを作り出す。

パラミロン は、ミドリムシとその近緑の種のみが貯蔵多糖として蓄積する結晶型のβ-1,3-グルカン顆粒。

通常ミドリムシの体内には20%~30パーセント前後の割合でパラミロンが存在している。増殖の時期や培養条件、技術によって50%を超える場合もある。

研究の結果、周囲に酸素がない条件において、細胞内に蓄積したパラミロンを分解してエネルギーを獲得しその反応における不要なものをワックスエステルという油脂の形で蓄積していることが明らかになっ た。

ミドリムシのワックスエステルはバイオ燃料の原料として適しているとされることから、バイオ燃料生産にも利用が検討され、技術開発が進んでいる。

ユーグレナ社は、2018年10月末、日本初のバイオ燃料製造実証プラントの竣工を機に、「日本をバイオ燃料先進国にする」ことを目指す『GREEN OIL JAPAN』を宣言し、陸海空における移動体にバイオ燃料を導入することを目標として掲げてきた。

2020年3月には、ユーグレナバイオディーゼル燃料が完成、供給を開始し、バス、配送車、フェリー、タグボートなどでユーグレナバイオディーゼル燃料の導入を順次拡大してきた。

2021年3月15日、ユーグレナとChevron Lummus Global、Applied Research Associatesは、ユーグレナのバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントで規格に適合したユーグレナ等由来のバイオジェット燃料が完成したと発表した。原料に微細藻類ユーグレナ由来の油脂と使用済み食用油等を使用する。

2021年6月、プライベートジェット機「HondaJet Elite」にユーグレナのバイオ燃料「サステオ」を使用したフライトを実施したと発表した。

コメントする

月別 アーカイブ