半導体供給問題:米国の場合

| コメント(0)

前回、半導体戦略」(経済産業省 2021年6)をもとに、日本の問題と台湾のTSMC誘致 について述べた

2021/10/18 半導体大手、台湾のTSMCが日本で工場建設

米国でも大問題になっている。

米国の半導体工業会によれば、米国は今から70年以上前、全世界の半導体を製造していたが、現在では世界生産量全体のわずか12%を占めるにとどまっている。

昨年秋以降、世界で半導体不足が深刻になった。特に自動車向けが深刻である。急な需要回復のなか、スマホ向けなどが優先された。ルネサスなどの生産トラブルもあった。

バイデン米大統領は2月24日、重要部材のサプライチェーン(供給網)を見直す大統領令に署名した。新型コロナウイルスの初期の医療用品不足や、半導体チップの供給不足による自動車産業等への打撃、中国によるレアアース輸出規制の懸念などが背景にある。

先ず重要4品目の供給網を100日以内に見直す。リスクを調べ、それへの対応策の提案を求める。 商務長官には「半導体と先端パッケージング」が割り当てられた。

更に、6分野について1年以内に戦略をまとめる。

2021/3/1 米、半導体などの供給網見直し 

この一環として、商務部は9月23日、TSMCなど大手メーカーに対して出荷に関する詳細な情報を45日以内に提出することを求めた。(過剰発注等をチェック)
メーカー側は機密事項に当たるとして反発し、揉めている。(TSMCなどは自社機密情報が Intelに流れるのを懸念)

ーーー

Intel のPat Gelsinger CEO は10月17日、米国が半導体の生産を現在のように韓国と台湾に依存するのは「地政学的な不安定」を招くと主張した。

台湾にはチャイナリスク、韓国には北朝鮮リスクがあるからで、リスク回避のため、自国で半導体を製造すべきであるとした。

半導体チップ製造が特定地域に集中しているは「実際的でもない。神は石油埋蔵地がどこかを決めたが、ファブ(半導体工場)がどこにあるかは我々が決めることができる」と述べた。
 "It also isn't practical. God decided where the oil reserves are. We can decide where the fabs are."

また、「我々がアジアより30-40%も高くてはいけない」とし、議会に向けて「我々がその差を狭め、米国国内により大きく、迅速に半導体生産施設を構築できるよう助けてほしい」と支援を求めた。
 "So help us close that gap so that we can build bigger and faster on U.S. soil."


米国の半導体工業会によれば、米国は今から70年以上前、全世界の半導体を製造していたが、現在では世界生産量全体のわずか12%を占めるにとどまっている。

そのなかでIntelもチップ製造の分野で優位性を失い、需要家のApple、NVIDIA、Qualcomm、AMDら各社は、TSMC、サムスン、聯華電子(UMC)といったファウンドリーを採用するようになった。
(以前はパソコンには、「インテル入っている(Intel Inside)」の記載があったが、最近は余り見かけない。)

Intelはこれまで自社開発チップの製造にほぼ専念してきたが、方針を変更し、他社開発のチップの製造に乗り出すことになった。新たに同社のCEOに就任したPat Gelsinger が、3月23日に製造関連の戦略「IDM 2.0」を明らかにした。

IDM 2.0は、半導体製造において、1)Intel内製、2)サードパーティーの利用、3)外部に向けたファウンドリーサービスの3つを組み合わせるもの。

1)Intelにおける生産能力を拡大するため、約200億ドルを投資し、アリゾナ州Chandlerの「Ocotillo Campus」に2棟の新しい工場を建設する。「EUV(極端紫外線)リソグラフィを導入できるラインを整備する」とした。

2)「今後も大部分のIntel製品を自社工場で製造し続ける」と述べつつ、「われわれの製品ポートフォリオ全般において、サードパーティーのファウンドリーサービスの利用も拡大していく。 台湾のTSMCやUMC、Samsung Electronics、米国のGlobalFoundriesとの連携を密にすることで、当社の製品のコストや性能、開発スケジュールなどを最適化でき、より柔軟で拡張性のある対応ができるようになると確信している」 とした。

3)「Intel Foundry Services」という完全に独立した事業をつくる。
「あらゆる産業におけるデジタル化によって、半導体への需要は急速に増加しているが、主な課題となっているのが生産能力だ。Intelは、半導体供給に対する需要に応え、持続性のある安定した半導体供給を行える立場にいる」と語る。

Intelは今後、米国と欧州の工場で生産能力を拡大する計画で、CEOは「現在、約80%の半導体生産能力がアジアに集中する中、地理的な不均衡を解消していきたい」と述べた。

「先端のパッケージング技術とプロセス技術を組み合わせること、米国と欧州で生産能力を拡大すること、CPUコアからグラフィックス、AI、ディスプレイ、インターコネクトまで多岐にわたるIP(Intellectual Property)ポートフォリオを顧客が選択できること」を強みとして挙げた。

ーーー

上記の通り、米国の半導体業界は、現在では世界生産量全体のわずか12%を占めるにとどまっている。

このような現状に対して、20206に超党派の議員グループが、半導体製造の国内回帰を支援する法案として「CHIPS for America Act提出した。

CHIPS = Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors

投資税額控除制度を中心とした明確なベネフィットを産業界に提供することにより、高度な半導体製造能力を国内に創出することを目指している。米国国防総省をはじめとする政府機関によるプロジェクトへの資金提供を主とした法案で、資金提供額はおよそ120億米ドルとなる。

続いて同月、超党派の上院議員が新たな法案American Foundries Act of 2020 (AFA)を提出した。米国の各州に対し、商業的な半導体製造施設の拡大を促すための助成金を提供するもので、資金提供額はおよそ250億米ドルである。

トランプ政権の積極的な誘致により、台湾のTSMCが120億米ドルを投じて、米国アリゾナ州に5nm工場を建設することとなったが、AFAとCHIPSは、これに続く取り組みである。

両案とも通っていないが、バイデン大統領はこの趣旨を折り込み、これらを上回る案を提案した。

バイデン大統領は2021年3月31日、2兆米ドルを超えるインフラ投資計画 American Job Planを発表した。

そのうち、R&D、製造近代化、中小企業として5,800ドルが含まれている。
 R&D、未来の技術への投資 1,800億ドル
 製造業、中小企業活性化  3,000億ドル
 Workforce Development   1,000億ドル

大統領は、この中から、米国半導体業界の国内生産回帰の実現に向け、500億米ドルを割り当てることを明らかにした。
ホワイトハウスは、「超党派議員グループによって提唱されたCHIPS for America Act、
American Foundries Act of 2020 の要望に従い、半導体の製造および研究に資金を投入する指示も出している」と述べた。

  2021/4/2 バイデン大統領、American Jobs Plan 発表、8年間で2兆2500億ドル投資

しかし、American Jobs Plan は最終的に2つに分けられたが、いまだに可決されていない。

  ①5500億ドル規模のインフラ包括法案 
  ②10年間で3.5兆ドルの予算(予算決議→財政調整法=予算)

①は上院では通ったが、下院はまだである。
②は「予算決議」は上下院で通ったが、それに基づく具体的予算(財政調整法)は見通しが付かない状況である。

民主党内の急進左派が子育て支援などの「3.5兆ドル法案」(今回は予算決議は通っており、これに基づく具体的な予算案のこと)を可決するまでインフラ法案に賛成しないと主張し、財政膨張を懸念する中道派議員は3.5兆ドル法案の規模圧縮を要求し、与党内の調整がついていない。

バイデン政権は「3.5兆ドル法案」の規模を縮小することで、両議案を通すことを狙っている。

付記

このAmerican Jobs Plan の説明は間違いであることが分かった。

大統領の半導体国内生産回帰のための500億ドル(実際は520億ドル)は、上院が6月8日に可決した拡大する中国の影響力に対抗することを目的とした異例の超党派法案 United States Innovation and Competition Act に含まれていた。

但しこの法案は、上院が超党派で6月に可決したにもかかわらず、下院との法案のすり合わせに時間がかかっており、採決は年明けになる。

政府支援が決まらないなか、インテルのCEOは議会に向けて、「米国国内に半導体生産施設を構築できるよう助けてほしい」と改めて支援を求めた。

コメントする

月別 アーカイブ