新型コロナウイルス ファクターXは白血球の型?

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理化学研究所は12月8日、ヒトの体内に存在する季節性コロナウイルス(風邪をおこすウイルス)に対する「記憶免疫キラーT細胞」が認識する抗原部位を発見し、その部位が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質領域にも強く交差反応することを示したと発表した。

発表文 https://www.riken.jp/press/2021/20211208_1/index.html

解説ビデオ https://www.youtube.com/watch?v=OuBG3JySa-0

今回、研究グループは、日本人に多いヒト白血球型抗原(HLA)タイプのHLA-A*24:02に結合する新型コロナウイルスのSタンパク質中のエピトープの同定に成功した。
季節性コロナウイルス(風邪のウイルス)に対する記憶免疫キラーT細胞は、このエピトープを交差認識し、新型コロナウイルスに対して抗ウイルス効果を示す。

風邪のウイルスと新型コロナウイルスのSタンパク質の部分に共通のものがあり、日本人に多い白血球の場合に、 それに対しキラーT細胞が働き、ウイルスの入り込んだ細胞を破壊する。
以前に風邪にかかった時に働いたキラーT 細胞が眠った状態で存在するため、 新型コロナウイルスが細胞に侵入した場合、それへの抗体を持っていなくても、
従来のコロナウイルスの記憶を持つキラーT細胞が速やかに活性化して新型コロナウイルスを攻撃するため、感染や重症化が防げたのではないかと いうもの。

免疫反応を強く引き起こすエピトープの発見は、より効果的なワクチンの開発や治療薬の開発につながる。

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ウイルス感染症では、抗体がウイルスの体内侵入を防御する。

しかしウイルスが体内に侵入した場合は、免疫細胞の「キラーT細胞」が 感染した細胞を破壊してウイルスを除去する。

ヒトの全身のほぼ全ての細胞にヒト白血球型抗原(HLA)というタンパク質がある。細胞がウイルスに感染すると、ウイルスの一部(エピトープ :抗原決定基)が細胞表面に出てくる。エピトープがHLAに結合すると、キラーT細胞はこれを敵と認識し、細胞そのものを破壊する。更キラーT細胞が活性化して増殖する。


HLA には数万の種類があり、HLA の型は親から子へ遺伝する。そのため HLA 型の分布には、人種によって異なる特徴が生じる。

HLAが異なると特定の抗原に対する結合の度合いが大きく異なる。HLAタイプにより、特定のウイルスにキラーT細胞が強く働く場合(エピトープがHLAに結合)と、働かない場合が出る。

人類の長い歴史で何度も致命的な感染症が流行し、特定のHLAを持つ集団が生き残り、それが繰り返されてHLAの多様性が形成されたのではとされている。

日本人に多い HLA 型の一つに HLA-A24がある。これは欧米人には非常に少ない。(報道では、日本人は6割近く、欧米では1~2割とされる。)

国立遺伝学研究所遺伝情報研究センターの今西 規氏の解説では下図の通りとなっている。
日本人は最も多いが35%となっている。韓国人も多い。 (その韓国で最近、感染者と重症者が多いのが気になる。)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mhc/1/2/1_130/_pdf/-char/ja


今回、研究グループは、新型コロナウイルスのスパイクタンパクを調べ、「HLA-A24 に結合しキラーT 細胞を活性化するエピトープ」を発見した。

HLA-A*24:02に親和性の高い6種類のエピトープ候補を選び、6種類の中から最も有力なエピトープとして、Pep#3(QYIペプチド)を同定した。

さらに「風邪を引き起こす従来のコロナウイルス」と「新型コロナウイルス」のエピトープを調べたところ、「極めてよく似たエピトープ」があることが 分かった。

そのエピトープはいずれも日本人の6割近くが持つといわれるHLA-A24型によく結合することも 分かった。


Q:グルタミン、Y:チロシン、I:イソロイシン、K:リシン、・・・・


HLA-A24型の場合、新型コロナウイルスにも、これまでのコロナウイルスにもキラーT細胞が機能することになる。

これは、季節性コロナウイルスの既感染の結果生じた記憶免疫キラーT細胞が、新型コロナウイルス由来のQYIペプチドにも交差反応する可能性を示す。

異なるウイルスに一種類の免疫細胞が働くことを交差免疫という。

季節性コロナウイルスは、普通の「風邪」の原因ウイルスで、多くの人は風邪にかかったことがあり、体内にその時に働いた記憶免疫キラーT 細胞が眠った状態で存在する。
その後新型コロナウイルスに感染したとき、眠っていたキラーT 細胞が働き出す。

発見したエピトープで、この記憶免疫キラーT 細胞を刺激すると、活性化し増殖することが分かった。

日本人の場合HLA-A24型が多いため、新型コロナの抗体を持っていなくても、従来のコロナウイルスの記憶を持つキラーT細胞が速やかに活性化して新型コロナウイルスを攻撃するため、感染や重症化が防げたのではないかと 見られる。

なお、HLA-A*24:02を持つ健常人の多くがこの交差反応性キラーT細胞を持っているのに対し、造血器腫瘍患者では少ないことが分かった。造血器腫瘍患者では、病気の進行、あるいは化学療法によりキラーT細胞の免疫が健常人に比べて極めて低下していることを示している。

しかし、造血器腫瘍患者でも効率よくキラーT細胞を誘導できるエピトープ群が集中する「ホットスポット」があることを見つけ、世界で初めて同定した。このホットスポットエピトープでSARS-CoV-2感染細胞を刺激すると、眠っていた季節性コロナウイルスに対する記憶免疫キラーT細胞が極めてよく反応する。

「今回同定されたホットスポットは、記憶免疫キラーT細胞を新型コロナウイルスに向かわせるキラーT細胞型ワクチンになり得るため、例えばワクチン抵抗性者の治療法の開発に貢献することが期待できる」としている。

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なお、日本医療研究開発機構は6月16日に「ウイルスの感染力を高め、日本人に高頻度な細胞性免疫応答から免れるSARS-CoV-2変異の発見」を発表している。

変異株がHLA-A24による細胞性免疫から逃避し、感染力を増強するとしている。

新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部が「HLA-A24」という日本人に多く見られる型の細胞性免疫によってきわめて強く認識されることを免疫学実験によって実証した。

「懸念すべき変異株」に認定されている「カリフォルニア株(B.1.427/429系統)」と「インド株(B.1.617系統;デルタ型)」に共通するスパイクタンパク質の「L452R変異」が、HLA-A24を介した細胞性免疫から逃避することを明らかにした。

「L452R変異」は、ウイルスの感染力を増強する効果があることを明らかにした。

https://www.amed.go.jp/news/release_20210616.html


今回の
「HLA-A24 に結合しキラーT 細胞を活性化するエピトープ」で特異な部分が変異すれば、エピトープがHLA-A24に結合せず、キラーT細胞を活性化しなくなる可能性はあると思われる。

オミクロン株にはスパイクたんぱくで32の変異があるとされる。まるで別ウイルスである。これにもキラーT細胞が活性化するか、早急に調べて欲しい。

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日本人に新型コロナの感染者、重症者が少ない理由について、これまで諸説があった。

BCG接種の関係が取り上げられた。

  2020/5/4 COVID-19とBCG接種(その4)

国立遺伝学研究所と新潟大のチームは、10月に開かれた日本人類遺伝学会で、新型コロナウイルスの流行「第5波」の収束には、流行を引き起こしたデルタ株でゲノムの変異を修復する酵素が変化し、働きが落ちたことが影響した可能性があるとの研究結果を発表した。

2021/11/3 新型コロナウイルスの収束は「デルタ株のゲノム変異蓄積」?


韓国中央日報が、韓国の有名ラジオパーソナリティのキム・オジュン氏の主張と して次のような新説を報道している。

デルタ株は スパイクタンパク質の変異が激しい。 このスパイクタンパク質を検出部位として選択したPCR診断キットでは、少なくとも3カ所以上、別々のところから検出してみなければならない。

3カ所以上検出する診断キットのほとんどが韓国製だが、日本は韓国の診断キッ トを輸入していないほぼ唯一の国で、日本にある診断キットでは検査をしてもデルタ株を感知できないと主張している。

日本も実際は感染者は多いが、韓国製の診断キットを使わないため、感染していても分からないだけというもの。


東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授が、日本を含む東アジア人には新型コロナウイルスに対する免疫を持つのではないかとの仮説を唱えた。

「SARSの流行以来、実際にはさまざまなコロナウイルス(SARS-X)が東アジアに流行していた可能性があるのではないか。その結果として、免疫を持っていた可能性があるのではないかということも考えられる」

東京大学先端科学技術研究センターがん・代謝プロジェクトの研究によるもの。

2020/5/25 日本人などには新型コロナウイルスの免疫? 

今回の発表はこれを立証したものとなった。

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