米最高裁、テキサス州の中絶禁止法の存続容認 

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米南部テキサス州で施行された人工妊娠中絶を大幅に制限する州法をめぐる訴訟で、連邦最高裁は10月10日、8対1で同法の効力を容認する判断を下した。
同法の合憲性については判断を回避した。

また、同法の効力停止を求めたバイデン政権の訴えを8対1で却下した。

最高裁は、同法の効力継続を認める半面、中絶医療関係者らが医療機関の許認可権を持つ州当局を相手取って提訴することを認めるとした。

現在の最高裁は、保守派6名、リベラル派3名であり、同法を8対1で容認したのは驚きである。中絶を合憲とした1973年の最高裁判例が骨抜きとなる可能性が高まっている。

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米連邦最高裁は9月1日、妊娠6週目以降の中絶を禁じたテキサス州の法律に対する差し止め請求を退け、同法は同日施行された。

同法は、

胎児の心拍が確認できる妊娠6週目以降の人工妊娠中絶を禁止する。(「ハートビート(心臓音)法」とも呼ばれる)

妊娠は「最後の生理が始まった初日」を0週のはじめと数えるが、6週目ごろでは妊娠に気づいていない女性も多い。 妊娠に気が付いた時点では、中絶は出来ないことになる。

レイプや近親相姦による妊娠の場合も例外を認めない。 事実上の全面禁止である。

中絶の手術を行った人に加え、手術費や処方薬の支払いを援助したり、女性をクリニックまで乗せたタクシーの運転手さえも、たとえわずかでも中絶に関わった人は訴えられる可能性がある 。

州内外の民間人は誰でも違反者を訴えることができる。(民事訴訟の私訴を許可)
告発した人が勝訴した場合は1万ドルが与えられ、裁判費用もカバーされる。

バイデン米政権は9月9日、妊娠6週目以降の人工妊娠中絶を原則禁止するテキサス州法に異議を唱え、テキサス州西部地区連邦地方裁判所に同州を提訴した。

2021/9/14 バイデン米政権、中絶禁止法でテキサス州を提訴 

テキサス州の連邦地裁は10月6日、テキサス州が「憲法で保障された重要な権利を市民から奪おうと、前例のない攻撃的な企てを追求した」とし、「重要な権利の剥奪を一日たりとも認めることはできない」として一時的に効力を停止する命令を出した。

しかし、州側は「民間人が提訴することを禁じるのは誤りだ」などと主張して上訴、2日後の10月8日に第5巡回控訴裁判所は、同法の一時差し止めを命じた連邦地裁の判断は出されるべきではなかったと指摘し、差し止めを解除し、同法を巡る訴訟の手続きを「迅速に」進める間、州法は効力を維持するとの判断を示した。

米司法省は10月18日、テキサス州法の差し止めを求め、連邦最高裁に上訴した。

司法省は訴状で、控訴裁の差し止め解除が「テキサス州における市民の憲法上の権利の無効化を可能にする」と強調。「問題の重要性と緊急性を踏まえ」、下級審がそれぞれの最終判断を下す前に、最高裁が審理することは可能と主張した。

米連邦最高裁は11月1日、人工妊娠中絶の大半を禁止した南部テキサス州の州法を巡り口頭弁論を開き、審理した。
口頭弁論では、同州法が一般市民に法の執行を事実上委ねていることについて保守派判事の一部からも懐疑的な声が出た。

中絶実施施設や司法省側は、テキサス州法は最高裁が合憲と認めた女性の中絶する権利を侵害し、市民に「報奨金」を与えて法を執行させることで司法審査を逃れていると主張した。
テキサス州側は、法の執行に関与していない州政府を連邦裁判所が裁くことはできないと反論した。

今回連邦最高裁は、テキサス州の州法について存続を認める判断を示し、一方で、中絶クリニックが連邦裁判所で同法に異議を申し立てる権利も認めた。

この結果、本件は連邦地裁に戻ってさらなる訴訟が行われることになる。

法廷で争うことが可能になった中絶クリニックは辛うじて勝利した形だが、最高裁は中絶クリニックが提訴できる対象者を制限したことで、中絶提供者が最終的に有利な判決を勝ち取っても、一部の州当局者による法執行を差し止めるだけとなる。

中絶の手術を行った人に加え、手術費や処方薬の支払いを援助したり、女性をクリニックまで乗せたタクシーの運転手さえも、たとえわずかでも中絶に関わった人は訴えられる可能性がある。

クリニックの中絶再開につながるかは不透明である。

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