欧州委、原子力発電と天然ガスを地球温暖化対策に貢献するエネルギーと位置づけ

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欧州委員会は2022年1月1日、原子力発電と天然ガスを地球温暖化対策に役立つエネルギー源と位置づける方針を発表した。

原子力発電と天然ガスについて、「再生可能エネルギーを基盤とする将来に向け、移行を促す手段」と位置付けた。

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EUは、発電、交通、建築など様々な経済活動ごとに、持続可能で環境に配慮しているかどうかを仕分けするルール「 EU Taxonomy(分類)」を設けている。

2019年12月、クリーンエネルギー、生物多様性、サーキュラーエコノミーなどへの投資を通じてEUの持続可能な発展を目指す「欧州Green Deal」が発表された。
2050年までにネットゼロ・カーボンニュートラルを達成するという法的拘束力のあるコミットメントを一部含み、2030年までに少なくとも55%の排出削減を中間目標としている。

EUタクソノミーは、投資家、金融機関、企業に透明性を提供し、EU加盟国全体の基準を調和させ、環境的に持続可能な投資を促進するために、「グリーン」な経済活動と投資を分類する枠組み。

それまでは投資商品や経済活動は、「グリーン」または「持続可能性」が何を表すかという明確な定義がな かった。EUタクソノミーで、何が「グリーン」または「環境的に持続可能」と分類されるのか、明確な規則を提供することによって、EUの環境目標に貢献する経済活動への資金を集める。

2020年6月に公表されたEUタクソノミーは、経済活動が環境的に持続可能であるとみなされるための4つの主要な条件を規定している。


気候変動緩和分野の EU 基準(タクソノミー)が示された部門は次の通りで、それぞれに適格とする条件を決めている。

農林水産業 多年生作物の栽培、非多年生作物の栽培、家畜生産、植林、復旧・復元、再植林、既存の森林管理
製造業 低炭素技術の製造セメントの製造、アルミニウムの製造、鉄鋼の製造、水素の製造、その他無機基礎化学品の製造、その他有機基礎化学品の製造、肥料や窒素化合物の製造、プラスチック原料の製造
電力、ガス、
蒸気、空調
の供給
太陽光発電、集光型太陽光発電、風力発電、海洋エネルギー発電、水力発電、地熱発電、ガス火力発電バイオエネルギー発電、送配電、エネルギー貯蔵、バイオマス・バイオガス・バイオ燃料の製造、ガス輸送・供給網の改修、地域熱 / 冷熱供給、電気ヒートポンプの設置・稼動、集光型太陽光からの熱 / 冷熱と電力のコジェネ、地熱エネルギーからの熱 / 冷熱と電力のコジェネ、ガス燃焼からの熱 / 冷熱と電力のコジェネ、バイオエネルギーからの熱 / 冷熱と電力のコジェネ、集光型太陽光からの熱 / 冷熱の生産、地熱からの熱 / 冷熱の生産、ガス燃焼からの熱 / 冷熱の生産、バイオエネルギーからの熱 / 冷熱の生産、排熱を用いた熱 / 冷熱の生産
水、下水、廃棄物、浄 取水、処理、供給、中央排水処理システム、下水汚泥の嫌気性消化処理、非有害廃棄物の排出源別の個別回収・輸送、バイオ廃棄物の嫌気性消化処理、バイオ廃棄物のコンポスト化、廃棄物からの資源回収、埋立地ガスの回収とエネルギー利用、大気からの CO2直接回収、人為的排出の回収、CO2の輸送、回収したCO2の永久隔離
運輸 旅客鉄道輸送(都市間)、貨物鉄道輸送、公共交通、低炭素輸送のためのインフラ、自動車・商用車、貨物の道路輸送サービス、都市間の定期道路輸送、国内の旅客水上輸送、国内の貨物水上輸送、水路の建設
ICT データ処理・ホスティング・関連活動
温室効果ガス排出削減用データ主導型ソリューション
建物・不動産関係 ビルの新設、既存建物の改修、個々の改修取組・オンサイトでの再エネ設置・専門的・科学的・技術的活動、
建物の入手


適格とする条件の例は以下の通りで、非常に厳しい。

低炭素技術の製 ●他の経済部門の排出削減に資する以下4種類の活動が適格

1適格な再生可能エネ技術(地熱、水力、集光型太陽光、太陽光、風力、海洋エネ)に不可欠の製品、主要部品、機械の製造
2.各基準を満たす車両、鉄道車両、船舶の製造(詳細省略)
3.建物用の高効率機器やその主要部品の製造(詳細省略)
4.その他、他の経済部門(家庭を含む)の大幅な削減につながる技術の製造※

市場にある最善の代替技術/製品/ソリューションと比べて大幅な GHG 削減があることが、定評のある/標準的な cradle-to-cradle(ゆりかごからゆりかごまで)のカーボンフットプリント評(例:ISO 14067ISO 14040EPDPEF 等)に基づき実証され、第三者が検証した場合に適格
プラスチック原料の製造 ●以下の3基準のうち少なくとも一つを満たす活動が適格
1.機械リサイクルによるプラスチック原料製造
2.化学リサイクルによるプラスチック原料製造
3.再生可能原料を使用したプラスチック製造

※基準
23は、化石燃料原料由来よりもカーボンフットプリントが低いものが対象
ISO140672018準拠のカーボンフットプリント計算と第三者検証が必要)
基準3には再生可能原料の種類(バイオマス、産業バイオ廃棄物、都市バイオ廃棄物)毎の追加基準もあり
ガス火力発電 ●ライフサイクル排出量※が100gCO2e/kWh より少ない施設が適格
 ・閾値は5年毎に厳格化し、2050年には0gCO2e/kWh となる
 ・タクソノミー承認を受ける時点でこの閾値を満たさなければならない
 ・2050年以降も続く活動は、実質ゼロ排出の達成が技術的に可能でなければならない
※事業固有値を用いた ISO14044準拠のライフサイクル排出量評価が必要
乗用車、軽商用 ●直接排出ゼロの車(水素自動車、燃料電池自動車、電気自動車)は適格
2025年までは最大50gCO2/kmWLTP ※)の車も適格
2026年以降は0gCO2/kmWLTPの車のみが適格)
※乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法WLTP

(資料)EU 資料を元にみずほ情報総研作成

今回、欧州委員会は、「電力、ガス、上記、空調の供給」に原発や天然ガスの項目を新たに追加し、持続可能かなどについての評価基準を示す。

加盟国の専門家との協議を開始した。1月中に正式決定するという。

日本経済新聞が入手した原案 は以下の通り。

 原子力は生物多様性や水資源など環境に重大な害を及ぼさないのを条件に、2045年までに建設許可が出された発電所を持続可能と分類する 。

 天然ガスは①1キロワット時あたりのCO2排出量が270グラム未満、②CO2排出の多い石炭の代替とする 、③30年までに建設許可を得る――などを条件とする。

基準に合致して環境に良い事業と認定されれば、企業が債券の発行などを通じて資金調達する際に、投資家を引きつけたり、好条件を得られたりしやすくなる。
また、加盟国は環境対応のプロジェクトとして公的な資金を振り向けやすくなる。

欧州委は排出削減目標の達成には2030年までの毎年、官民合わせて少なくとも3500億ユーロ(約46兆円)の追加投資が必要としている。

原発は発電時にCO2を排出しない半面、放射性廃棄物の問題や事故への懸念から、EU加盟国の間で意見が割れている。欧州委は国ごとにエネルギー政策が異なることを踏まえつつも、原発をタクソノミーに組み込めば「石炭のような環境に悪いエネルギー源を離れ、より低炭素なエネルギーの組み合わせへの移行を加速できる」と説明した。

ただ、2022年末の脱原発をめざすドイツのほか、オーストリア、ポルトガルなど計5カ国は2021年11月、環境担当などの閣僚が連名で、「タクソノミーの信頼を損なう」として原発の組み入れに反対する共同声明を発表していた。
一方で、原発が発電量の約7割を占めるフランスのほか、今は原発がないポーランドなど計10カ国はタクソノミーに原発を加えるよう求める姿勢を鮮明にしていた。

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