ブタの心臓を移植 

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米メリーランド大学医学部 (University of Maryland Medical Center) は1月10日、ブタの心臓を人に移植する手術を実施したと発表した。術後3日たつが、移植を受けた患者の経過は今のところ順調だという。

提供された心臓は、拒絶反応を起こさないよう遺伝子改変されたブタから取り出しており、身体に即座に拒絶されることなく、人間の心臓のように機能できることを世界で初めて実証した。

同医学部によると、移植を受けたのはメリーランド州に住む末期心臓病のDavid Bennettさん(57)。命の危険がある不整脈があり、体外式膜型人工肺(ECMO)を使う状況だったが、 メリーランド大学だけでなく、彼の医療記録をレビューした他のいくつかの主要な移植センターでも、従来の心臓移植には不適格であると見なされていた。


ベネットさんは手術前日、この手術を受けるか死ぬかで、生きることを選んだ(
"It was either die or do this transplant. I want to live. I know it's a shot in the dark, but it's my last choice" )と話した。

ベネットさんは移植手術に同意する前に、この手術は実験的でリスクと利益は分かっていない点があることを十分に説明されたという。今後、数週間かけて、今回の臓器移植によって生命を維持するだけの効果があるかを検証していく。

FDAは昨年末、この手術について、人道的使用許可 (compassionate use) を出した。実験的な医療製品に対して出る許可で、今回の場合は遺伝子改変されたブタの心臓が対象で、深刻な命の危機に直面していて、その医療製品が利用可能な唯一の方法である場合 として適用された。

連邦政府によると、現在約11万人のアメリカ人が臓器移植を待っており、毎年6,000人以上の患者が臓器移植を受ける前に亡くなっている。異種移植は潜在的に数千人の命を救う可能性があるが、危険な免疫応答を引き起こす可能性を含む一連のリスクを伴う。

異種移植(Xenotransplan)は1980年代に最初に試みられたが、Loma Linda University in CaliforniaでのStephanie Fae Beauclair (Baby Faeの名前で知られる) の事件の後、大部分は放棄された。 致命的な心臓病で生まれた乳児は、ヒヒの心臓移植を受け、免疫系が外来心臓を拒絶したため、手術から1か月以内に死亡した。

しかし、長年にわたり、ブタの心臓弁は、人間の弁を置き換えるためによく使用されてきた。今回のBennettさんは約10年前にブタの心臓弁の移植を受けている。

遺伝子改変されたブタの臓器は、一部にはブタ、ヒト、および非ヒト霊長類の間の生理学的類似性のために、異種移植の研究の多くの焦点となっている。

今回の移植に使用した遺伝子改変ブタは、米バージニア州 Blacksburgの再生医療企業Revivicorが提供した。 同社はUnited Therapeutics の子会社である。

FDAは2020年12月にRevivicorの遺伝子組換えブタを食品及び医療製品用に承認した。

このブタは、医薬品の製造、移植用の臓器や組織の生産、肉アレルギー患者用の肉の生産のために使用される。
アレルギーを起こすalpha-gal sugarを持たないため、GalSafe pigと呼ばれる。

同社は、人体に移植したときに急性の免疫拒絶を防いだり、ブタの組織が過度な成長をするのを防ぐために、 計10個の遺伝子改変をした。

抗体を介したヒトによるブタ臓器の迅速な拒絶反応の原因となる3つの遺伝子が「ノックアウト」された。
ブタの心臓の免疫受容に関与する6つのヒト遺伝子がゲノムに挿入された。
最後に、ブタの心臓組織の過度の成長を防ぐために、ブタの1つの追加遺伝子がノックアウトされた。

メリーランド大学医学部はこの企業が開発した遺伝子改変ブタの心臓を動物実験で 評価するために1570万ドルのスポンサー付き研究助成金を受け取っている。

手術の日の朝、移植チームは研究室でブタの心臓を取り出し、臓器を保存する機械 XVIVO Heart Boxで保管した。移植手術の際には、免疫系を抑制し、身体が外来臓器を拒絶するのを防ぐように設計された従来の拒絶反応抑制薬と一緒に新薬を使用した。使用した新薬はKiniksa Pharmaceuticals製の実験用化合物である。

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