ロシア、天然ガス代のルーブル払い義務化

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ロシアのプーチン大統領は3月23日、非友好的と指定した国がロシアから天然ガスを購入する際には通貨ルーブルでの支払いしか認めない方針を示した。

関係閣僚とのオンラインの会議で西側の各国がロシアの外貨準備を凍結したことを批判し「このような状況でドルやユーロなどの外貨でわれわれの商品の支払いを受ける意味はない」と述べた。

2022/3/26 プーチン大統領、ロシアの天然ガス購入をルーブル支払いに

プーチン大統領は3月31日、「非友好国」の企業に対し、ロシア産天然ガスの購入に自国通貨ルーブルの支払いを義務付ける大統領令に署名した。

付記

ロシアのペスコフ大統領報道官は4月3日、天然ガス以外の輸出品についても、自国通貨ルーブルでの支払いを日本や米国、欧州などの輸入国に求めるとの見通しを示した。

テレビ演説で、「天然ガスを購入するには、外国企業はロシアの銀行にルーブル建ての口座を開かなければならない。天然ガスの代金はこの口座を通して払われる」と述べた。その上で、「支払いがなければ、買い手の不履行とみなす。慈善事業を行うつもりはなく、既存契約は止まる」と主張した。 

大統領令によると、当面対象となるのは、ロシア国営Gazpromのパイプラインを通じた「気体状」の天然ガス。日本が輸入する「サハリン2」の液化天然ガス(LNG)は対象外とみられる。

日本はLNGの輸入の約8%をロシアに頼っている。ほとんどがサハリン2のLNGだが、岸田首相は3月31日の衆院本会議で、サハリン2(とサハリン1)について撤退はしない方針を表明した 。

シェルはサハリン2から撤退を表明しているが、首相は「自国で権益を有し、長期かつ安価なLNGの安定供給に貢献しており、エネルギー安全保障上、極めて重要なプロジェクトだ」と強調した。

萩生田経済産業相は同日の閣議後会見で、サハリン1、2に加え、ロシア北極圏のLNG事業「アークティックLNG2」からも撤退しない方針を示した。

欧州などの取引企業がガスを買う場合、国営ガス会社Gazprom傘下のGazprombank にユーロなどの外貨建てとルーブル建ての両方の決済口座を開設する必要がある。Gazprom は4月1日、需要家に指示した。

Gazprombankは口座に振り込まれた外貨を市場で売却し、ルーブルを買い入れる。その後、同行が取引企業の口座からルーブル建てで代金をGazpromに送金する仕組みをつくる。

欧州連合(EU)は3月2日、ロシアへの追加の経済制裁として同国2位のVTBバンクなど大手7行を国際的な資金決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除することで合意した。

しかし、ロシア最大手のSberbank PJSCと、ガス大手Gazpromが出資するGazprombank は含まれていない。日本も同様である。
これらを除外すれば石油、天然ガスなどの取引が出来なくなり、欧州経済への影響が大きいことを判断したとみられる。

米国もGazprombankについては新規借り入れを禁止するということに止まっている。

2022/3/4 EU、ロシア7銀行をSWIFTから排除


西側諸国がウクライナ侵攻で制裁に踏み切ったことへの事実上の報復措置で、 ロシアからガスを購入している欧州各国は「契約には決済通貨を定めた条項がある」と反発している。

G7は3月28日に開いたエネルギー相会合で、ルーブル払いの拒否で一致、ドイツのショルツ首相は、プーチン氏に今後もユーロなどで支払いを続ける意向を伝えたという。

付記 ハンガリーのオルバン首相は4月6日、ロシアから輸入する天然ガスの取引代金について、ロシアの通貨ルーブルで支払う方針を明らかにした。

EUはガス消費量の約4割をロシアからの輸入に依存している。

今回の新たな仕組み(各国はユーロで支払い、Gazprombank がルーブルに交換してGazpromに支払う)は、事実上、外貨での支払いを容認しているとの見方もある。

ルーブルの対米ドル相場は3月初めのロシア大手7行のSWIFT除外で急落していたが、その後、戻し、4月1日には一時2月23日以来の高値となる 1ドル=80.3325ルーブルまで上昇した。

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独政府は3月30日、天然ガス供給に関する「早期警戒」を宣言した。天然ガスのルーブル払い拒否によるロシアからのガス輸入の中断や停止に備えるものである。

早期警戒は、ガスに関する緊急事態計画の3段階の最初の措置である。この段階では政府の介入はない。

1. EARLY WARNING PHASE
2. ALARM PHASE
3. EMERGENCY PHASE

Robert Habeck 経済相は声明で、当面の供給は確保されており、当局は市場運営者と共にガス供給を注意深く監視していると説明、しかし事態の悪化に備えて予防策を強化する必要があるとし「早期警戒宣言により危機管理グループが招集された」と明らかにした。

しかし、BASFは天然ガスがカットされた場合の工場操業への影響について警告を発した。現在の天然ガスの需要の半分を満たさない場合、同社最大のLudwigshafe コンビナートの操業を止める必要があるとしている。

Frankfurter Allgemeine 紙とのインタビューでBASF CEO のMartin Brudermuller は、ロシアからのエネルギー途絶はドイツ経済を過去75年以上のうちで最悪の不況に陥らすと警告した。

4~5年経てばロシアのガスから独立することも可能かも分からないが、それまでについてはLNG輸入での代替は不十分である。ロシアの天然ガスはドイツの消費の55%を占めており、これが一夜にして切られると、被害は取り返しのつかないものとなる。ドイツ経済は第二次大戦以来最悪の危機に陥り、特に中小企業の多くにとって終わりを意味する。

BASFの場合、ガスの供給が最大需要量の50%以下になった場合、Ludwigshafen コンビナートで生産を大幅に落とすか、完全にシャットダウンせねばならない。

ドイツ人は事態の重要性を認識していない。天然ガスを切られると職を失うことを意味する。

アンモニアを例にとると、BASFは既にアンモニアや肥料の生産を落とさざるを得なくなっているが、肥料の生産国のロシアに頼れないため、2023年には肥料不足から食糧が不足し、価格が急騰、アフリカなどの貧困国では主食の購入が難しくなるだろうとしている。

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