TSMCの創業者、米国での半導体生産に否定的見解

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台湾積体電路製造(TSMC)の創業者、張忠謀(Morris Chang)の発言が波紋を呼んでいる。

4月14日にThe Brookings Institution and Center for Strategic and International Studies の会合にゲストとして呼ばれた。

テーマは「半導体の生産は米国に戻り得るか」"Can semiconductor manufacturing return to the US?" というもの。

https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2022/04/Vying-for-Talent-Morris-Chang-20220414.pdf

初めに、彼の経歴を説明した。

 1931年 中国寧波生まれ、香港育ち、第二次大戦で重慶に移住、戦後上海に移るが、共産軍の上海占領で再度、香港へ
 1949年訪米、Harvardへ。1年でM.I.T に移る。卒業後、Texas Instrumentに入社
 Texas Instrument では最終、CEO、COOに次ぐNo.3に昇進、世界全体の半導体事業を担当
 その後、同社が消費者事業に中心を転換、半導体事業は競争力を失った。

 52歳の時に同社を辞め、General Instruments の社長に就任、Trump Towerに住んだ。
 General Instrumentsは小企業を買収、大きく育てて売却する会社で、面白くなく、1985年に退職。

 Texas Instrumentの時に台湾に工場を作ったことがあり、台湾政府の関係者がIndustrial Technology Research Instituteにリクルート。
 ITRI で半導体を開発、TSMCが設立された。

 

その後、本題の"Can semiconductor manufacturing return to the US?" に入った。

TSMCはワシントン州のCamasに工場を持つが、今回、アリゾナ州 Phoenix に工場建設を決めた。

8-inch Fabs(200mm) WaferTech L.L.C.(ワシントン州 Camas) 
12-inch GIGA FABs(300mm) 建設中 アリゾナ州 Phoenix

まず、ワシントン州の工場の経験について述べた。

まず、製造の人材が欠けている。(There's a lack of manufacturing talents to begin with.)
米国ではこれは大した問題でないかも分からないが、米国で半導体を生産する場合には大問題だ。
オレゴン(実際はワシントン州)では25年かかった。台湾から技術者を送り、改善を図り、なんとかなった。

しかし、コスト差は変わらない。同じ製品で台湾より50%高い。それでもなんとか黒字だが、台湾とは比べ物にならない。
1997年に始めた際にはコストは台湾と同じと思っていた。ナイーブ過ぎた。
数年やって、仕方ないと受け入れた。それでも儲かっているから続けているが、増設はしない。

話題は建設するアリゾナ工場に移る。

Arizonaはスケールがもっと大きい。規模も大きく、技術ももっと先端のものだ。米国政府に言われて決めた。実際には私は退任しており、現在の会長が決めた。

米国は国内で半導体の生産を増やそうとしているが、たった数百億ドルの補助金を考えている。(議会は5年間で520億ドルの補助金の法案を審議中)
そんな額では十分でない。無駄に終わると考えている。なんとか工場を作るだろうが、単位当たりコストは高い。世界市場で、TSMCのような工場と競争しえない。

米国と台湾がもっと関係を深め、共同でやっていくのはどうかとの質問に対し、政治問題に関わりたくないとし、中国との関係を問われると次のように答えた。

状況が変わることを望んでいる。現在、すでにHuaweiへの出荷を禁じられている。1年以上もだ。以前は世界の誰にも出荷できたが、そんな時代は過ぎ去った。もっと悪化しないことを望んでいる。

ーーー

発言の理由の一つは、米政府が約束した補助金の法律がいまだに通っていないことへの不満である。

バイデン米大統領は2021年2月24日、重要部材のサプライチェーン(供給網)を見直す大統領令に署名した。半導体や電池など重点4品目で安定した調達体制を整える。

2021/10/22 半導体供給問題:米国の場合 

米政府は、米国半導体業界の国内生産回帰の実現に向け、500億米ドルの補助金を決めた。

TSMCもSamusungもIntel も、これを確認したうえで新工場建設を発表している。

米上院は2021年6月8日、拡大する中国の影響力に対抗することを目的とした異例の超党派法案 United States Innovation and Competition Act を可決したが、半導体・通信機器の生産・研究の強化に5年間で約540億ドル(うち20億ドルは、深刻な供給不足に陥っている自動車向け半導体に充当)が含まれている。

2021/6/11 米上院、対中包括法案を可決

しかし、この法案は「中国対抗法案」との位置づけで、新興技術の研究開発や台湾の支援強化など様々な条項を盛り込んだため、下院との法案すり合わせに時間がかかった。

米下院は本年1月25日にようやく、中国に対抗するため先端技術の競争力向上をめざす包括法案The America COMPETES Act of 2022 を公表した。上院と同様、5年間で520億ドルの補助金を含む。

今後は下院で法案を可決したうえで、上下院で法案の一本化をまとめ、それぞれが議決することが必要で、いつ通るか不明である。

2022/2/1 米下院、半導体補助金法案を公表

なお、IntelのPat Gelsinger CEOが2021年は12月1日に、「米国政府は(TSMCのような外資ではなく) Micron TechnologyやTexas Instruments、Intelといった米国の半導体メーカーにこそ優先的に補助金を支給し支援をすべきだ」と述べた。

この時も張氏は「米国は、もう昔のような半導体が強い国に戻ることは不可能だ」と発言し、米への不満をあらわにしている。

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