米最高裁、中絶権判例を覆す最高裁の意見草案

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女性が人工中絶を選ぶ権利は憲法で保障されているという根拠になっている連邦最高裁判例(Roe v. Wade)を覆す内容の最高裁判事の意見の草案が外部にリークされた。

政治専門サイトのPoliticoが5月2日、Samuel Alito 最高裁判事がまとめた意見書の初稿だとする文書を掲載し、過去の判断を覆し、中絶を規制する南部ミシシッピ州の法律を容認する内容になっていると伝えた。

意見書初稿  https://www.politico.com/f/?id=00000180-874f-dd36-a38c-c74f98520000

アメリカでは、1973年のRoe v. Wade事件に対する最高裁判決が、女性の人工中絶権を認める歴史的な判例となっている。

最高裁は1973年のRoe v. Wade判決で、中絶は憲法に保障された権利との判断を示し、胎児が子宮の外で生きることができるようになるまでなら中絶は認められるとした。
現在は「妊娠22~24週ごろよりも前」がその基準と考えられている。

そのため、中絶に反対する勢力と女性の選択権を堅持しようとする勢力が長年、この判決をめぐり争ってきた。この「妊娠22~24週ごろよりも前」を前倒しし、それ以降の中絶を禁止する法律が各州で相次いでいる。

ミシシッピ州の州法は、妊娠15週以降の中絶を禁じているが、これについて、州内に一つしかない中絶クリニックが「憲法に反する」と訴え、最高裁が判断を下すことになっている。

連邦最高裁は今年7月初めまでに、この訴えについて判断を示す見通しで、Roe v. Wade判例が維持されるかどうかが注目されている。

今回、最高裁文書が漏洩したことに加え、初めて1973年のRoe v. Wade判例 及びこれを確認した1992年のRoe v. Casey判決を覆す内容になっていること でアメリカに衝撃を与えている。

John Roberts 最高裁長官は 文書は最高裁の「最終的な立場を示すものではない」と強調、審理の過程で草稿が外部に漏れた異例の事態について「最高裁の信頼に対する重大な背信行為だ」と断じ、経緯を調査すると表明した。

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Roe判決 :Roe v. Wade, 410 U.S. 113 (1973

妊娠中であった未婚女性Norma McCorvey(裁判での仮名Jane Roe)および中絶手術を行い逮捕された医師などが原告となり、母体の生命を保護するために必要な場合を除き妊娠中絶手術を禁止したテキサス州法が違憲であるとして、1970年3月に月のテキサス州ダラス郡の地方検事 Henry Wadeを相手取って訴えた訴訟。

通常は法律上の仮名は、John Doe、Jane Doeが使われる が、ここではJane Roeが使われている。

原告らは、州法の規定は不明確であり、また憲法上保障されている女性の中絶の権利を侵害していると主張した。

連邦最高裁は1973年1月22日、7対2でテキサス州の妊娠中絶を原則禁止とした中絶法を違憲とする判決を下した。

憲法は明文上プライバシーの権利について触れていないと認めながらも、州がデュー・プロセス・オブ・ローなしに人々の自由を奪うことを禁止した修正第14条を根拠に、プライバシーの権利を憲法上の権利として承認した。

女性が妊娠中また出産後に負う肉体的・心理的負担について強調し、プライバシーの権利は女性が妊娠中絶を行うかどうかを決定する権利を含むと判示し、これを制限する法律の合憲性は、厳格審査基準で判断される。

胎児の生命について、合衆国憲法上「人」に胎児が含まれるとは明記されていないとし、州は母体の健康を保護するやむにやまれない利益を有するほか、胎児の母体外での生存が可能となる時点以降は、州は生命の可能性を保護するやむにやまれない利益を有する。

以上の分析にもとづき、最高裁は妊娠を三半期毎に分け、それぞれについて州による中絶規制の憲法上の制限を定めた。
第1三半期においては、政府は中絶を禁止してはならず、(免許のある産科医によらなければならないなど)医療上の要件だけを定めることができる。
第2三半期に入ると、政府は中絶を禁止することはできないが、母体の健康のために合理的に必要な範囲で中絶の方法を制限することができる。
第3三半期、すなわち胎児が独立生存可能性を備えた後は、政府は母体の生命・健康を保護するために必要な場合を除いて、中絶を禁止することができる。

この結果、母体の生命を保護するために必要な場合を除き中絶を全面的に禁止したテキサス州法の規定は違憲無効とした。

同日下された別の判決では、母体の健康・生命の危険、胎児の深刻な障害、レイプによる妊娠の各場合を除き中絶を禁止していたジョージア州法が違憲とされた。
また、上記の枠組みに従わない多くの州の中絶禁止規定は自動的に無効となった。

1992年には最高裁は再び、中絶を取り上げた。Planned Parenthood v. Casey:通称 Roe v. Casey : 505 U.S. 833 (1992)

最高裁はRoe判決を5対4で維持した。

レーガン大統領が任命した3人の判事が共同で、憲法が女性の中絶の権利を保障していることを再確認する複数意見を述べた。

一方で複数意見はRoe判決の三半期にもとづく分析を批判し、代わって中絶に対する制限が女性に対する「過度の負担」となっているかどうかという、より緩やかな違憲審査基準を導入した。

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今回、Samuel Alito 判事(1950年4月生まれ、イタリア系男性、保守派、George W. Bush大統領が2006年1月任命)は、中絶問題は極めて道徳的な問題で、憲法は中絶を規制したり、禁止したりしていないとし、人工中絶の問題を、国民に選ばれた代表たちの手に戻すべきだとしている。

Abortion presents a profound moral question.
The constitution does not prohibit the citizens of each State from regulating or prohibiting abortion.
Roe and Casey arrogated that authority.
We now overrule those decisions and return that authority to the people and their elected representatives.

Politicoによると、Alito判事を含め共和党の大統領に選ばれた判事5人が今回の多数意見に同意している という。共和党のGeorge W. Bush大統領に選ばれたJohn Roberts最高裁長官はこれまでにリベラル派に同調することが多かったが、今回どのように判断するかは不明。

民主党の大統領に選ばれた判事3人は、反対意見の作成に取りかかっているという。(現時点ではBreyer判事はまだ退任していない)

 性別 born 人種背景

指名した大統領

就任日 判断傾向
Clarence Thomas 男性 1948/6 アフリカ系 George H. W. Bush 1991年10月23日 保守
John Roberts  (Chief) 男性 1955/1 白人系 George W. Bush 2005年9月29日 保守
Samuel Alito 男性 1950/4 イタリア系 2006年1月31日 保守
Sonia Sotomayor 女性 1954/6 ヒスパニック Barack Obama 2009年8月8日 リベラル
Elena Kagan 女性 1960/4 ユダヤ系 2010年8月7日 リベラル
Neil Gorsuch 男性 1967/8 白人系 Donald Trump 2017年4月10日 保守
Brett Kavanaugh 男性 1965/2 白人系 2018年10月6日 保守
Amy Coney Barrett 女性 1972/1 白人系 2020年10月26日 保守
             
Stephen Breyer 男性 1938/8 ユダヤ系 Bill Clinton 1994年8月3日 リベラル
Ketanji Brown Jackson 女性 1970/9 アフリカ系 Joe Biden   リベラル

バイデン大統領は5月3日、「女性が中絶を選択する権利を持たないと決めることを非常に懸念している」と述べた。 最高裁が2015年に合法化した同性婚の是非などの判断に影響するおそれがあるため、「あらゆる権利が問題になり、根本的な転換になる」とも語った。

与党・民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長とチャック・シューマー上院院内総務は連名で、草案を非難する声明を発表。

「もし報道が正確なら、最高裁は過去50年間で最大の権利の規制を実施する構えでいる。女性に対してだけでなく、すべてのアメリカ人に。共和党が任命した判事たちがRoe v. Wade判決を覆す判断をするなら、それは実に忌まわしい、歴史上最悪で最も弊害の多い判断として歴史に残る。リンカーンとアイゼンハワーの政党は今や、トランプ党になってしまった」と非難した。

BBCは、最高裁がRoe v. Wade判決を覆す事態に備えてすでに多くの州が州法を整備しているため、この多数意見草案が最高裁判決として下されれば、たちまち22州で人工中絶が全面禁止されると指摘する。

判決が覆されれば全米50州の26州で中絶が事実上禁止または大幅に制限される見込みだが、そのうち22州は1973年の判決前から中絶禁止・制限法を備えていたり、判決が覆ると自動的に発効する禁止・制限法を持っていたりする。

バイデン米政権は2021年9月9日、妊娠6週目以降の人工妊娠中絶を原則禁止するテキサス州法に異議を唱え、テキサス州西部地区連邦地方裁判所に同州を提訴した。

しかし、連邦最高裁は10月10日、8対1で同法の効力を容認する判断を下した。同法の合憲性については判断を回避した。

2021/12/14 米最高裁、テキサス州の中絶禁止法の存続容認


米疾病対策センター(CDC)によると、2019年のアメリカでは約63万件の人工中絶が報告された。妊娠を中絶する女性の過半数が20代で、2019年には56.9%を占めた。

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