ロシア制裁の盲点

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バイデン米大統領は3月8日、ロシア産の原油、天然ガス、石炭と関連製品の輸入を全面的に禁止すると発表した。同日に大統領令に署名し、即日発効した。

大統領は「米国はロシア経済の大動脈を標的にしている。ロシアの石油、ガス、エネルギーの輸入を全面的に禁止する」と述べ、「世界中の同盟国、特に欧州と緊密に協議して決めた。欧州の同盟国・有志国の多くが我々(の輸入禁止)に加われない参加しないと理解したうえで禁輸する」と強調した。また、「欧州と協力してロシアへのエネルギー依存を減らす長期的な戦略もつくっている」と述べた。

2022/3/9 ロシア産原油禁輸、米が追加制裁 即日発効 英は年内停止

EUの欧州委員会のフォンデアライエン委員長は5月4日、欧州議会で、ウクライナ侵攻を受けた対ロシア制裁第6弾として、ロシア産原油の段階的輸入禁止、主要銀行や放送局への制裁措置を提案した。

EUは5月30日夜、ロシア産石油のEUへの輸入を禁止することを柱とする追加制裁で合意した。
発動後ただちに3分の2の輸入が止まり、年内に90%以上になるという。

但し、天然ガスの輸入禁止は当面は無理である。

2022/5/7 EUが対ロ追加制裁案、原油の段階的禁輸やSberbankのSWIFT除外

ロシアの政府系電力会社 PJSC "Inter RAO"の北欧子会社RAO Nordic Oyは5月13日、電力代金の支払い問題でフィンランドへの送電を14日から停止すると発表した

Fingridでは、ロシアからの電力は国内需要の1割を占めるが、「スウェーデンからの輸入増や国内の供給増で不足分を賄える」としている。

フィンランドの電力自給体制はどんどん改善しており、特に風力発電が増加している。本年だけでも追加の2000メガワットの風力発電が稼働する。

フィンランドのTeollisuuden Voima Oy(TVO)は2021年12月21日、2005年から建設中だったOlkiluoto原子力発電所3号機(出力172万kWの欧州加圧水型炉:OL3)が臨界条件を達成したと発表した。本年6月からは営業運転を行う。(Olkiluoto島には、原発から出る放射性廃棄物の地下最終処分場 Onkaloが併設されている。)

2023年に電力自給が完成する予定。

2022/5/16 ロシア政府系電力会社、フィンランドへの送電を停止


ロシア産の原油、天然ガス、石炭の輸入をやめた場合、代替のエネルギーの一つが原子力発電である。ここで問題になるのは濃縮ウランである。

米国政府は3月にロシア産の天然ガス・原油・石炭の輸入を禁止したが、ウランを制裁対象にすることはなかった。

2020年時点で米国が輸入する天然ウランの17%がロシアからのものであり、原子力発電の燃料の濃縮ウランの23%がロシアから供給されている。

燃料としては、核分裂しづらいウラン238を分離し、ウラン235の割合を3~5%に濃縮する必要がある。

天然ウランのロシア依存からの脱却は比較的容易だが、ウラン濃縮ではロシア依存からの脱却が困難である。

米国政府は一時、Rosatomへの制裁を検討したが、国内の原子力事業者に深刻な影響を与えることを危惧して、その実施を見送った。

ウラン、ウラン濃縮の世界シェアは下記の通りで、ウランそのもののロシアのシェアは低い。


      https://world-nuclear.org/



ウラン濃縮会社の世界市場シェア(2020年) operational and planned (thousand SWU/yr)

能力

TVEL Fuel 28,663 43% Rosatom傘下のAtomenergopromの子会社
URENCO

欧 14,900
米 4,700

29% 英政府、蘭政府、独電力連合(E. ON及びRWE)、
各1/3出資
Cogema 7,500 11% 仏Oreno(旧Areva)傘下
中国核工業 10,700+ 16%
日本原燃 75 六ケ所村
その他 170
合計 66,708

  source:https://world-nuclear.org/

TVEL Fuel:ロシア、中国、インド、イラン、アルメニア、ブルガリア、ウクライナ、フィンランド、
      スロバキア、ハンガリー、チェコ等にある原発への燃料の供給

ウラン濃縮は、Angarsk電解化学コンビナート、Ural 電気化学コンビナート、生産合同電気化学コンビナート、シベリア化学コンビナートのロシア国内4か所

カザフスタンとロシアなどのウラン鉱石が加工される。

URENCO:1971年に設立。濃縮工場は、英 Capenhurst、蘭 Almelo、独 Gronau、米ニューメキシコ州Euniceにある。

Cogema:ウラン濃縮は仏 Georges Besse II工場

中国核工業集団公司(CNNC):2013年に蘭州市のウラン濃縮工場で100%の国産化、実用化を実現

米国のウラン濃縮能力は近年一貫して低下している。 冷戦終結以降、核兵器に充填されていた高濃縮ウラン(濃度は90%以上)から転換された安価なロシア産低濃縮ウラン(濃度は3~5%)が大量に輸入されたことで、米国のウラン濃縮企業が壊滅的な打撃を被ったことが関係している。  

フィンランドは2023年に電力自給が完成する予定としているが、いまも18基のソ連製原発が稼働し、さらに、核燃料の供給も受けている。だが、ロシアのウクライナ侵攻で、核燃料を運ぶ鉄道網が寸断された。核燃料がなくなると、電力自給は不可能となる。

電力供給に占める原発の割合が5割前後と高いスロバキアとハンガリーは鉄道輸送途絶でパニックに陥った。

編み出した解決策はロシアからの空輸で、EUはロシア機の上空通過を禁じる措置を導入したが、特例でこれを認め、3月にスロバキア、4月にハンガリーに核燃料が運ばれた。

ハンガリーの原発は、ブダペスト南方にあるPaks原発のみ。旧ソ連時代の技術で1980年代に建設され、国内電力の半分近くを供給している。ロシアの核燃料は、以前はウクライナ経由で鉄道で輸送されていたが、これが利用できなくなったため、核燃料を積んだロシア機が、ベラルーシ経由でEU加盟国のポーランド、スロバキアの空域を通り、4月6日にハンガリーに到着した。

ハンガリーの Orban首相は4月6日にPutin大統領と電話会談し、ロシアから輸入する天然ガスの対価をルーブルで支払う用意があると表明した。

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