洋上風力の世界大手、日本参入を見送りか?

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洋上風力発電に使う風車の世界大手が日本への参入を見直す。デンマークのベスタスは日本で補助金を使った工場建設を保留し、独シーメンスグループも日本向け製品の供給を絞る。

政府が洋上風力発電の事業者を公募するルールを見直しており、開発規模が小さくなって採算が取れない。

政府自らが自由な競争を制限するように方針を変更した結果、日本での新事業が取り止めになる結果ともなりうる。

日本経済新聞は7月15日、「洋上風車大手が日本工場建設中止 公募ルール変更」の記事を出したが、ベスタスは、事実に反する内容であるとし、日経に記事の修正または削除を要請した。
ベスタスは日本市場において、これまでと変わることなく、再生可能エネルギーの普及に貢献するべく精力的に取り組むとしている。

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国の洋上風力発電公募入札の評価基準が問題になっている。

日本で洋上風力発電の導入が進んでいなかったのは、①海域の占用に関する統一的なルールがない、②先行利用者との調整の枠組みが存在しないのが問題である。

これらの課題の解決に向け、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(「再エネ海域利用法」)が成立、2019年4月に施行された。
選ばれた事業者はその区域内で最大30年間の占用許可を得る。

ところが、2021年12月の大規模計画3件の公募入札で、三菱商事を中心とする企業連合がすべてを勝ち取った。最安値は11.99円/kWhで、次点とは5円程度の差があった。

240点満点のうち120点が電気の供給価格で、運転開始時期は事業能力80点のうち「事業計画の実現性」20点分の一部(点数不明)に過ぎない。

価格は最も安ければ自動的に120点を獲得できるが、運転開始はどれだけ早めても最大20点までしかとれない。 (「最も確実に事業を実現」が20点で、「早く」は評価するのか不明)

このため、公募ルールを変更することとなった。

2022/2/24 国の洋上風力発電公募入札の評価基準が問題に

経済産業、国土交通両省は6月23日、洋上風力発電に参加する事業者を増やすための新たな公募ルール案をまとめた。複数の海域で同時に事業者を募る場合、特定の企業連合がすべて落札するのを防ぐ仕組みとする。運転開始時期が早い提案への評価も高める。多くの企業が参入できるようにして、洋上風力が普及する環境を整える

新たなルールでは「計画の迅速性」を20点満点で評価する。価格への配点は120点に据え置く一方、両省が満点を得られる価格をあらかじめ定める。事業者がそれより安い価格で提案しても一律120点として評価する。

複数の海域で同時に公募する際には、企業連合あたり100万キロワットを上限とする。次点との点差が大きい海域から選ばれ、上限に達したら他の海域への提案は無効とする。

この結果、風車メーカーは、価格がいかに安くても、採用される計画が限定されることとなる。このため、日本で工場を建設するメリットはなくなることとなる。

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洋上風車は、デンマークのVestas Wind Systems A/S、スペインのSiemens Gamesa Renewable Energy S.A.、米国のGeneral Electric の3社が世界3強と呼ばれる。

GEはさきの大規模公募で3海域を総取りした三菱商事連合と組む。今後も三菱商事連合と組むと見られる。


デンマークのVestjysk Stålteknikは、1945年設立で、 2003年に世界最大の風力発電機メーカーとなるべく、デンマークのNEG Miconと合併し、社名を Vestas Wind Systems A/S に変更した。同社の風力発電機は世界80ヶ国以上で導入され、世界で20,000人以上を雇用している。

2014年4月に三菱重工との合弁により、デンマークに洋上風力発電設備に特化したMHI Vestas Offshore Wind A/Sを設立、洋上風力発電分野におけるトップクラスのシェアを獲得している。

三菱重工業が70%、ヴェスタス社が30%を出資し、2021年に日本にMHIベスタスジャパンを設立した。

2021年9月にVestas が長崎県内に洋上風力発電設備(ナセル)の工場建設を検討していることが分かった。

ナセルを風に正対させ風の効率を最適に保つためのヨーシステム、ブレード角度を変化させローターの回転速度を調整するピッチシステム、増速機や発電機を排熱から保護するための冷却システム、ローターの回転を安全に止めるためのブレーキシステム、風速と風向を検知する風向風速計、雷から風車を守るための雷保護システム等 を搭載し、風力発電機を安全かつ効率よく発電運転することを可能にしている。

経済産業省の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」を利用して工場を建設するとみられ た。

補助対象:建物・設備の導入等
補助率:大企業は1/2以内
補助上限:100億円
事業期間:原則3年で、大規模投資案件は4年

しかし、今回の新しいルールが適用されると、風車メーカーは、価格がいかに安くても、採用される計画が限定されることとなる。

今回、納入先の公募落選で、同社は長崎での工場建設を保留とした。

スペインのSiemens Gamesa Renewable Energy S.A.も、日本での洋上風車の供給を見送る方針を明らかにした。


政府自らが自由な競争を制限するように方針を変更した結果、日本での新事業が取り止めになる結果となり得る。

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