2025年10月アーカイブ

九州大学大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、同大学病院の田中義将助教、佛坂孝太大学院生らの研究グループは、自然科学研究機構生理学研究所の箕越靖彦教授らとの共同研究により、マウスを用いた最先端のオプトジェネティクスなどの神経科学的手法を用いて、排便を制御する脳の中枢が主に「橋」の「バリントン核(Barrington's nucleus)」に存在することを初めて実証した。

慢性便秘症は日常生活の質を著しく低下させるだけでなく、長期生命予後にも影響を及ぼすことが知られている。

慢性便秘症は生活の質に影響を及ぼすとともに近年、循環器疾患と脳血管疾患のリスク要因となり、慢性便秘症患者の生存率は健常人よりも 15 年生存率が 20%以上低いことが明らかとなり、注目されている。

慢性便秘症は、排便回数の減少を主症状とする大腸通過遅延型と排便困難を主症状とする便排出障害型に大別される。

大腸通過遅延型は大腸が便を送る動きが悪いため、排便の回数や量が減少する便秘である。

便排出障害型は直腸まで便が下りてきているのに、肛門の外に押し出す力が弱くなりスムーズな排便ができない便秘である。

今回の研究は便排出障害型の原因の解明につながることが期待される。

正常な排便は、腹圧などによる直腸圧の上昇肛門の弛緩による協調運動により達せられる。

協調運動に異常を来した状態が便排出障害型の慢性便秘症だが、その協調運動をつかさどる脳排便中枢の詳細に関しては解明されていなかった。

排便には中枢神経系が関与していることは分かっていたが、脳のどの領域がどのように排便を制御しているのかは未解明であった。

今回、脳の「橋」にある「バリントン核(Barrington's nucleus: Bar)」と青斑核(LC)が排便を制御していること、さらにその内部の異なる神経群が排便の開始や持続に異なる役割を果たしていることが分かった。

「橋」は 脳の部位の一つ。脳幹という生命維持に関与する意識・呼吸・循環などを調節する領域に存在する。

「バリントン核」は脳幹の「橋」にある神経核で、主に排尿の調節に関わっていて排尿中枢として以前より知られていた。

バリントン核と青斑核の VGluT2 神経が、即時かつ非持続的な腸管収縮を引き起こし、排便開始時のぜん動に関与していることが示唆された。

一方、バリントン核の CRH 神経は遅れて持続する腸管収縮を引き起こし、排便開始後の持続的なぜん動を担うことが判明した。

VGluT2(小胞性グルタミン酸トランスポーター2)はグルタミン酸を貯蔵するタンパク質で、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)は視床下部から分泌されるホルモンである。


本研究成果は米国の医学雑誌「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に2025年10月10日に掲載された。

https://www.cmghjournal.org/article/S2352-345X(25)00176-6/fulltext

2025年のノーベル生理学・医学賞は 大阪大学の坂口志文特任教授、米Institute for Systems BiologyのMary E. Brunkow、米Sonoma BiotherapeuticsのFred Ramsdellに授与

 授賞理由 "for their discoveries concerning peripheral immune tolerance." 「末梢免疫の抑制に関する発見」

制御性T細胞は自己に対する異常な免疫反応を抑えて自己免疫疾患を防ぐ。

米国の2氏は自己免疫疾患に関わるFoxp3という遺伝子を発見した。後に坂口氏らはFoxp3が制御性T細胞の成長を制御することを突き止めた。

以下の図は ノーベル委員会発表文添付資料より

細菌やウイルスなど外敵を退治する免疫機能が誤って自分の体を攻撃しないよう抑える免疫細胞「制御性T細胞」の存在を1995年に世界で初めて確認し、その働きを解明した業績

坂口氏は70年代、生後3日で胸腺を除去したマウスに自己免疫疾患のような症状が表れたとする先行研究に着目。胸腺で作られる「T細胞」というリンパ球の中に、自己の組織への攻撃を抑える役割を持ったタイプが存在すると推測し、研究を始めた。

探索の結果、「CD25」というたんぱく質を表面に持つリンパ球が、マウスの体内でこうした役割を果たしていると突き止め、1995年に論文発表した。後に「制御性T細胞」(Regylatory T cell )と名付け、ヒトにも存在することが分かった。

ブランコウ、ラムズデル両博士は2001年、自己免疫疾患を起こしているマウスとヒトで、FOXP3という遺伝子に変異があることを見つけた。その後、坂口氏はFOXPが制御性T細胞において重要な役割を果たしていることを突き止めた。

こうした成果から現在、1型糖尿病などの治療に向けた研究が進められている。また、一部のがんでは、制御性T細胞ががん細胞を免疫の攻撃から守っていることも明らかになってきており、制御性T細胞を減らす方法でも治療への活用が模索されている。

Regylatory T cell = 制御性T細胞

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