政府は9月19日の閣議で、2030年代に原発ゼロを目指すことなどを盛り込んだ「革新的エネルギー・環境戦略」自体の閣議決定を見送った。
2012/9/17 「革新的エネルギー・環境戦略」
閣議決定した文章は次の通りで、新戦略自体は参考文書というあいまいな扱いにした。
今後のエネルギー・環境政策については『革新的エネルギー・環境戦略』を踏まえて、関係自治体や国際社会等と責任ある議論を行い、国民の理解を得つつ柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する。
閣議決定の文章そのものには、2030年代にゼロにするという表現は入っていない。
古川元久国家戦略担当相は閣議後の会見で、これについて、「実際の政策決定プロセスを見据えたもので、内容を変えたわけではない」と強調。そのうえで「確かな方向性に向けて足元から一つ一つ具体的な政策を詰めていくことが極めて重要で、それが最終的に2030年代に原発ゼロが可能になる状況を作っていくものになる」との認識を示した。
脱原発を打ち出した戦略に反発を強める経団連などの経済界や原発関連施設立地の自治体、米国などに配慮し、政策の調整の余地を残すためとみられる。
閣議決定の効力は、原則としてその後の内閣にも及ぶというのが従来からの取扱いとなっている。
(新たな閣議決定により前の閣議決定に必要な変更等を行うことは可能)閣議決定見送りにより、次の内閣への拘束力はなくなった。
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具体的な案件についての閣僚の発言は以下の通りで、矛盾もみられる。
1)40年運転制限制の厳格適用
藤村官房長官は9月18日の記者会見で、40年以上経過している日本原子力発電敦賀原発1号機と関西電力美浜原発1、2号機を廃炉にする方針を示した。
敦賀1号機、美浜1、2号機について「原則に基づいてやる。廃炉にされます」と語った。
実際に廃炉にするかどうかの判断は、9月19日に発足する原子力規制委員会に委ねられる。
このほか、東京電力福島第一1号機が40年以上経過しているが、1~4号機は既に4月19日付で「廃止」されている。
数年以内に40年に達する原発は下表を参照。
原子力規制委員会が9月19日に発足した。
田中委員長は運転開始から40年を超える原発の稼働延長について「相当困難と思っている」と述べた。
原発の再稼働について「ストレステストの評価の前に、防災の基準を作ることが前提となる。ストレステストは一つの政治的な方策で、とらわれることはない」と慎重な姿勢を示した。
2)建設中の原発の扱い
藤村修官房長官は18日午前の記者会見で、現在建設中のJパワーの大間原子力発電所と、中国電力の島根原発3号機について「設置許可を取り消すということではない」と明言した。
稼働させるかどうかは「原子力規制委員会が独立の立場から安全性を確認していく」と指摘した。
枝野経産相は9月15日、Jパワーの大間原発(進捗率38%)と中国電力の島根原発3号機(93.6%)の建設継続を容認する考えを表明した。
東電・東通原発1号機(進捗率9.7%)については、再開は認められないとの考えを示した。
「革新的エネルギー・環境戦略」では、以下の通りとしている。
2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入
① 40年運転制限制を厳格に適用
② 原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働
③ 原発の新設・増設は行わない。
このうち、既に建設を開始している2つについては、「原発の新設」に当たらないとしたもの。
しかし、仮に来年に運転を開始したとしても、(40年運転制限では)2050年代まで稼働できるため、新戦略の「30年代の原発ゼロ」目標と矛盾する。(遅くとも2039年にゼロにする場合、たった26年で停めることとなり、採算面からあり得ないこととなる。)
3)「もんじゅ」
日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」については、
「もんじゅ」は廃棄物の減容、有害度の低減等を目指した研究を行う。
年限を区切った研究計画を策定・実行し、成果確認の上、研究を終了。
となっている。
「もんじゅ」はMOX燃料(プルトニウム・ウラン混合酸化物)を使用し、消費した量以上の燃料を生み出すことのできる高速増殖炉の実用化のための原型炉。
1995年にナトリウム漏洩による火災事故を起こし、2010年5月に2年後の本格運転を目指して運転を再開したが、同年8月の炉内中継装置落下事故により停止中。
平野文部科学相は18日に福井県庁で西川一誠知事と会談し、「もんじゅ」の取り扱いについて、「従来の取り組みから変更しているつもりはない」との方針を説明した。「廃棄物の減量などは副次的な目的」と強調した。
一時は研究炉にし、高速増殖炉実用化をやめることも検討されたが、結局は元通りということになる。
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原発の状況は以下の通り。(2012/9
時点)
超党派の国会議員の「原発ゼロの会」は6月28日、全国の原発50基を経過年数や地盤の状況、周辺人口などで採点した「原発危険度ランキング」を発表した。
その危険度順位別に並べた。
(総合ポイントが高いほど危険)
2012/6/29 原発危険度ランキング (2012/9)
|
は即時廃炉にすべき24基 |
順 位 |
原子炉 | 事業者 | 形式 | 能力 万kw |
運転開始 |
40年 まで 年数 |
総合 |
備考 | |
ー | 敦賀1号 | 原電 |
BWR (Mark-I) |
35.7 | 1970/3/14 | 0 | 12.00 | 直下活断層の可能性大 | 40年運転制限 |
1 | 大飯1号 | 関電 | PWR | 117.5 | 1979/3/27 | 7 | 10.75 | ||
大飯2号 | 関電 | PWR | 117.5 | 1979/12/5 | 7 | 10.75 | |||
ー | 美浜2号 | 関電 | PWR | 50.0 | 1972/7/25 | 0 | 10.45 |
非常用炉心冷却装置作動実績 (1991) |
40年運転制限 |
3 | 美浜1号 | 関電 | PWR | 34.0 | 1970/11/28 | 0 | 10.35 | 40年運転制限 | |
ー | 浜岡4号 | 中部 | BWR | 113.7 | 1993/9/3 | 9.70 | 要請停止中(東海地震震源域) | ||
ー | 浜岡3号 | 中部 | BWR | 110.0 | 1987/8/28 | 9.45 | |||
ー | 浜岡5号 | 中部 | ABWR | 138.0 | 2005/1/28 | 9.45 | |||
4 | 美浜3号 | 関電 | PWR | 82.6 | 1976/3/15 | 4 | 9.45 | ||
5 | 島根1号 | 中国 |
BWR (Mark-I) |
46.0 | 1974/3/29 | 2 | 9.30 | ||
6 | 高浜1号 | 関電 | PWR | 82.6 | 1974/11/14 | 2 | 9.05 | ||
島根2号 | 中国 | BWR | 82.0 | 1989/2/10 | 9.05 | ||||
ー |
柏崎 刈羽4号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1994/8/11 | 8.80 | 被災(中越沖地震) | ||
8 | 高浜2号 | 関電 | PWR | 82.6 | 1975/11/14 | 3 | 8.55 | ||
ー |
柏崎 刈羽2号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1990/9/28 | 8.45 | 被災(中越沖地震) | ||
ー | 敦賀2号 | 原電 | PWR | 116.0 | 1987/7/25 | 8.25 | 直下活断層の可能性大 | ||
ー |
柏崎 刈羽3号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1993/8/11 | 8.20 | 被災(中越沖地震) | ||
ー | 東海2号 | 原電 | BWR | 110.0 | 1978/11/28 | 6 | 8.00 | 被災(東日本大地震) | |
ー | 女川1号 | 東北 |
BWR (Mark-I) |
52.4 | 1984/6/1 | 7.65 | 被災(東日本大地震) | ||
ー |
柏崎 刈羽6号 |
東電 | ABWR | 110.0 | 1996/11/7 | 7.60 | 被災(中越沖地震) | ||
ー | 柏崎 刈羽1号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1985/9/18 | 7.55 | 被災(中越沖地震) | ||
ー | 福島Ⅰ 5号 |
東電 |
BWR (Mark-I) |
78.4 | 1978/4/18 | 6 | 7.50 | 被災(東日本大地震) | |
ー |
柏崎 刈羽5号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1990/4 /10 | 7.45 | 被災(中越沖地震) | ||
ー |
柏崎 刈羽7号 |
東電 | ABWR | 135.6 | 1997/7/2 | 7.20 | 被災(中越沖地震) | ||
ー | 女川2号 | 東北 | BWR | 82.5 | 1995/7/28 | 7.00 | 被災(東日本大地震) | ||
ー | 福島Ⅰ 6号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1979/10/24 | 7 | 6.90 | 被災(東日本大地震) | |
9 | 志賀1号 | 北陸 | BWR | 54.0 | 1993/7/30 | 6.70 | |||
ー | 福島Ⅱ 1号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1982/4/20 | 6.45 | 被災(東日本大地震) | ||
10 | 高浜3号 | 関電 | PWR | 87.0 | 1985/1/17 | 6.40 | |||
高浜4号 | 関電 | PWR | 87.0 | 1985/6/5 | 6.40 | ||||
ー | 福島Ⅱ 2号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1984/2/3 | 6.05 | 被災(東日本大地震) | ||
ー | 福島Ⅱ 3号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1985/6/21 | 6.05 | 被災(東日本大地震) | ||
ー | 福島Ⅱ 4号 |
東電 | BWR | 110.0 | 1987/8/25 | 6.05 | 被災(東日本大地震) | ||
ー | 女川3号 | 東北 | BWR | 82.5 | 2002/1/30 | 5.95 | 被災(東日本大地震) | ||
12 | 志賀2号 | 北陸 | ABWR | 135.8 | 2006/3/15 | 5.85 | |||
大飯3号 | 関電 | PWR | 118.0 | 1991/12/18 | 5.85 | 再稼働 7/9フル | |||
大飯4号 | 関電 | PWR | 118.0 | 1993/2/2 | 5.85 | 再稼働 7/25フル | |||
ー | 東通1号 | 東北 | BWR | 110.0 | 2005/12/8 | 5.75 | 被災(東日本大地震) | ||
15 | 泊3号 | 北海 | PWR | 91.2 | 2009/12/22 | 5.75 | |||
16 | 伊方1号 | 四国 | PWR | 56.6 | 1977/9/30 | 5 | 5.60 | ||
17 | 泊1号 | 北海 | PWR | 57.9 | 1989/6/22 | 5.55 | |||
18 | 玄海1号 | 九電 | PWR | 55.9 | 1975/10/15 | 3 | 5.25 | ||
19 | 泊2号 | 北海 | PWR | 57.9 | 1991/4/12 | 5.20 | |||
20 | 伊方3号 | 四国 | PWR | 89.0 | 1994/12/15 | 4.20 | |||
21 | 川内1号 | 九電 | PWR | 89.0 | 1984/7/4 | 3.90 | |||
22 | 川内2号 | 九電 | PWR | 89.0 | 1985/11/28 | 3.70 | |||
23 | 伊方2号 | 四国 | PWR | 56.6 | 1982/3/19 | 3.45 | |||
玄海2号 | 九電 | PWR | 55.9 | 1981/3/30 | 9 | 3.45 | |||
25 | 玄海3号 | 九電 | PWR | 118.0 | 1994/3/18 | 2.85 | |||
26 | 玄海4号 | 九電 | PWR | 118.0 | 1997/7/25 | 2.75 | |||
ー | 福島Ⅰ 1号 |
東電 |
BWR (Mark-I) |
46.0 | 1971/3/26 | 0 | 2012年4月19日付で「廃止」 | ||
ー | 2号 | 78.4 | 1974/7/18 | 2 | |||||
ー | 3号 | 78.4 | 1976/3/27 | 4 | |||||
ー | 4号 | 78.4 | 1978/10/12 | 6 | |||||
稼働・休止合計 |
54基 - 4基 | うち稼働中 2基 | |||||||
高速増殖炉 もんじゅ |
休止中 | 従来計画通り | |||||||
大間 | Jパワー | ABWR | 建設中 | 建設継続 | |||||
島根3号 | 中国 | ABWR | 建設中 | 建設継続 | |||||
東通1号 | 東 電 | ABWR | 建設中 | ? |
PWR:加圧水型、BWR:沸騰水型、ABWR(Advanced
BWR):改良型沸騰水型
BWRのうち、格納容器がMark-1型は問題とされている。
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