キプロスとトロイカ(欧州中央銀行:ECB、欧州委員会、国際通貨基金:IMF)は3月25日、キプロスの金融支援策で合意に達し、その合意内容がブリュッセルのユーロ圏財務相会合で承認された。
合意内容は以下の通り。
1.すべての銀行の保険対象預金(10万ユーロ未満)は、EUの関連規則に従って完全に保護される。
2.国内2位のLaiki Bank(Cyprus Popular Bank)を株主、社債保有者、保険対象外の預金者の負担で整理する。
銀行破綻処理制度により、キプロス中銀の決定に基づいて進める。
Laiki BankはBad Bank とGood Bank に分離する。
Bad Bankには10万ユーロ以上の預金と不良貸し付け債権を残し、段階的に 整理する。
損失がいくらかは不明だが、預金のうち、40%程度が失われるとの試算がある。残りのGood Bankは、銀行整理フレームワークに基き、第1位銀行のBank of Cyprusに編入する。
3.Bank of Cyprus
資本再編が発効するまで、保険対象外(10万ユーロ以上)の預金のみ凍結する。
Bank of Cyprusは、保険対象外預金と社債の株式転換を通じて資本を再編する。
プログラム終了時点の自己資本比率が9%になるよう設計する。預金の50%以上が株式に変換されると見込まれている。
キプロス政府はこれにより、ユーロ圏から支援の前提条件として求められていた58億ユーロの財源を確保し、ユーロ圏などは最大100億ユーロの支援を実施する。
今回の仕組みは預金者への課税でなく、3月22日に急遽可決され、法制化された銀行破綻処理制度に基づくため、新たな議決を必要としない。
付記
ユーロ圏17か国は4月12日、キプロスの財政再建策を正式決定した。
当初総額170億ユーロが必要で、そのうち100億ドルをユーロ圏とIMFが支援する計画であったが、総額は230億ドルに増加した。ユーロ圏が90億ユーロ、IMFが10億ユーロを融資する。
キプロスはLaiki Bankの破産処理、Bank of Cyprusの資本再編のほか、増税と支出カットで対応する。金準備の売却も検討されている。
ーーー
当初EU側が、EU関連規則で保護されている10万ユーロ未満の預金にも課税を要求したため、国民の反対を受けたキプロス議会が承認せず、混乱を生じた。
決着までに以下の経緯があった。
3月16日 | ユーロ圏財務相会合は
キプロスに対して、銀行預金への課税という前例のない措置を盛り込んだ100億ユーロ規模の救済計画に合意。 2013/3/17 ユーロ圏、預金課税を条件にキプロス支援を決定 |
|
3月19日 | キプロス議会は銀行預金に課税する法案について採決し、反対36、賛成0、棄権19、欠席1で否決。 2013/3/20 キプロス情勢、混迷 |
|
3月20日 | キプロス財務相、訪露し、25億ユーロの返済期限(2016年)の延長と金利引き下げを要請 (3月22日、トロイカの決定待ちとして交渉打ち切り) |
|
3月21日 | キプロス中銀、金融機関の無秩序な破綻を回避するための整理・再建策を盛り込んだ法案を公表 | |
3月22日 | キプロス議会、金融システムの整理・再建法案を可決。 経営が悪化している同国第二位のLaiki Bank(Cyprus Popular Bank)に適用。 通常業務を受け継ぐGood Bankと不良債権処理に専念する機関Bad Bankに分割 Good BankはBank of Cyprusに統合
キプロス議会、年金基金やその他国家資産を財源とする「団結基金(solidarity fund)」を創設する法案を可決 ギリシャのPiraeus Bank、キプロスの2大銀行(Bank of CyprusとLaiki Bank)のギリシャ支店を買収 |
|
3月23日 | キプロス政府とトロイカ、Bank of Cyprusの10万ユーロ超の預金に25%課税することで合意。 議会採決を目指すも失敗 |
|
3月24日 | キプロス大統領がEU首脳と11時間以上の談判で25日未明に合意 |
ーーー
今回の処理により、低税率と緩やかな規制で集めていたロシア等からの預金に損害を与えることとなり、オフショアセンターとしての地位は危うくなる。
付記
3月28日、キプロスの銀行が約2週間ぶりに営業を再開した。
小切手の換金禁止
1日の預金引き出し限度額を300ユーロに制限海外送金は輸入代金支払いや留学生への送金に限定
5000ユーロ以上の商取引をすべて中銀が精査国外への現金持ち出しは1000ユーロに制限、空港での厳しい手荷物検査
「規制はユーロより格下の『キプロス・ユーロ』を生む」(ロイター通信)との見方が出ている。
コメントする