会計検査院による原子力損害賠償に関する会計検査

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会計検査院は10月16日、国会法の規定による検査要請を受けた「東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果」を報告した。(要旨

2013年9月末時点での損害賠償関連の状況は以下の通り。

東京電力福島第1原発事故の賠償金支払いの流れ
毎日新聞記事より
詳細 2011/5/16 福島原発損害賠償の政府支援の枠組み 
原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応する支援組織=原子力損害賠償支援機構
    原子力事業者である電力会社に機構への参加を義務づける。
 
  ・資本金 140億円
    東電 2,379百万円、北海道 254百万円、東北 418百万円、中部 622百万円、北陸 236百万円、
    関西  1,229百万円、中国 331百万円、四国 254百万円、九州 660百万円、日本原子力発電 332百万円、
          Jパワー 168百万円、日本原燃 117百万円
    民間合計 7,000百万円
          政府 7,000百万円
   
  ・ 一般負担金(日本原子力発電、Jパワー、日本原燃も負担)
          2011年度 通年で1630億円だが、2011年9月発足のため、815億円で合意
        東電 283億円、関電 157億円、九電 84億円、中部電 62億円、東北電 53億円など
   
    2012年度 1008億円(うち、上期 504億円)
        東電 388億円、関電 184億円、九電 99億円、中部電 72億円、東北電 62億円など
   
  ・特別負担金
   東電は毎年の事業収益等を踏まえて設定される特別負担金の支払を行う。
   東電は現在は赤字のため、特別負担金を免除されている。
   
機構は、損害賠償のために資金援助(資金の交付、資本充実等)
    2012年に1兆円の優先株を取得
       2012/5/25  東京電力、1兆円の優先株発行、公的管理下に
   
政府は、機構に対し5兆円の交付国債の交付、政府保証の付与等必要な援助を行う。

交付国債:
政府が現金を支払う代わりに発行し、交付する無利子の国債。
金額が見通せないときなどに活用され、受け取った側が資金が必要な時にその都度現金化できる。
発行時に全額予算計上する必要がないため、当面の国の財政悪化を防ぐことができる。

5兆円のうち、既に3兆483億円を現金化し、東電に支給
但し、下記の通り、負担金収入から1285億円を国庫に納付

機構は、原子力事業者からの負担金等をもって必要な国庫納付を行う。

      2011年分の一般負担金収入815億円のうち、799億円を納付
    2012年上期分の一般負担金収入504億円のうち、 486億円を納付


⑤東電の収支は以下の通り。

  ・政府からの出資受け  1兆円

  ・機構への出資  23.79億円

  ・機構への一般納付金 2011年分 283億円、2012年上期分 199億円

    ・賠償資金交付受け  3兆483億円(交付決定額 3兆7893億円)
   ・賠償金支払い額    2兆9100億円

 

会計検査院は上記の数値をもとに、3つのケースで下記の分析を行った。

総合特別事業計画に記載の収支計画等をもとに
 ①特別負担金を免除する場合
 ②特別負担金として、税引前当期純利益の1/2を納付させる場合
 ③特別負担金として、税引前当期純利益の3/4を納付させる場合

 (実際には、原発の稼働も容易ではなく、利益が出ない恐れが強く、ケース①の公算が大きいと思われる)

1) 資金交付額を5兆円とした場合の回収
   (実際にはもっと膨らむ恐れが強い)

  回収期間

東電負担

他電力負担
一般負担金 特別負担金 合計 一般負担金
ケース① 31年 1兆7441億円 0 1兆7441億円 3兆2558億円
ケース② 17年 9564億円 2兆2626億円 3兆2191億円 1兆7808億円
ケース③ 14年 7893億円 2兆7426億円 3兆5320億円 1兆4679億円

* 一般負担金の総額を2011年度の納付水準と同じ年1630億円と仮定

2) 回収を終えるまでに国が負担することとなる借入れ(借換え)等に係る支払利息の総額
   (国は交付国債換金を銀行からの借り入れで手当てしている)

    ケース① 約794億円
    ケース② 約450億円
    ケース③ 約374億円
    * 借入利率を1年物国債と同水準の0.1%と仮定(今後利率上昇の可能性あり)

3) 国は金融機関への利息の支払用に、原子力損害賠償支援資金として100億円を保有している。
   しかし、その資金は2015年度中に全額が取り崩され、追加の資金投入が必要となる。
   その額は、

    ケース① 約682億円
    ケース②  約338億円
          ケース③ 約262億円
 

会計検査院の所見

2013年9月27日までに計2兆9100億余円の賠償金が被害者に支払われているものの、個々の事態に即して被害者との交渉を経て金額が確定するという賠償の性格上、賠償金の総額についての十分な見通しはいまだ得られておらず、また、除染に係る費用が本格的に賠償の対象として加わることになった場合には、賠償の規模は更に増大する。

一方、原子力損害の賠償に関する国の支援は、今後とも継続することが見込まれ、機構を通じた資金交付の規模は更に増加することも予想される。

このため、賠償の総額及び時期について確度の高い見通しをできるだけ早期に立てた上で、財政負担の規模と時期について的確な見通しを明らかにすることが、東京電力に対する国の支援について国民の理解を得る前提となる。そして、このような前提を整えることと併せて、原発事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の対応ばかりでなく、機構法の本来の仕組みについて関係者が十分な説明を行うことにより、東京電力に対する支援に係る国民負担について理解を得ていく必要がある。

会計検査院としては、除染に係る費用の見通しとその負担が不透明であることや、柏崎刈羽原発が2013年9月末現在稼働していないなど、東京電力の業務運営が総合特別事業計画における見込みとは異なるものとなっていることなどのために、総合特別事業計画の大幅な改定が見込まれるなどの状況を踏まえた上で、2013年度以降に実施された支援等について引き続き検査を実施して、検査の結果については取りまとめが出来次第報告することとする。


なお、会計検査院が東京電力が保有する資産を調べたところ、活用されていない資金や売却できる不動産が約220億円分あることが分かった。東電は福島第1原発事故の賠償や除染にかかる費用を確保するために不要財産の売却を進めているが、検査院はさらに検討を加えるよう求めた。

 

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