建設石綿訴訟の控訴審、原告全面勝訴 

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建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み、肺がんや中皮腫などを発症したとして、京都府内の元建設労働者と遺族計27人が、国と建材メーカー14社に計約9億6千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が8月31日、大阪高裁であった。

裁判長は、1審京都地裁判決(2016年1月)に続いて国とメーカーの責任を認め、計約2億9千万の支払いを命じた。

1審では認められなかった「一人親方」と呼ばれる個人事業主に対する国の責任も認めた。労働安全衛生法には「労働現場で生じる健康障害について労働者以外の保護を念頭に置いた規定がある」と指摘。この規定は「一人親方についても安全を図る趣旨」であるとし、一人親方も同法で保護されるべき対象で救済対象だと判断した。

一人親方」への国の責任を認めたのは2018年3月の東京高裁判決(「建設現場で労働者とともに作業に従事した一人親方らは法律上、保護される」とした)に続き、2件目。

他の判決では、一人親方は労働関連法令の「労働者」に含まれないとして責任を認めていない。
但し本件の1審(京都地裁)では、労働安全衛生法の保護対象に含まれないとして救済を否定したものの、一人親方を保護する法律を定めなかった立法府の責任を問うことで解決されるべき問題
とした。

全国で起こされている「建設アスベスト訴訟」で高裁判決は3件目。

国の責任 メーカーの責任 一人親方への責任
東京高裁 2017/10 X  労働関係法令が保護対象とする「労働者」でない。
東京高裁 2018/3 X 因果関係不明 〇 建設現場で労働者とともに作業に従事
大阪高裁 2018/8 〇 労働者以外の保護を念頭に置いた規定

国とメーカー双方に賠償を命じるとともに、一人親方に対する国の責任も認めるという原告側全面勝訴の判決は初めて。今後の同種訴訟に影響を与えそうだ。

これまでの建設石綿訴訟の判決は次の通り。(〇は有罪、Xは無罪、一人親方の〇は補償対象、Xは補償対象外)

  判決 一人
親方
メーカー  
横浜地裁(1陣)
  
2012/5 X X X

原告の請求を全て棄却

「1972年時点で、石綿粉じん曝露により肺がん及び中皮腫を発症するとの医学的知見が確立した」
2006年に至るまでアスベスト建材の使用を全面禁止しなかったこと等について、「著しく合理性を欠く」と言うことまではできない。

   東京高裁 2017/10 X 国とメーカー4社の責任を認めて計約3億7200万円  

1972年ごろまでには石綿が健康被害を及ぼすとの医学的知見が確立していた。
国が1975年に建設作業での石綿吹き付けを原則禁じるなどの対策を講じてから5年たった1980年までに、事業者に対して屋内建設現場で作業する労働者に防じんマスクを着用させる罰則付きの義務化を図らなかった点などを違法と判断。 (1981年1月以降は違法)
義務化が実現した1995年4月までに現場で作業していた本人や遺族計44人への賠償を認めた。

(メーカー)
1975年時点で石綿の危険性などを建材に警告表示する義務があった。
石綿製品のシェアなどから、エーアンドエーマテリアル、ニチアス、エム・エム・ケイ、神島化学工業に賠償責任があるとし、本人や遺族計39人への賠償を認めた。

(一人親方)
労働関係法令が保護対象とする「労働者」には当たらず、国は賠償責任を負わない。

東京地裁
  
2012/12 X X 国に対する請求を一部認容
170人に総額10億6394万円の賠償命令

国は石綿の吹き付け作業では1974年、切断などでは1981年に規制の義務を負っていたが怠り、違法だ。

遅くとも1981年以降
・事業者に防じんマスクの着用を罰則つきで義務づける
・建材に「肺がんなどを生じさせる」と警告表示する
などの対策をとれば、多くの被害を防止できたと結論づけた。

 

この時期以降に屋内で建築作業に従事した労働者に限り、国の賠償責任がある。
 
屋外作業では危険性を容易に認識できたと言えず、零細事業主や個人事業主についても国は責任を負わない。

(メーカー)石綿を含有した建材の製造販売企業に共同不法行為は成立しない。

2012/12/10 建設労働者アスベスト訴訟、国に初の賠償命令

  東京高裁 2018/3 X 一人親方」(被災者ベースで150人ほど)を含む327人に計約22億8140万円を支払うよう国に命じる判決

遅くとも1975年10月(改正特定化学物質障害予防規則施行日)には防じんマスクの着用などを義務付けるべきだった」と指摘した。
1審で明確に示されなかった終期を2004年9月30日(改正労働安全衛生法施行令施行日前日)とした。

「建設現場で労働者とともに作業に従事した一人親方らは法律上、保護される」

メーカーへの請求は、「健康被害との因果関係が立証されていない」などとして、棄却した。

屋外作業に関わっていた原告も救済の対象にならなかった。

2018/3/21 建設石綿訴訟の控訴裁判決、一人親方も救済 

福岡地裁
  
2014/11 X X 国に対する請求を一部認容
36人に総額1億3700万円の賠償命令

建設現場での防じんマスク着用は「被害防止対策としては唯一有効な手段」

国は遅くとも1975年までには石綿被害の危険性を認識できた。
同年から罰則付きでマスク着用を義務づけるべきだった。
危険性を知らせる警告表示について、建材や建設現場などで義務づけるべきだった。

1995年まで国がこうした規制を怠ったのは「違法」

(メーカー)
加害企業の特定が出来ない。
「建材メーカーは製造販売の時期や製品がそれぞれ異なり、加害行為の一体性を一律に認めることはできない」
「42社以外に損害を与える企業がなかったと証明されていない」

(一人親方)
個人事業主で労働基準法が適用される労働者に当たらない。

大阪地裁 2016/1 X X 国の責任を一部認める。
原告14人に計9746万円

国は遅くとも1975年には、石綿吹き付けなどに従事した作業員が石綿関連疾患を患う危険性を認識できた。
国は1975年時点で、事業者に対して労働者に防じんマスクを使用させるべき義務を明示的に定めるべきだった。

(メーカー)被害者が実際に扱った石綿建材を具体的に特定するものではない。

(一人親方)労働関係法令の保護対象ではない

2016/1/27 建設アスベスト訴訟で国が3度目の敗訴

京都地裁 2016/1 X









国に対しては原告15人に総額1億418万円、建材企業9社に対しては原告23人に総額1億1245万円の支払いを命じる

国については、
・吹付作業者に対する規制については1972年10月1日以降、
・建設屋内での石綿切断等作業については1974年1月1日以降、
・屋外での石綿切断等作業については2002年1月1日以降、
国が、アスベスト建材について防じんマスクの着用や集じん機つき電動工具の使用、さらには警告表示を義務づけることの規制を怠ったことの違法性を認めた。

(メーカー)
主要なアスベスト建材企業であるエーアンドエーマテリアルやニチアス、ノザワなど9社について、被害者23名との関係で共同不法行為責任(民法719条2項)を肯定し、同種訴訟で初めて企業の賠償責任を認めた。
国の賠償の対象とされてこなかった「一人親方」ら個人事業主も含まれる。

(一人親方)
労働安全衛生法の保護対象に含まれないとして救済を否定したものの、「(一人親方を)保護する法律を定めなかった立法府の責任を問うことで解決されるべき問題」

2016/2/2 アスベスト訴訟でメーカーに初の賠償命令

大阪高裁 2018/8 国に対し、国の対策は十分ではなく、防塵マスクの着用や警告表示を義務付けなかったことは違法」などとして、原告全員に計約1億8千万円を支払うよう命じた。

(一人親方) 労働安全衛生法には「労働現場で生じる健康障害について労働者以外の保護を念頭に置いた規定がある」と指摘。規定は「一人親方についても安全を図る趣旨」であるとし、一人親方も同法で保護されるべき対象で救済対象だと判断した。

(メーカー)
「建材に含まれる石綿の量や危険性などを具体的に表示すべきで、警告表示義務違反があった」と認定。
20~25%程度のシェアを持つ10社に計約1億1千万円の支払いを命じた。

札幌地裁 2017/2 X X 国に計1億7600万円の賠償を命じた。

国は1979年には建設現場での石綿の危険性を認識していたと指摘した。
1979年以前に就労していた元労働者には賠償を認めず

(メーカー)
発症原因の企業を特定できないとして退けたが、国と建材メーカーによる損害補償制度の創設の必要性を指摘した。

(一人親方)
「一人親方」として働いた期間の国の責任も認めなかった。

横浜地裁(2陣) 2017/10 X

国とメーカー2社 (ニチアスとノザワ) に対し、計約3億円を原告39人に支払うよう命じた。国とメーカーの賠償対象が8人。
国のみが29人。メーカーのみが2人。

国は遅くとも1976年までには防じんマスクなどの使用や作業現場への警告表示を義務付けるべきだった。

(メーカー)
同時期までにアスベストの危険性を警告する義務があったのに怠ったと認定
発症原因だとほぼ特定できた建材メーカー2社に賠償を命じた。

「一人親方」
労働関連法令の「労働者」に含まれない。

 

 

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