ブラジルのオデブレヒト、民事再生を申請、LyondellBasell がBraskem買収を取り止め

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ブラジルのコングロマリットでゼネコン最大手のOdebrecht SA (Braskemの親会社)が985億レアル(約2兆7,580億円)の負債を抱えて、6月17日にブラジルの法的再建手続きである裁判上の再生手続き(Recuperacao Judicial)の申し立てを行った。

ブラジル史上最大の負債額と報じられている。再生手続き開始が決定されれば、同社は60日以内に再生計画を提出しなければならない。

Odebrecht グループは2014年に政治家や国内大手企業を巻き込む汚職事件「ラバ ・ジャット」に加担していたことが発覚した。2014年以降、業務の一部が停止に追い込まれ、多くの失業者を出すなど国内経済への影響が大きかった。

ブラジル連邦警察2014317日に国営石油公社Petrobrasをめぐる汚職事件への捜査通称ラバジャット捜査Operação Lava Jato=Car Wash)を開始した。

同事件ではPetrobrasが長年にわたって常習的に取引先企業との契約で水増し請求をさせそこから捻出した裏金を政党や有力政治家に繰り返し渡していたとされ政財界を巻き込むブラジル史上最大の汚職事件となった

Odebrecht は贈賄側として軒並み汚職事件に関与したとされ201567月にはOdebrecht および そのCEO起訴された2008年からOdebrechtの経営に当たっていた Marcelo Bahia Odebrechtは19年の懲役刑を受けた。

さらに逮捕された幹部が司法取引に応じて行った証言から中南米等諸外国の大統領有力政治家への贈賄も明らかになり汚職の構図が国境を越えて根深いものであることがわかった

20161221日に米国司法省が報告を発表しOdebrecht および子会社Braskemなどが2001~2016年にわたり中南米ブラジルアルゼンチンベネズエラコロンビエクアドルペルーパナマグアテマラメキシコドミニカ共和国フリカのポルトガル語圏アンゴラモザンビーク) の計12か国において100以上総額33.4億ドルに及ぶ公共事業受注の便宜を図ってもらう見返りとして少なくとも総額78,800万ドルの賄賂を渡していたことが明らかになった 。

Odebrechtは米国で贈賄工作を行いスイスの銀行口座を用いて裏金の出入金を繰り返していたことから米国の外国汚職防止法Foreign Corrupt Practices Actに抵触するとして摘発された 。
同社は米国司法省と35.6億ドルOdebrecht 26.0億ドルBraskem 9.6億ドルの制裁金を20年かけて米国ブラジルスイスの司法当局に支払うことを定めた起訴猶予合意を締結した。

 正大学経済学季報第67巻第4 オデブレヒト汚職事件と中南米諸国への影響  


Odebrecht は1944年創業で、創業50年の1994年には21カ国で事業を行い、従業員3万4千人の企業に成長 、2013年には従業員19万3千人を抱えるに至った。

だが、事件により、事業契約見直しや罰金徴収など、様々な形で影響を受け、現在の従業員は4万8千人 に減っている。

グループ内での貸し借りも含めた負債が985億レアルに上り、経営破綻に陥った 。諸銀行への負債は510億レアルで、内145億レアルはBraskemの株式が担保だという。

再生申請で交渉の対象となる負債額は836億レ アルで、この額には司法取引で命じられた罰金は含まれていない。

Odebrecht や債権者の銀行の多く は再生申請回避の意向であったが、連邦貯蓄銀行が負債取立を強行しようとし、民事再生申請となった。

今年5月には、子会社で砂糖・エタノール製造のAtvos Agroindustrial Participacoes SAが民事再生を申請した。
石油・ガス関連の
Ocyan(旧称 Odebrecht Oil & Gas)は司法外手続きで50億レアルの負債返済に関する合意を成立させたが、6月にはLyondellBasell が昨年来交渉してきたBraskem買収を取り止め(後記)、経営建て直しへの道を狭めた。

なお、今回の再生申請には下記の子会社等は含まれていない。

Braskem、建設事業のOEC(旧称Odebrecht Engineering & Construction)、石油のOcyan(旧称Odebrecht Oil & Gas)、造船のEnseada、物流のOdebrecht Transport 、住宅建設の Incorporadora ORなど。

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Braskemの株主は次の通りで、OdebrechtとPetrobrasが共同で意思決定をすることとなっている。 

議決権 全体
Odebrecht 50.1% 38.3% 共同意思決定
Petrobras 36.1% 36.1%
その他 2.9% 25.6%

「その他」に議決権 0.96%をもつ双日が含まれる。

国営石油会社Petrobras SAは2016年1月に Braskem の持株 36.1% を売却することを決めた。

Petrobrasは1300億ドルに上る負債を圧縮し、資金繰りを確保するため、2016年に140億ドルの資産売却を検討していた。

問題は、Braskemの主株主のOdebrecht とPetrobrasが意思決定を共同で行っており、Petrobrasの持分売却の条件に、Odebrechtが売却先をパートナーとして受け入れることが含まれており、Odebrechtが決定を保留していることで売却交渉が止まったままになった。

2016/3/21 Petrobras のBraskem 売却構想 

オランダの化学大手 LyondellBasellは2018年6月15日、ブラジルのOdebrechtとの間で、同社傘下のBraskemの取得を巡り独占的な買収交渉に入ったと発表した。交渉は初期段階で、合意に至るかは不明と説明している。

その後、売却価格や取引の全体の仕組みなどで交渉が続き、売却への期待でBraskemの株価は1年で16%上昇した。

本件は本年3月時点で、予想より時間がかかりそうと報じられた。

Lyondell側はBraskemが2017年Annual Report を米国SECに提出するまでは契約を結ばないと決めているが、Braskemの監査会社が同社の内部管理の評価を終えていないため、まだ提出できないでいる。
結局、5月15日までに提出できなかった。同社の米国預託証券(ADR)はNY証券取引所で上場廃止になる。

また、BraskemとPetrobrasの間のナフサの長期供給契約の締結が遅れている。Petrobrasの新CEOは前任者のまとめた契約書にまだサインしていない。

Odebrechtは当初、Braskem の株とLyondellBasellの株とを交換する予定であったが、Odebrechtの財政が悪化し、現金が必要になった。
これにより、新たにLyondellとの交渉が必要になる。

Lyondell はOdebrechtとの間で合意を得た後に、共同で意思決定をしているPetrobrasと交渉を始める必要がある。


そして LyondellBasellは 6月4日、Braskem買収に関するOdebrechtとの交渉を終了したと発表した。

「LyondellBasellとBraskemの統合は両社の力、製品ポートフォリオ、販売地域を補完しあい、素晴らしいものだ。しかしながら、慎重に検討した結果、交渉を続けないことで一致した」としている。

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