日米貿易協定で最終合意

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安倍晋三首相とトランプ米大統領は9月25日、ニューヨークでの首脳会談に合わせ、新たな日米貿易協定の合意文書にあたる共同声明に署名した。

1 我々、安倍総理大臣とトランプ大統領は、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定に係る最終合意を確認し、歓迎する。我々は、今後、可能な限り速やかにこれらの協定の署名を行い、それぞれの国内手続が完了した後、早期に発効させることを共に望む。
2 日米貿易協定は、世界のGDPの約3割を占める日米両国の二国間貿易を、強力かつ安定的で互恵的な形で拡大するために、一定の農産品及び工業品の関税を撤廃又は削減する。日米デジタル貿易協定は、この分野における高い水準のルールを確立し、日米両国がデジタル貿易に関する世界的なルールづくりにおいて引き続き主導的な役割を果たすことを示している。
3 こうした早期の成果が達成されたことから、日米両国は、日米貿易協定の発効後、4か月以内に協議を終える意図であり、また、その後、互恵的で公正かつ相互的な貿易を促進するため、関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の課題についての交渉を開始する意図である。
4 日米両国は、信頼関係に基づき、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定を誠実に履行する。日米両国は、これらの協定が誠実に履行されている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない。また、日米両国は、他の関税関連問題の早期解決に努める。
5 我々は、これらの成果を、日米関係の力強さの具体的な証左として歓迎する。

その後の双方の発表による合意内容は次の通り。

(アメリカからの輸入)

日本政府の資料によると、牛肉、豚肉、小麦、乳製品、ワインについてはTPPと同等の関税撤廃もしくは削減が実施される。
一方、コメについては無関税枠をゼロとした。脱脂粉乳やバターなど乳製品の輸入枠も設けられない。

トランプ大統領によると、日本は70億ドル相当の米農産物について市場を開放し、米産牛肉や豚肉、小麦、チーズ、トウモロコシ、ワインなどへの関税が大幅に引き下げられるか、撤廃される。
USTRによると、日本に輸出される米農産品の約90%が免税か優遇措置の対象になるという。


・ 牛肉は現在38.5%の関税が最終的に9%に引き下げられるほか、豚肉は、価格の安い肉にかけている1キロ当たり最大482円の関税が最終的に50円になる。

・ 小麦もTPP交渉時の合意内容を踏襲し、アメリカ産の小麦には最大15万トンの輸入枠を設ける。

・ コメは、TPP交渉で日本がアメリカに設定した年間7万トンの無関税の輸入枠は設けない。乳製品も、バターや脱脂粉乳などの新たな輸入枠は設けない。

牛肉は、米国からの輸入量が急増した場合にセーフガード(緊急輸入措置)を発動する基準数量を、2020年で242千トンとすることで合意した。

セーフガード数量はTPP参加国は、当初 590千トン、2027まで毎年 2%、2032まで1% up となっている。この数量は当初の米国を含む数量のままで、米国のTPP離脱後も変更されていない。

このままでは米国枠分が二重になり、低価格の輸入牛肉が急増するため、政府はTPP参加国とセーフガード基準数量を再協議する意向だが、難航するとみられる。
(現在のTPP協定は米国離脱判明後に締結したものであり、また、米国はTPPに再参加するわけでなく、日米間の協定に過ぎないため、相手が応じる可能性は少ない。 )

(アメリカへの輸出)

・ 米国は日本からの切り花、しょうゆなどのほか、工作機械、蒸気タービン、自転車などの幅広い工業機器に対する関税を撤廃または引き下げる。

・ 牛肉は、低い関税が適用される枠(年200トン)が実質的に拡大する。

・ 自動車と関連部品の関税の扱いは継続協議となる一方、協定には「さらなる交渉による関税撤廃」と書き込まれ、将来的な関税撤廃が明記された。

TPP合意では、乗用車の関税率(2.5%)は15年目から削減を始め、自動車部品(主に2.5%)は8割以上の品目で即時に撤廃することになっていた。

今回は決まらなかったが、世界貿易機関(WTO)ルールでは貿易協定は貿易額ベースで約9割の関税撤廃が必要と解釈されている。日本から米国への輸出額の約3割を占める自動車の関税について撤廃方針を盛り込む必要があった。

・ 自動車の232条追加関税や数量規制については下記の通り。

共同声明には「協定が誠実に履行されている間、協定や共同声明の精神に反する行動は取らない」と明記され、両首脳は26日の会談で、協定の履行中はアメリカが通商拡大法232条に基づく日本車への追加関税を発動しないことを確認した。

茂木外相は、「この協定に反するような対応がなければ誠実に履行されていると考えるが、その間については、追加関税が課されることはないことを首脳会談で安倍首相がトランプ大統領に確認している」と説明した。

ライトハイザーUSTR代表は、同232条に基づく日本への関税発動は米国の意図するところではなく、両国とも誠意を持って問題に取り組んでいくと述べた。

日本からの自動車の輸出を制限する数量規制については、茂木外務大臣とライトハイザー通商代表との間で、日本には発動されないことを確認した。

(デジタル貿易協定)

国から企業へのアルゴリズムなどの開示要求を禁止など

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協定の正式な署名は、両国それぞれで法的な確認作業を終えた後に行われる予定で、日本政府は、来月の臨時国会に協定の国会承認を求める議案を提出し、早期の承認・発効を目指す。

米国は、今回の協定内容について議会の承認は必要ない。

米国連邦議会はサービスや知財を含む包括的な自由貿易協定としての日米FTAでないと承認しない姿勢である。

このままでは大統領選挙までに議会承認が得られない可能性が高いため、米国側は関税率5%未満の製品の関税撤廃・削減にとどめることで、議会承認を経ずに協定を発効させる。 (貿易促進権限法:通称TPA法の特例措置)

付記

日本は10月7日、持ち回りの閣議で決定、その後、日米代表の杉山晋輔駐米大使とライトハイザー通商代表が、米ワシントンのホワイトハウスで正式に協定文に署名した。トランプ大統領が同席し、「米国の農家にとってきわめて画期的だ」と成果をアピールした。

政府は来週にも協定の承認を求める議案を国会に提出する。

2020年1月1日の発効を目指す。

付記 11月19日の衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決、参院に送付された。

付記 日米貿易協定、日米デジタル貿易協定が12月4日午前の参院本会議で、与党などの賛成多数で承認された。2020年1月1日の発効が固まった。



これまでの経緯については 2019/9/18 米、対日貿易協定に署名へ 議会に正式通知

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