米上院、債務上限の一時引き上げ可決 

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米上院は10月7日、政府の債務上限を一時的に引き上げる法案を可決した。下院は10月12日に可決する予定。
ただし、本格的な問題解決ではなく、単に2カ月だけ時間稼ぎをしただけである。今後も緊張が続く。

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米国では債務上限が法律で決まっている。予算の運営のためには、別の法律により、これらを引き上げる必要がある。

2019年7月22日に2021年7月末まで債務上限の2年間棚上げを決めたが、その期限がきた。

2019年3月1日時点の債務上限の22兆289億ドルに、それ以降 7月31日までに追加で借り入れた約6.5兆ドルを加えた約28.401兆ドルが新しい債務上限となり、上限を引き上げるか、凍結するかを新たに決めるまでは、借入は出来ない。

2021/7/26 米国、債務上限復活 

また、10月1日から始まる新年度の予算も月末までに通る可能性はなく、政府機関閉鎖を避けるためには暫定予算が必要である。

このため、下院は9月21日、本年12月3日までのつなぎ予算と、連邦政府の債務上限の適用を2022年12月16日まで凍結する措置を一体化した民主党提出の法案を可決した。

2021/9/23 米下院、つなぎ予算・債務上限凍結一体化法案を可決 

しかし、上院共和党は9月27日、この法案を本会議で採決することを否決した。60票が必要だが、共和党、民主党から各1議員が棄権したほか、民主党の1議員が反対にまわった。

このため、民主党はつなぎ予算と債務上限を切り離し、とりあえずつなぎ予算を通すこととした。

上下院は9月30日に、10月1日から始まる2022会計年度の一部資金を手当する12月3日までのつなぎ予算案を可決した。

2021/10/2 米、政府機関の閉鎖回避 12月までのつなぎ予算成立  

別途、下院は9月29日遅くに債務上限適用を2022年12月まで凍結する法案を可決したが、上院では共和党が反対を続けた。

つなぎ予算否決なら政府機関閉鎖となり、債務上限を引上げ又は凍結しなければ米国がデフォルトとなるため、共和党もあくまで反対し続けることは出来ない。

しかし、強硬に反対を続けるのは、来年秋の中間選挙のための選挙戦略である。債務増の原因が民主党にあることを選挙民に印象づけ、民主党反対にまわらそうとするものである。

民主党は現在、10年で総額3.5兆ドル規模の財政支出をめざす法案の成立をめざしている。共和党の上院でのフィルバスターを使っての採決拒否を防ぐため、過半数で可決できる「予算決議案→財政調整措置」を使う。

共和党はこれに反対しており、債務上限を引き上げるざるを得ないのは民主党のこの法案のためであると主張、民主党の責任で債務上限を引上げろと主張している。

他方、民主党は財政赤字はトランプ政権時の多額の支出も影響しており、共同で2022年12月までの凍結法案を通すべきだと主張した。

最終的に民主党は、共和党上院トップのマコネル院内総務の案に乗らざるをえなくなった。

①まず債務上限を4,800億ドルだけ引き上げる。これは12月3日までの債務借入額に相当する。

②民主党は現在単独での可決を目指して進めている10年で総額3.5兆ドル規模の支出法案を修正し、債務上限を本格的に引き上げる法案を折り込む。

これによると、債務上限引き上げは「予算決議案→財政調整措置」方式により上院で共和党の反対、民主党の賛成(同数の場合、上院議長である副大統領が1票)で可決することになり、共和党は民主党が債務を引き上げたと主張できることになる。


上院は10月7日、債務上限を4,800億ドル引き上げる法案を審議した。

まず、法案を審議するかどうかについて投票した。共和党内でマコネル院内総務の案に反対し、徹底反対を主張する議員がいるなかで、11名の議員が賛成し、合計の賛成が61票となり、フィリバスターは禁止され、法案は過半数で議決できることとなった。

  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成 11 48 2 61
反対 38 38
棄権 1 1
合計 50 48 2 100


このあと、法案が審議され、共和党の2議員が棄権したため、50対48で可決された。

  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成 48 2 50
反対 48 48
棄権 2 2
合計 50 48 2 100


下院が議決するのは確実で、大統領の署名を得て、法案となる。

付記

下院は10月12日、可決した。バイデン大統領は10月14日にこれに署名、成立した。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 219 219
反対 206 206
棄権 6 1 7
合計 212 220 432 3


但し、予算は
12月3日までのものである。債務も同日頃までの借入で今回の上限に達する。

両党はそれまでに10月1日からの年度の予算を通す必要がある。民主党はそれまでに10年で総額3.5兆ドル規模の支出法案に本格的な債務上限引上げを折り込み、可決する必要がある。

しかし、民主党内で、党内の急進左派が子育て支援などの「3.5兆ドル法案」(予算決議に基づく具体的な予算案)を可決するまでインフラ法案に賛成しないと主張し、財政膨張を懸念する中道派議員は3.5兆ドル法案の規模圧縮を要求し、与党内の調整がつかない状況である。

とりあえず、政府機関閉鎖とデフォルトは回避したが、たった2か月延ばしただけである。今後も緊張は続く。

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