石油化学の復権に向けて

| コメント(1)

これまで日本の石油化学の構造改善の変遷をみてきた。

日本の石油化学産業の構造改善-1 の最初に、武田薬品工業欧米の医薬品会社及びICIが明確な方向付けを行い、大胆な合従連衡や思い切った「選択と集中」を行っているのに対して、日本の石油化学は、1980年から2000年頃までの歴史をみると、各社ともはっきりした目標をもって構造改革をやってきたとは思えない、と述べた。

そろそろ本気の構造改革が必要ではないだろうか。

忘れられた「2004年問題」 でニッセイ基礎研究所の百嶋徹氏の論文を引用したが、同研究所のリポートに同氏の別の論文(2003年)をみつけた。タイトルは「日本の製造業復権に向けた論点整理」。
http://www.nli-research.co.jp/doc/syo0304c2.pdf

その中の「石油化学の事例分析」で同氏は次のように述べている。
① 過剰設備につながる横並びの投資行動
・・・ 石化業界では、過剰設備を削減すべきとの総論では一致しているにもかかわらず、98 年以降も競争力強化や不足ポジションの解消を理由に、エチレンやPP の増設が横並びで行われてきた。これにより、過剰設備が拡大しており、石化業界は「合成の誤謬」に陥っていると言わざるをえない。このような長期ビジョンを欠く投資行動から脱却しない限り、業界の過剰設備体質は変わらないと思われる。

② 合理的な価格体系構築を阻む競争戦略の非対称性
・・・ 好況期には過当競争により、適正利潤を得られない一方、不況期には協調的な企業行動に転じる傾向があるようにもみえ、このような「好不況期における競争戦略の非対称性」が素材系製造業の低収益性の背景にあると思われる。

(knak コメント:独禁法改正等もあり今後は不況期にも過当競争による値下げ競争が起こる。過当競争が低収益性の原因)

論文の結論部分を以下に引用する。

 ・・・ このように考えると、製造業復権に向けて解決すべき問題点の本質は、不明確な経営思想・戦略ビジョンに収斂してくる。例示するならば、「○○相談役が手掛けた事業だから撤退する訳にはいかない」、「大幅赤字の主力工場でも私の社長時代には止めたくない」、「ライバルの△△社が撤退しないから我が社も撤退しない」、「足下の収益は厳しいが、過去の経験則ではもう暫くすると回復してくるはずだ」、「このやり方で過去に大きな成功を収めたので、今後も通用するはずだ」といった考え方である。
 経営トップが説得力のある経営思想をトップダウンで覚悟をもって実行していくことが必要であり、これによって従業員や株主などステークホルダーからの共感も得られ、全社一丸の体制が構築できると考えられる。経営トップおよび従業員、株主などのステークホルダーが各々責任をもって自立しながらも、明確な経営思想を共有する下で一致団結する経営形態が求められるのではないだろうか。

コメント(1)

百嶋徹氏の論文(2003)の中で、退出費用を計算していますが、コンビナ-トは、そのパイプラインでつながっている企業、その他関連企業を入れたら、何倍になると考えます。企業の集合体であることが、コンビナ-トの意思決定を統一できない大きな原因のひとつですね。しかしながら、引用された結論部分が、今の化学企業のすべてを象徴していると考えます。末端の化学品までの横並びの過当競争もこのパタ-ンです。現在の日本の化学企業は、過去の経験則で、まだまだ動いていますし、その経験の繰り返しから、脱却するには、もう少し時間がかかりますね。
いつも客観的な知識・情報、ありがとうございます。
ヘッドコ-チ -まだ筋肉痛.

コメントする

最近のコメント

月別 アーカイブ