事業統合に関する公取委の判断の変遷

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これまで日本の石化の変遷をみてきたが、多くの事業統合が行われた。これらに対する公取委の対応も変わってきた。

当初は「販売シェア25%又は15%以上でかつ業界1位」が「規制基準」であった。実際には25%を超えると認められないというのではないが、一般にはそのように認識されていた。

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塩ビ共販:

1981/12月、日本ゼオン、呉羽化学、住友化学、サン・アロー化学(徳山曹達系)の4社は塩ビ共同販売会社の骨格を最終的に決定、直ちに公取委との協議に入った。
これに対して公取委は、このグループの共販計画については「販売シェアが24%と規制基準(25%)を下回っているし、競争制限につながることはない」とし承認した。
しかし4グループ化による共販については
①販売市場を4分割するので価格競争がほとんど行なわれなくなる可能性が強い
②グループによっては販売シェアが市場支配力の目安である25%を超えるところもある
③共販により構造改善効果が不明確ーー
などをあげ、「4グループ化がほぼ同時期に共販体制をスタートさせることは独禁政策上問題点が多い」とし、
「先頭グループの共販活動の様子を見守ったうえで判断したい」とした。
1982/6
月に通産省と公取委はようやく、塩化ビニル共販会社設立で合意、4-5ヶ月遅れて残り3社がスタートした。

ポリオレフィン共販:

日本の石油化学産業の構造改善-2 産構法時代記載の通り、当初は業界は3グループに集約することで合意し、第1グループ(三菱化成・三菱油化・旭化成・昭和電工・東燃石化・出光石化・日本ユニカー)が公取委に申請したが、公取委は「7社の共販会社案はシェアが大きすぎる」として拒否し、通産省もバックアップしなかった。
結局共販4グループ案で申請したが、公取委は、ユニオンポリマーのシェアは3品目合計で約33%で、「品目によってはシェアが高過ぎるものもあるはず」とし、また、シェアの高い上位3グループの合計シェアが約80%になるとして難色を示した。
これに対して業界では特殊品を共販の対象製品から除外することとした。これによって最大シェアのユニオンは27%台まで低下、上位3グループの合計シェアも67%に落ち着き、承認を得た。

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1994年8月、公取委は「合併ガイドライン」を発表した。「市場シェアが25%を超えると合併は認められない」といった誤解を解き、企業の合併が独禁法違反となるかどうかの審査基準を示した。
ガイドライン改正のポイントは以下の通り。
・合併後のシェアが25%を超えても、ただちに独禁法違反とならないと明記
・選別基準の明確化。
・「シェアの較差が大きい場合」を「シェアの差が1位の会社のシェアが4分の1以上」に替える。
・合併審査の場合の考慮事項に注釈をつけ内容を説明。
・将来の輸入増加や合併による効率性の向上は、合併審査の際に競争促進要因として考慮すると明記。

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以下の説明の公取委判断の詳細は公取委ホームページの「主要な結合事例」 http://www.jftc.go.jp/ma/jirei.htm をご覧ください。

三菱油化と三菱化成の合併:

公取委は審査の結果、以下の理由でこれを承認した。
・合併新会社はエチレンの生産能力シェアは22.3%で第1位だが、国内に10%台のシェアを有する有力な競争者が複数存在する。
・また、アジア諸国や欧米からの輸入圧力がある。
・個々の製品についても、いずれも有力な競合者がいる。

三井石油化学と三井東圧の合併:

公取委は以下の点から、取引分野における競争を実質的に制限することとなるとはいえないと判断した。( )は合計販売シェア
・輸入品の存在
フェノール(57.3%)、アセトン(27.6%)、アニリン(52.0%)、ビスフェノールA(48.0%)
・競争業者の存在:PP(26.2%)、フェノール、アセトン、アニリン、ビスフェノールA、TBA(49.3%)
・代替品の存在: AMS(80.8%、=PMIに置き換わり)
・ユーザー意見(海外価格見ながら交渉):フェノール、アセトン、アニリン、ビスフェノールA 
・自己消費:アニリン、TBA

*三井合併で販売シェアの高いものが認められ、業界で話題になった。これに対して公取委経済取引局の鵜瀞・企業結合課長は次の通り述べている。
「化学業界でもこれまで合併や統合で25%を超えたことは何回もある。三菱化学ができた時も25%ないし、15%以上かつ業界1位という取引分野は、確か10品目以上あったと思う。超えていても問題ないとして通してきたことは珍しくない。
25%というのば違法性判断基準ではなく、選別基準でしかない。生産能力または販売シェアが合併統合によって25%を超える場合、あるいは15%以上でかつ業界1位となれば、重点審査しますよ、と言っている。そのための選別基準とちゃんと書いてあるのに、それを超えたら違反とか何とか思っている人がおられる。・・・独禁法があるからできない、やりたいこともやれないといったストーリーを自分たちでつくろうとしているのではないかとさえ思いたくなる。」

新第一塩ビの設立:

塩ビ全体では出荷数量シェアは16.1%だが、そのうちペーストはシェアが40%を超える。これに対して公取委は
・ペーストは塩ビの1種で、塩ビ全体では問題なし。
・念のためペーストだけ見ると、他の1社シェアが30
%で他2社も10%と有力な競争者があり、また輸入圧力もあり、一部の汎用品も代替品として機能する
として承認した。大洋塩ビ、ヴイテックは問題なし。

日本ポリオレフィンの設立:

公取委はHDPEについては新会社のシェアが24.3
%かつ第1位となるが、競争業者の存在と輸入圧力から問題なしとした。
しかし、PPについては日本石油化学の三井石油化学、三井東圧両社との事業提携を考慮すると問題であるとした。Jpoftc
これに対して日本石油化学から浮島PPと泉北ポリマーの交換で三井東圧との関係を遮断し、承認された。なお、共販はそれぞれ解散した。

グランドポリマー:

PP販売シェアは17.2%かつ第2位となるが、10%を超えるシェアを有する有力な競争業者が複数存在するとして承認。

日本エボリューの設立(三井化学/住友化学製造JV):

公取委は以下の理由でこれを承認している。
・両社のL-LDPE生産能力を合算すると28.3
%、第1位となるが、本件は新工場建設で提携するもので、競争単位の数は減少しない。
・生産されるL-LDPEはそれぞれ独自で行い、既存LDPEの販売を含めて両社の販売面での協調関係が醸成されるおそれは小さい。
・生産能力シェア20%を超える競争事業者が存在する。

テクノポリマー設立(JSR/三菱化学 ABS事業統合):

公取委は有力な競争業者が存在するため、統合そのものは問題ないとしたが、
三菱化学が世界第1位で100万トンの能力を持つ奇美実業(台湾)に10
%の資本参加をし、奇美製品の日本での販売(2万トン程度)を扱っているのを問題視し、日本における競争を実質的に制限することとなるおそれがあると指摘した。Technoftc

このため、三菱化学は奇美との提携の解消を含めて措置をとると返事し、公取委はこれを前提に承認した。


A&Mスチレン→PSジャパン:

1998年の旭化成/三菱化学によるA&Mスチレン設立については販売・生産シェアが35%前後かつ第1位となるが、以下の理由で承認された。
・本件共同出資会社のほかに,有力な競争業者が複数存在する。
・ポリスチレン樹脂は,いわゆるユーザーの使い慣れの問題も少ないことから,ユーザーは比較的容易にポリスチレン樹脂の購入先を変更できる。
・アジア各国のメーカーは生産コストが国内メーカーに比べて低いために,潜在的な輸入圧力が働いている。

その後、出光石化のPS事業を含めるPSジャパンの設立についても輸入圧力の存在を理由に認められたが、2年後の大日本インキ化学のPS事業統合については輸入圧力がないとして認められなかった。

なお、公取委は2005年1月に東海カーボンと三菱化学のカーボンブラック事業の統合について、
・競争業者に供給余力が存在しない
・輸入品は,国内需給ひっ迫に対応して数量は増加しているものの,アジア地域においても需給がひっ迫していることによりCBの輸出国に供給余力がない状況が続く
として統合が競争を実質的に制限するおそれがあると指摘、両社は統合を取り止めた。

*競争政策研究会はこれらについて、
・企業結合審査において循環的な需給要因を考慮すべきかどうか
・需給要因の継続性についてどのように考慮すべきか(今後の需給状況をどう評価するか)
・輸入品の価格競争力をどう評価すべきか
を問題点として挙げている。

(2006/02/20 「競争政策研究会の「企業結合審査における改革の進展状況と今後の課題」参照)

(続く)

コメント(2)

公取委の調整って今も必要なんですかねぇ。確かに日本国内での価格支配力って末端までの影響は大きいので大事だと思いますけど、すぐ隣国からの脅威を無視するわけにもいかないでしょう。経産省とかがもっと主体的にコンビ再編とかに関わってくれば話は別なんでしょうけど、まぁそれも期待薄ですねぇ。ということは海外との連携、または海外での日本化学メーカー間の連携を深めていく動きがより顕著になってくるような気がしますね。

業界再編の障壁・障害になっているのが日本の公取です。もっと広く世界の市場を見て審査をするべきと思いますが。自分の国の国際競争力を考えないと、いかんですなぁ。ポリエチレンの再編が起きる場合、今回のPSの件と同じように扱われたら、どうなるでしょう。コンビ再編は….

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